夏の始まり、それすなわちニートの増加

第42話 時よ止まれ!


「では、行きましょう。彼方さん」

「お、おお」

 文化祭2日目を迎え、俺はアロラと回っていた。

昨日俺が先輩といたのを見てた奴なら嫉妬してきそうだなぁ。

呪い殺されそうだ。怖ろしや。


「それで?」

「なんですか?」

「いや、俺に用があったんじゃねぇのか?」

他の1年生クラスの展示物を見ながらアロラに尋ねるが反応が薄い。

「ないですよ?そんなの」

「え!?ないの!!?」

俺の声に、周りにいた一般客や生徒たちが驚く。

「あ、すいません。すいません・・・」

 恥ずかしいわ。


「じゃ、じゃあ、なんでいきなり一緒に回ろうとか言い出してきたんだ?」

俺の問いに少し上目遣いで、

「ダメですか?用がないと誘っちゃ」

て、定番のセリフだけど、可愛いなっ!

やっぱしこの女神、すごい美少女だよな。

改めて、そう思ったわ。

校内で人気が出るのも頷ける。


 ってか、マジで用無いのか。


 んー、どうすっか。

今日は先輩の劇はねぇし、メムタチアも流石に2日連続は来ないだろう。


「アロラ。行きたいとことかあるか?」

「特には・・・・・・。でも、そうですね、一度部室に行きませんか?」

「イラスト部の?」

「他にどこがあるっていうんですか」

呆れたような声音で、ツッコんでくる。

まぁ他に行くところもないし、いつもの部室に行くことになった。


 

 ドアを開けると、見慣れたいつもの部屋だ。

大きな机が、真ん中に置いてあり、その上にはシャーペンやら、鉛筆やら、コピックやら、イラストを描くための道具が一通り揃っている。

窓からは、西門前が見下ろせる。

並ぶ模擬店には、昨日とは違い一般客も沢山群がっていた。


「見ろ。人がゴミのようだ」


・・・・・・・・・・・・。

「どうした。いきなり」

「え?言いたくならないですか?」

まぁ、ならないことないけど・・・。

「あ、彼方さん」

今度は何。

アロラの指さす方を見ると、そこに母さんと愛音がいた。

模擬店で、たこ焼きを買っているようだ。

「やっぱ来たんだな」

「そうですね~。楽しそうで何よりです」


 部室から人間観察をしていると、いつの間にか一時間が経っていた。

恐るべし、人間観察。

時の流れは、流水の如く、だな。

「ザ・ワールド」

「やめろー。時を止めようとするなー」

我ながら冷静なツッコミ。

「いつから時を止めていないと錯覚していた?」

「お、おおぅ」

ツッコミきれなかった・・・・・・。



 「ははっ・・・・・・」


「・・・えぇぇ・・・・・・。いきなり、なんですか。ちょっと引きましたよ」

「いや、悪いな。思い出し笑い」


 やっぱり、俺はこいつと・・・・・・アロラといる時間が・・・好きなんだ。

楽しいと思ってたんだ。いつの間にか。


「・・・・・・ふぇ・・・・・・?」

「え?」

なんか、驚いたような顔をしたアロラ。

あ、俯いた。

顔、赤い?

つーか、真っ赤。



そして、気づく。

あ、こいつ。心読めるんだった・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」





・・・・・・・・・・・・ザ・ワールド!

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