異世界の洗礼②-3-3

「そうか……まぁ、みなまでいうな。かつてこの名は、銀河で知らぬ者がいない程轟いていたのだがなぁ……」


全く聞いたことない、と面と向かって言われると少しだけ寂しいものがある。


指揮官としてデビューしたばかりの頃ならともかく、引退間際など「あの人こわもてだけど実はすっごく優しいんです」といった感じに言われてしまうだろうと思うくらいにはなかなかにフレンドリーな対応を心掛けてきた自負がある。怖いイメージがあるなどと言われればまぁそれもしょうがないかなぁ昔はブイブイ言わせていたからなぁと思わなくもない過去を持つ私だが「知らない」などと言われてしまってはいったいどんな顔をしてそれを受け止めればよいのか。井の中の蛙大海を知らずの言葉が頭の中を行ったり来たり着たきり雀。


――これはあれなのか、いつもはファンに囲まれるとうざがってしまうのにいざ誰も近くに来なくなったら途端ソワソワしだす芸能人的な、一発屋の宿命的な話なのか。


今なら「こんなことなら売れなきゃよかった」と真面目に考えてしまう芸人コメディアンの気持ちがわかる気がする。今なら彼らのことを哀れな目で見ていた過去の自分と話し合いの場を持って和解に努めてもいい。根が真面目な性分って大変だなと慰め彼らに寄り添ってあげたい。


「そうだな。どうせお前の中では私は、薄汚いリモージュ家の犬、だったか? ならば私も犬らしく、主人に尻尾を振らなければ。今までしてきたアンジェリカへの愚弄、その対価、その身で支払うがいい」


私はあえて、まだ光を失っていない左手を彼に向けて掲げてみせた。それは決して私的な理由による八つ当たり行為ではない。あくまで教育の一環だ。


「まま、待ってくれ! 謝罪する! 君に対する非礼を詫びよう! 今後一切君には手出ししないと約束する! だから――」

「私への謝罪は不要だ。まぁどうしても謝罪がしたいというなら、うちのご主人様にするのが筋なのだろうな」


「わ、わかった! 謝る! リモージュ君にも謝る――」

「いやでもどうだろうか。言葉だけの謝罪ならいらぬかもしれんな。それに、命惜しさの謝意などに如何程の価値があるのか。謝るくらいなら最初から行動すべきではないだろう。行動したならその責任を取るのが筋というもの。真に償いたいというなら、やはりここで死んで詫びるべきなのではないか? 我がご主人様の判断を待つまでもあるまい。うん。さ、確か、辞世の句を詠むのだったかな?」


私は少年の懇願を無視して淡々と言葉を重ねる。穏やかに、押さえた低い声にわかりやすい殺意をのせて。許す気など微塵も感じられない――そう思わせるべく。


「待ってくれ! どうか! 何でもする! 命を助けてくれるなら望む額をやろう!」


「やろう? はっはっは。この期に及んで本当にお前は楽しい奴だな。私が対価を望んでいるように見えるのか――ならば、逆に私が与えてやろう。お前は幸運だぞ? 偶然にも私は教会の神父の資格も持っていてな。略式ではあるが、この世を旅立つお前に祝福を授けてやる」


「待てっ! 待ってくれ! 金じゃないなら、そうだ! 僕が君の後ろ盾になってやってもいい! 僕は王太子だっ! 僕についたほうが君も――」

「《さぁ―Jetzt geht's los―神に―Sie müssen Gott祈りなさいum Ihr Leben bitten―》」


「ッ!」


瞬時に少年の言葉が詰まる。見えない力に首を絞められたからだ。


土下座し必死に命乞いをしていた少年が徐々に、何かに釣り上げられるかのように体を起こし始めた。


その動きは、右手で少年の首をつかむようなジェスチャーをしている私の動きに同期している。周りには私が何かをしているように見えるだろう。実際、私が覇力ゲルダで掴んでいるのだが。


「騒ぐな蛮人。王族だというなら誇りを見せよ。散り際を汚すでない。まぁ折角だ、一度死んでみろ。イジメをするくらいなのだから当然自分が死ぬ覚悟もできているのだろう? 見事果てて見せるがいい。後でお前の仲間も送ってやる。安心せい」


その言葉をきっかけに周囲がザワリとした。あちこちで短い悲鳴が上がる。大方金髪少年の近しい仲間らだろう。卒倒しているのは心当たりのある輩か。


「おいおいつれないじゃないか友人諸君。それでもこの少年の仲間か? 一緒に死んでやる覚悟くらい見せたらどうだ」


私は左手に残る輝きを離す事無く握り締め腰を落とす。そして周囲に視線を投げる。


その気配を感じ取ったのか、金髪少年は死を覚悟し声にならない悲鳴を上げ頭を抱えた。彼らを取り巻く群衆からも複数の大きな悲鳴が上がる。


「ではな少年。先に黄泉ガトランティスで待っていろ。――《お別れです―Gute Reise―――》」


『やめてええぇっ!!』


「――ッ!?」


金髪少年を正面に捉えた姿勢のまま私が次の一撃を振るわんとしたまさにその時、聞き覚えのある少女の声――その場にアンジェリカの絶叫が響いた。

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