― 第二章 ― 真夜中の閃光 ―

第25頁目 ― 1 ― 

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 瑞穂はパジャマに着替えると、三階の両親の部屋へと食事をしに向かった・・・

 瑞穂が両親の部屋に入ると、瑞穂の目にいきなり映ったのは、楽しく賑わっている家族の中に裕史も賑わいの笑顔を見せている場面だった。

 帰ったはずの裕史が何故?

 瑞穂は、裕史が何故?三階に居るのか不思議に思い、アングリとしたまま立ち尽くす。

「えっ? な、なんで、裕史が三階に居るのよ?」

 裕史は瑞穂に向かって手を振りながら笑顔を振りまく。

「ハロ~。久しぶりだなぁ瑞穂。おじゃましているよ」

 瑞穂は洋室の客間でオードブルを囲みながら宴会をやっている両親と妹、そして何故かパーティに加わって盛り上がる裕史の姿。 

 何の記念日でも誕生日でもない宴会。

 今日は、なんの変てつの無い七月下旬の一学期終業式・・・首を傾げながら、しかめっ面で不機嫌に食卓テーブルに着くと静かに椅子に座る。

 テーブルから通して見える裕史のおどけて楽しむ姿。

 頬に手を当て、テーブルに肘をつけながらふと壁に備え付けのセキュリティモニターに目を向けると、オンラインシステムが『解除』の表示になっている事に気づく。

「全部の階のドアが解除されていたんだ。セキュリティの意味無いわね・・・」

 裕史が奥の部屋のテーブルでふて腐れているようにも見えた瑞穂に向かって、ソファーから手を振る。

「お~い、瑞穂!。瑞穂もこっちへ来て、一緒に盛り上がろうぜ^^。

 瑞穂の家族って楽しい人たちばかりだなあ。 

 オレ、こんな雰囲気大好きだな~」

 酔ったように喋る裕史の口調に、ふと裕史の持つコップに目を向ける・・・瑞穂はジュースだと気づくと目を点にさせる。

「・・・まるで、わたしだけがつまらないような言い方じゃな~い。

 雰囲気だけで盛り上がれる裕史って、とても得な性格だわ・・・」 

 瑞穂はブツブツと言いながら冷めた目つきで裕史の方を見ると、裕史の隣りで一緒になって騒ぐ母、奈々子(ななこ)へと目を向け。テーブルの上を指でコツコツと叩き始める。

「ねえ、お母さん。わたしのお食事はまだなのかな~。

 あなたの可愛い娘さんが、お腹を空かして待っていらっしゃるのに、若い男性に色目を使っている場合じゃないんじゃないのかな~・・・」 

 瑞穂が独りごとのように皮肉をこめながら奈々子に聞こえる声で言う。

 そっぽを向いていた目をチラッと横目で奈々子の方を見た瞬間、鋭いほどに尖ったアイスピックが、肘のついている数ミリ手前で、ザッと音をたて突き刺さる。

「!・・・@@◎◎※※££∀v@!」

 恐怖のあまりに声にならない悲鳴を出し、血の気の下がった青ざめた顔を奈々子の方にコマ送りのようにゆっくりと向けると・・・ソファーから身を乗り出して、アイスピックを投げた格好で睨みつける奈々子の姿があった。

「お母さん忙しいから、食事はセルフサービスでお願いね。ちゃんとカレーは作っておいたから、あとは自分でやってちょうだいね。ちゃん。」

 瑞穂は殺気のオーラで満ち溢れている奈々子に向かって苦笑いする。

「そ、そうね・・・わたしも、たまには自分でやらないとね。若い男性に色目でおびき寄せているメス蜘蛛(グモ)にとても失礼だものね・・・ハハハハハハ…」

 顔を引きつらせながらメス蜘蛛(グモ)の言葉を強調すると、瑞穂が立ち上がり台所へと歩き出す。その瞬間、ドガッヴォゴッ! と大きな凄まじい音を上げ、床をも壊す勢いで宙を舞ったソファーが瑞穂の目の前で大破した。

「やあ~ね~もう瑞穂ったら・・・例えが悪いと言うか、口が悪いと言うか・・・メス蜘蛛(グモ)だなんて人聞きの悪い・・・ホホホホホ・・・

 お母さんはただ、新しいダンナを探しているだけなの。ねえダーリン!」

 瑞穂の言葉が気にくわず、ソファーを投げつけた後笑顔で奈々子は、お茶目いっぱいに裕史に抱きつく・・・。

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