第三章 翳〜墜〜業火
第11話
-青龍side-
家の中へ戻ろうと踵を返すと、縁側に白虎が座ってこちらを見ていた。
すらりとした姿を月明かりに晒して、いつもの様にうっすらと笑みを浮かべている。
いつからそこに居たのかは知らないが、自分が先程まで考えていたことを全て見透かされているような気がして、少しだけ俯いた。
「見事な庭でしょ」
「…え?…、あぁ」
「うちのお祖父さんが、庭造りが好きでね。自分で苗を買ってきたり、庭師さんに手を加えてもらったりして一生懸命作ったんだよねー」
「そうか…、あの…隣、いいか?」
普段と変わらない口調の白虎の話を、俺は聞くことにした。
「この庭、趣があって好きなんだー」
「…そうだな。俺の、実家の庭を思い出すよ」
「そっか!それは嬉しいなあ」
爽やかな笑顔で、白虎は嬉しそうに言った。
「玄武もこの庭が大好きなんだよ。小さい頃にお祖父さんに連れられて遊びに来た時なんかは、一日中飽きもせずここにいてね、風邪を引いて寝込んだこともあった」
「ああ、想像できるよ。昔から変わらないんだな」
「……そうだね。…今の方がもっと元気な気がするよ」
「…?」
今、白虎の顔が強ばった。
でもそれは一瞬のことで、すぐにいつもの緩い表情に戻る。
気のせいかとほっとしたその時、
「……あれは…?」
亜麻色の髪を靡かせ、明らかに人とは違う雰囲気を纏った少女が庭の外へと消えていく。
あたたかな空気とは裏腹に、ひどく悲しげな表情を浮かべながら…
しかし、あれは…
「青龍!?」
気がつけば俺は彼女の背を追っていた。
そして眼前に迫った小さな体を必死に掻き抱き、あらん限りの声で叫ぶ。
「丙!!!」
「!!」
春一番のような暖かい風が吹き抜け、目を開けると腕の中で丙が必死にしがみついていた。
魂が抜けるかのように全身の力が一気に抜ける。
「せいりゅ…」
「よかった……!」
俺は丙をもう一度抱きしめた。
丙が、あの少女に連れていかれてしまうような、不気味な予感がしたのだ。
行かせてはならないと、頭の中でひっきりなしに警笛が鳴っていた。
「青龍…今のは一体」
駆け寄ってきた白虎には、分からない、と首を振るしかなかった。
今はただ、丙が無事でいたことに感謝をしたかった。
「青龍さん…」
「丙、今日はもう戻ろう。もうこんな事にはさせない。…だから丙、俺から絶対に離れるな」
丙はただ静かに、ゆっくりと頷いた。
(続)
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