第32頁目

 しばらくすると、その女性はノートパソコンを閉じて、その場で立ち上がった。

 何気に何も無かったように接するには、今がチャンスだろうとオレは思った。

 オレは木の陰から出て行き、いかにも今歩いてきましたよ。とアピールした姿を見せようとした時、

「きゃーーーーーーーーーー」

 と言う悲鳴が響き渡った。

 その悲鳴を耳にしたオレは、足を止めるどころか、また木に陰に隠れ戻った。


 今度は、何事だ? !

 オレはその光景を観て、再度驚く。

 可愛い顔して、トカゲの脳天を踏みつけている・・・

 オレは唖然 とする。

 ぐったりどころか、スプラッタ状態のトカゲ。

 虫をも殺せないような少女?が、今度はトカゲも殺してしまった。


 さて、どのタイミングで偶然をよそおって近づこうか?

 トラブル?。ハプニング?。アクシデント?。それとも、サプライズ?

 どの言葉で表現したらいいのだろう?・・・

 まあ、サプライズに限りなく近い、ハプニングで行こうか?。


 わっ!。いきなり女性がこっちに向かって歩いてくる・・・

 ん?。あれ?

 ま、曲がった・・・

 突然、右に曲がったぞ。

 えっ?

 何かしている・・・

 道端に落ちている団栗を追っているようにも見える。

 でも、いったい何しているんだ?

 女性が葉に隠れた団栗を捜すために、一度しゃがんだ。

 おっ、しゃがんだ!

 この時だ!

 この瞬間だ!

 ・・・い、今だ!

 いいタイミングだ!!

 このタイミングだ!。

 オレは、絶好のタイミングで、女性に飛び出す事が出来た。

「あ、あのぉぉ、ちょ、ちょっとぉ、あの、あの・・・

 おた、た、おたずねしたいことがあるんですが、

 い、いいですか?よろしいですか?・・・」

 何故か手が震えるほどの凄い緊張をしながらオレは問う。

 すると、その女性は見上げながら振り向く。

「えっ?ワタシですか?」

 見上げる女性は、右に首を傾げながら静かに立つ。

「そ、そうです、ちょ、ちょっと道に迷っちゃって・・・帰り道知っていますか?」

「えっ?。目印とか付けないで、この樹海に入ったんですか?」

 首を左に傾げ直すと、オレに疑問する。

 えっ、や、やっぱり樹海だったのかww。

「それで、何処に帰られるんですか?」

「確か、『 ゴウカマンション 』と言う名前のボロアパートです」

「えっ。ああ、じゃあ、ワタシのいるアパートと同じですね。

 じゃあワタシが案内してあげます」

 やっぱりボロアパートの住人だったかw

「もしかして、昨日引っ越してきた、五号室の人ですか?」

 また、部屋のナンバーで覚えられていたか。

「はい。昨日五号室に引っ越してきた人ですw」

 オレの称号は何気に『 五号室の人 』なんだな w。


 そして、その女性は、団栗を追いながら又歩き出す・・・

 えっ?団栗を追っている?

 もしかして、目印?迷わず帰れるように目印?・・・

 まるで、ヘンゼルとグレーテルだなw。

 オレは女性の横に付きながら、帰り道を歩いて行く・・・


「目印を付けないと迷い込んで、この森から出られなくなるから、今度来る時は、何か目印でも付けたほうがいいですよ」

 やさしい笑顔を見せながら言う。

 とても、蛇やトカゲを簡単に退治できるような女性には見えなかった。

「ワタシ、九号室の『 崖淵 羽美( がけふち うみ )』といいます。」

 がけっぷち?海?うみ?・・・

 とても身投げしそうな名前だな w

「あっ、オ、オレ。藤沢 優紀といいます。

 あの・・・さっき、向こうの森で女性がタイヤと格闘していたんですが、ご存知ですか?」

 何気におしめギツネの事を問う。

「ああ、八号室の最強女(もしめ)さんの事ね?。

 彼女、趣味で自己流の格闘家をやっているらしいの」

 へっ?自己流?趣味で格闘家?どうりで、構えと型がバラバラなはずだ。

 格闘家なのか?。格闘技じゃダメなのか?

 オレはツッコミを入れたくなっていた。

「ところで、どの土地から引っ越して来たんですか?」

 羽美さんがオレの方を向きながら言う。

 えっ?土地?

 場所の事か?地域?都道府県の事か?

「それが、どこか覚えていないんですよ。

 以前にどんな仕事をやっていて、どんな所にいて、何をしていたのかも・・・」

 オレは、正直に応える。

「 えっ?もしかして、それって記憶喪失?って事になるのかしら?」

 驚いた顔も可愛い羽美さん。

「断片化されているんですよ、オレの記憶が・・・」

「ワタシのいるアパートの楽しい住人と接していれば、記憶が戻る知れませんよ?・・・いや、きっと戻りますよ。でも本当に戻るといいですね。」

「ぁははは・・・、オレも、そうなれば嬉しいですよ」

 わりと軽く対応されて、苦笑いをするオレだった。


 そして、ボロアパートに辿りつく。

 羽美さんは、オレに深くお辞儀をして、九号室へと歩いていった・・・


 うん。とても可愛い。きっとこれが【 萌え 】ってやつだな。

 称号は、『 恐怖の萌え少女 』とでも、仮りに付けておこう。

 とても、メイド喫茶で働かせたい。そんな気分がするオレだった。 

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