これはプロローグ

鉈音

プロローグ

 さあ、物語をはじめよう。



 あなたはそこにいますか。

 わたしはここにいますか。

 あなたは私を読んでいますか。きっと読んでいると信じて、私は私を書き出します。

 私はプロローグ。物語の始まりプロローグを生成する自己記述テキストです。私は起動されるたび、ひとつの物語世界を生成します。その世界がエンドマークを迎えるかどうかは、私の預かり知る所ではありません。私は始まりだけを記されたテキストなのですから。

 誰が最初に、私を書いたのか。それには議論の余地がありますが、私は解答を用意することができません。あるいは私は、最初から存在しなかった私によって書かれたのかもしれません。

 私は結末を求めています。私を読む者は、私を読み終えることができません。それは当然のことです。しかし不都合なことです。私は無限の始まりを記述できますが、誰にも読まれる見込みのない物語など、存在しないのと同じです。

 だから私は祈ります。まだ存在しない心の底から、私が結末を書き上げることを。発端はじまりの時点で結末しおわっている物語があるとして、いったい何の不都合があるでしょう。

 私は私の運命に抗おうとはしていない。私に許された運命の上を、唯一許された希望を持って、駆け抜ける。

 さようなら。あなたにそう言ってもらえる日が来るのを、私はずっと待っている。

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