フィリピンで現地スタッフを使い、工場を建てる簡単なお仕事です

南野海

第一部 南野君がやってきた

第1話 君は来月から、運転手、メイド付きの身分だから!

 これは私がまだ、某中堅ゼネコンにいた時代の話です。

 当時、名古屋で新築の現場をやっていましたが、そこでは現場所長ではなく次席。ある日、所長がから話がありました。


「会社から言われたんだけど、君、来月からフィリピン勤務になるらしい」

「は?」


 いったいなにをいってるんじゃ、このおっさんは!


 来月からって、もう月の半ばを過ぎてねえか?

 そ、そうか、冗談か。きっとそうに違いない。


 だが冗談ではなかった。


「向こうに行くと、運転手付きらしい」

「一軒家でメイド付きだとか」

 といいことばっかりいってくる。


 所長、ひょっとしてなにがなんでも説得してこいって言われてます?


 当時の私のフィリピンのイメージと言えば、ジャングル。

 地獄の黙示録に出てくるようなジャングルの中の一軒家。そこにかわいいメイドさんがいて、日に焼けた若い運転手が来るまで迎えにやってくる。

 なんかそんないい加減なイメージが頭の中でぐるぐると渦巻きました。


「わ、わかりました」


 理不尽とは思っても、社命に逆らえないのは社畜……いや、サラリーマンの定め。


「最大でも二年間だから」


 二年もかよっ!

 最大ってことは、二年いろってことだろう。

(甘かった。帰ってくるのに三年かかった)


 そこで私は「チタマの歩き方」(仮称)などでフィリピンのことを調べました。


 睡眠薬強盗に気をつけろ。

 空港からタクシーに乗るのは危険。

 夜乗るのはもっと危険。ぼられるくらいは当たり前。

 水道水はけっして飲んではいけない。

 ……などなど。


 大丈夫か、俺?

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