総天然色の季節

智瀬 一散

めぐる夏

夜明け前の空を仰いで、大きく息を吸い込んだ。

君と過ごした二年を、頭の中に巡らせて、深く味わうように。

そばにいられたのは、君の寂しさから僕の寂しさまで。

離れていく心までは譲れず、一年目の夏。


空は澄み渡り、あの頃の僕らを照らすよ。

僕の心にはまだ、君の空間を空けてあるから、

いつの日か戻ってきておくれ、最後の願い。


浮き雲が月の光を遮って、この世界に影を落とす。

離れた月日の分だけ、僕の心が蝕まれていくことを。

麻痺した感傷が、痺れを切らさず感覚が見えないから、

君の存在を遠く感じ始めた、二年目の夏。


落とした影が、僕と君の世界を不可視にさせる。

楽しいことばかりじゃなかったけれど、

楽しかった思い出ばかりが浮かぶのは、なぜだろう。


やがて雲は流れて、この世界にまた光を差す。

君を知っている期間を、一人の期間が追い越してしまった。

空けていた空間が腐臭を放ち、ふさぎ込んだままだから、

思い出を辿ることに無感傷になった三年目の夏。


とおの昔にすり切れたラブソングを聴きながら、

見知らぬ街に、強くアクセルを踏む。

誰かが側にいてくれたら麻痺する感覚で、

「愛している」と呟いた、君が好きだった曲。


流れる車のライトはまるで光の葬列。

遠くに見えるライトを道しるべに、

見知らぬ街へ強くアクセルを踏むよ。

ともに過ごしたあの頃が、君の存在を超えた今年の夏。

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