第2話変な女性との出会い
時間帯は夜、人通りも殆ど無くなった住宅街にあの人が電信柱に寄りかかっているご様子。
飲み過ぎて気持ち悪くなっているのでしょうか?
「あー、お腹空いた……」
全然違ったようです。
お腹が空いているなら早く家に帰ればいいのに、何を考えているのでしょうかあの人は…。
あぁ……こうしてあの人を眺めている事しか出来ない今の状態が残念で仕方ありません。
出来るのであればあの人に食べ物を持っていきたい。
更に欲を言えば口移しで食べさせてあげたい。
………は!
いけないいけない。ちょっと妄想の世界に入ってしまいました。
しっかり仕事しないと。取り敢えず誰でも良いからあの人に食べ物を!
おっと?北の方角から二つ、南から一つ熱源を感知!
さてタイプは………両方共、男のようです!
うふっ、これは良い食料。
そうこうしている間に二人の男があの人の近くまで接近しています!
…が!あの人は完全にスルー。男達の方は欲望丸出しであの人の身体を見ていたようですが、対するあの人は食指が動かなかったご様子。好みでないなら仕方ない。
でも、こんな夜にそんな選り好みしている場合じゃありませんよ?
っていうか、南から来る男より先程の二人組の方がイケメンじゃないですか!
私なら二人組の方を取りますが、あの人の考えは良く分かりません。
取り敢えず、あの高校生位の男がラストチャンスのようです。頼みますから、今度は逃がさないで下さいよ。
フリじゃありませんからね?
夜道を一人で歩くこの少年は深夜奏太という高校生である。中肉中背で平均よりちょっと下なルックス、そんな奏太は現在バイト先から家に帰ろうと歩いている所である。後少しで家に着くという所で奏太は電信柱に凭れている女性が目に入ってきた。
(あの人、歩けない程酔っているのかな?)
少し気になった奏太だが、知らない女性に声をかける程の勇気は持ち合わせてはいなかったので見ていなかったことにして、女性の横を通り過ぎようとした所で女性の方から「ぐ〜」というお腹の鳴るような音が聞こえてきた。
「あ、あのー、大丈夫ですか?」
奏太は少し吃りながらも女性に声をかけた。
女の子と話したことが殆ど無い奏太にとってこれは仕方ないことである。
女性は下を向いていた顔を上げた。
「お腹空いて動けないの」
(動けない程お腹空いてるってあり得ないだろ…)
奏太は疑問を感じたが、今も時折女性から「ぐ〜」という音が聞こえてくる為、帰る途中にコンビニから買ってきた肉まんをビニール袋から取り出す。
「じゃあ、これ食べます?」
すると女性は奏太の顔と肉まんを交互に見始めた。その様子はまるで餌を目の前に出された犬のようである。
「食べていいの?」
「どうぞ。別にいいですよ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うと同時に女性は肉まんに噛り付いた。
「はふっ、はふっ。温かい肉まんウマー」
女性は先程よりちょっと元気が出てきた様子だ。
「お姉さん、何かあったんですか?」
奏太はお腹が空いて動けないと言ったこの女性に何かあったのではないかと思い何気なく質問をした。
「ん?あ〜、実は…」
肉まんを食べるのを止めて女性は質問に答え始めた。
「ちょっとパソコンにしがみついていたら、いつの間にか家の食べ物が無くなってて、でも買い物行くの面倒だし一日二日食わなくても大丈夫でしょ~っと思って我慢してたけど、やっぱり我慢出来なくて買い物に行こうと外に出た所で予想以上に身体に力が入らないことに気付いて、これ以上歩いたら倒れそうだと思ったから電信柱に寄りかかっていたの」
(いやいやいや…。パソコンでゲームかネットするにしても流石にそれはやり過ぎでしょ)
女性の発言にパソコンを使っている奏太からしても若干引いてしまう。
仕事でパソコンを使うという考えにまったく至らない事から、普段パソコンで何をしているか丸分かりである。
「普段はこうならないんだよ?ただ…」
「ただ…何ですか?」
女性は夜空を見上げて呟いた。
「パソコンのゲームに集中するとね、一日があっという間に溶けていくんだよ。そう…アイスのようにね………」
そう言っている時の女性は何処か遠い目をしていた。
「いやいやいや!そんなに早く一日は過ぎませんよ!?まぁ…少しは分かりますけど。っていうか、そんなになる前に買い物行けば良かったじゃないですか!」
女性は突然真剣な顔になり奏太を見る。
「動いたら負けかなと思っている」
「何にですか!」
「えっと………世界に?」
「スケールが大きすぎですよ!」
女性は少し考えてから口を開いた。
「じゃあ、日本」
「じゃあって何ですか!それでも充分大きいです!せめて、町にしてください」
女性は奏太を一瞥した後、わざとらしく大きく溜め息を吐いた。
「はぁ〜~~。君は我が儘だなぁ…。仕方がないから妥協して町にしよう。………(人口一億人の町にね)」
「オイィィィ!ちょっと待て!何で俺が駄々をこねて困らせてるみたいな感じになっているんだよ!しかも、ボソッと一億人の町って言ってるの聞こえたからな!全く妥協する気ないだろ!………はぁはぁ」
「あらあら、大丈夫?少し落ち着いて、お茶でも飲んだら?粗茶ですみませんが、どうぞ」
女性は奏太にペットボトルのお茶を差し出した。
「これはどうもご丁寧に。ありがたく頂きます。………ぷはっ。年上の人に乱暴な言葉使いしてしまって、すみませんでした。ちょっと落ち着いてきました」
奏太はお茶を飲み、落ち着いてきた所で、ふと何かに気がついた。
それは、この女性が何故ペットボトルのお茶を差し出せたのかだ。
先程まで女性はペットボトルを持っていなかった。
しかもペットボトルを入れられるようなバッグを持ってはいない。
………ということは、つまり
「って、これ俺の買ったお茶じゃないですか!何、自分の物みたいに渡してきてるんですか!」
それは、奏太が買ってきたペットボトルのお茶だった。
「まぁまぁ、落ち着いて。結局、自分で飲んだんだから問題なしでしょ?」
「うっ・・・それはそうですけど」
そう女性に言われると奏太は戸惑ってしまう。
「でしょ?私があなたのお茶を飲んだとしたら怒られても仕方ないけれど、そうでないのに怒られるのは心外ね~。心外だわ~」
「(なんで俺が)・・・すみませんでした」
何故かは分からないが、奏太の方が謝ってしまった。謝った奏太だったが、釈然としない気持ちになった。
「うんうん、よろしい。申し訳ないと思うなら、ご飯食べさせて♪」
「はっ!?なんで、俺があなたにご飯食べさせないといけないんですか!」
「大丈夫、お金は出すからさ」
奏太は話の噛み合わない女性とこれ以上会話を長引かせても疲れるだけだと思い、さっさとご飯を食べさせてお引取り頂こうと考えた。
「はぁ・・・分かりましたよ。じゃあ、どこで食べるんですか?ファミレスとかに行くんですか?」
「え?君の家だけど?」
「はぁ!?」
無気力系サキュバスさん @totugekibeer
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