第39話 地鎮祭の日取りは風水で決めろ!

 すごい男、Sさんの現場がひと通り終わりに近づいたころ、次の現場の打診がありました。

 こんどの現場は施主が日本人ではなく、中国系フィリピン人。とうぜん日本語はしゃべれません。

 そこでこんどの所長ことプロジェクトマネージャーは営業部長。フィリピン人の奥さんをもらい、こっちに住み着いた現地採用の日本人。英語はもちろん、タガログ語まで駆使するフィリピンに染まった男です。

 ちなみに「特命武装検事 黒木豹介」が大好きらしい。


 短期間のうちに、よくもまあ、これだけ癖のある男の下にばかりつけたもんだ。


 私を早く一人前にしようという、支店長の愛を感じてしまい、泣けてきます。


 で、この営業部長、日本から転勤してきた我々と違い、現地採用なので、車もドライバーも自分持ち。自分専用の車のない私のために、朝、迎えに来てくれるという親切設定。


 で、あさって行われる地鎮祭の段取りをしていました(といっても、じっさいに動くのはローカルスタッフたちですが)。

 ええ、こっちでも地鎮祭はやるんです。神主は出てきませんが、セレモニーという点では大差ありません。

 で、めどがついたところで、ローカルスタッフたちにまかせて帰ったんですが、帰った後、総務課長から寮に電話が……。


「地鎮祭の日取り変更になったから」

「は?」

「あしたの早朝」

「な、なんで?」

 いきなりそんな段取り替え急すぎんだろ?


「風水の都合だって」


 風水? 風水ってあの風水ですかっ!

 そんなもので、勝手に日取りを変えるとは、さすがは中国系。


「でも段取りだいじょうぶかな?」

「ローカルに確認したけど、だいじょうぶだって。ただ、営業部長に連絡がまだついてない」

 営業部長、すなわちその現場のプロジェクトマネージャー。

「でも、伝言頼んどいたからだいじょうぶだよ」


 ほんとか? ほんとにだいじょうぶか?


 私の勘はめったに当たらないが、悪い方向の場合たまに当たるときもある。


 やっぱり、ぜんぜんだいじょうぶじゃなかった。

 次の日、営業部長はいつもの時間にやってきました。今から行っても、遅刻というか、地鎮祭終わってる。


 飲みに行ってて、伝言聞いてなかったって。


 ちなみに地鎮祭のほうは、支店長がいっていて、問題なく終わったそうな。

 ……ははは。


 知ったことかあ! 俺のせいじゃないもんねっ!

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