異世界移動パン屋さん

shirotaka

1個目 パン屋さん、パンを焼く

 その日僕はいつも通りに自前のバンを走らせ、いつも販売している場所へと向かっていた。


 だが、何故か道に迷い変な所へ来てしまった。

 急に霧が出て、気付いたらUターンも出来ないような細い山道に入っていたのだ。

 周りにこんな山は無かったはずだが、引き返すのも難しいようなのでそのまま進む。

 この先に民家でもあれば良いかなーと気楽に鼻歌まじりに。


 けもの道をしばらく進むと木の柵で囲まれた家々が見えて来た。

 とりあえずここでパンを焼いてみようと木の柵の手前、広場の様になっている所に停車し、仕込み済みの種を備え付けのオーブンで焼いて行く。


 その間、お釣りを用意したり、事前に用意していたベーグルのサンドイッチなどの準備を進めていく。

 どこの山村かな? と思いつつ、オーブンから立ちこめる香りと木々のみずみずしい匂いを胸いっぱいに吸い、軽快な音楽をスピーカーから流す。


   ♪~ パン パン パン屋さーん

   ♪~ 出来たて 焼き立て パン屋さーん

   ♪~ パン パン パン屋さーん

   ♪~ あなたの近くに パン屋さーん


 鼻歌混じりに焼き上がったパンを棚に移し、次のパンをどんどん焼いて行く。


 今日は、オーソドックスな山形食パン半斤、メロンパン、バターロール、白パン、レーズンパン、クロワッサン、ベーグル、フランスパンを用意してみた。

 平たい籠編みバスケットにペーパーナプキンを敷き、試食用にひと口大に切ったメロンパンを入れ、メニューを立て看板状の黒板に書いていく。


「今日のオススメはベーグルサンドにしようかな~」


 半分に切ったベーグルをオーブントースターで表面が少し茶色になるまで焼き、サラダスピナーに入れ水分を飛ばしたシャキシャキなレタスを、手で食べやすい大きさにちぎり焼きあがったベーグルに乗せる。

 輪切りのトマトに、オリーブオイルと塩とレモン汁とハーブのさっぱりした自家製ドレッシングを掛ける。

 ドレッシングを作る時に使用するのは百円均一で購入したミルクフォーマー。

 マヨネーズやドレッシングにも使えて便利だし、電池で動くので邪魔なケーブルが無いというのが魅力的で、ドレッシングを作る時には重宝している。

 そして、薄くスライスした胡椒たっぷりな自家製の牛ももパストラミをレタスの上に乗せ、ハニーマスタードを掛け、さっきのトマトを乗せる。

 特製Pパストラミ・Lレタス・Tトマトの完成だ。


 あとは、クリームチーズを挟んだもの、バターと蜂蜜を挟んだものも用意する。

 この2種類は僕のお気に入りなので、売れ残っても全然痛くない、というか残って欲しいラインナップだ。

 まぁ、ほとんど売り切れて賄いに出来ないんだけどね。


 オーブンの仕様上、6個ずつ焼くのが楽なので基本的に全て6個か12個で用意している。

 種も余分に作っているし、冷凍にベーグルを入れていたりするので、減ったらまた新しく作っての繰り返しかな。

 あとは、生地にレーズンやコーンやハーブを入れたりしてバリエーションを変えたり、ベーグル以外もサンドイッチにしてみたりして楽しんでる。

 レシピなんて無くて気分やリクエストでぱぱぱっと作る時も多い。


 パンを入れる袋はビニールの袋だと味気ない気がして紙袋を使っている。

 個別に包む紙は通りすがりの学生さんに大好評な食べやすい包み紙で、ハンバーガーの包み紙みたいな紙を使っている。

 食パンとフランスパンは専用の大きい紙袋を用意して、いっぱい買ってくれた時の大きな紙袋もある。

 紙袋で抱えてパンを持って帰るっていうのは見た目が良いよね。

 

 車に搭載している冷蔵庫と冷凍庫にはレタスやトマト、玉ねぎ、アボカドなどの野菜や、バナナ、レーズン、様々なベリー系の果物、牛乳、生クリーム、バターなどの乳製品や仕込みをしていた肉や魚が入っている。

 結構色々入れてるのは、常連のお客さんが無茶振りをしてくるので、負けず嫌い精神で作ってしまう為だ。

 スーパーなどの店先を借りてやっている時はすぐ調達するんだけどね。

 助手席で育てているハーブも備えあれば憂いなしで大活躍している。


 さて……


「そろそろお客さんが来てもいいと思うんだけど……」

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