ぱ~ぷるジャネット
葦端 芹(あしはた せり)
― 第一章 ― 希求の果てに ―
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キーボードを打つ単調な律動(りつどう)だけが、静かに反響する教室の中で、 突然、一台のパソコンからモクモクと煙があがった。
周辺(まわり)にいた生徒達は、慌てふためきながら教室の隅へと一斉に逃げて行く・・・
「いったい誰ですか? パソコンをクラッシュさせている生徒は?」
原丘(はらおか)ティーチャーは物凄い剣幕で必死に煙を掻(か)き分け、煙のあがるパソコンへと近づき・・・
ア然としながらモニターを見ている揺織 瑞穂(ゆらおり みずほ)の前で足を止めた。
「ゆ、揺織さん・・・。ま、また、あなたなの?」
原丘ティーチャーは頭を悩ませながら瑞穂の右肩に手を触れた。と、その瞬間、次から次へとほかのパソコンから煙があがっていく・・・
その状況に目を見張った原丘ティーチャーは、顔をみるみるうちに青ざめさせた。
瑞穂は青ざめた顔を上目使いで観ると同時に、めぇ~いっぱいの笑顔を見せ、首を傾げる素振りを見せながら言う。
「原丘ティーチャー。教室の全てのパソコンがクラッシュしていますけど、このままじゃ英語の授業が続行不可能だと思うんですが・・・」
原丘ティーチャーは瑞穂の仕業だと判ってはいても、毎回のように事を好む瑞穂の性格には呆れ果て。怒る気力どころか、授業をする気力さえも失っていた。
瑞穂の楽しそうな薄ら笑いを毎回目にし、心の奥底から疲れ果て。悩み、落ち込みながら、トボトボと教室を出て・・・
ドアを閉めた。
その途端に、教室から盛大な拍手と笑い声が沸き上がった。
瑞穂達の高二の英語を受け持って以来、まともに授業を進行(すす)める事の出来ない原丘ティーチャーは、気を落としながら目を虚(うつ)ろにさせて深くタメ息をつく。
「はあぁぁぁ~~~・・・」
左右に教室が並ぶ長い廊下を一歩歩いては立ち止まり、タメ息をついては、また一歩。と、足をフラつかせながら、生徒に対する教育の絶望感に授業恐怖症になっていた。
「なんてゆう事なの・・・
…明日(あした)から夏休みだとゆうのに、揺織さんのおかげで教科書D(テキスト・ディスク)が2ページまでしか進められないまま、とうとう一学期最後の授業が終わってしまったわ・・・
とても、自分自身に同情してしまうわ・・・。私って、教師に向いていないのかしら?・・・」
頭をかかえ、虚ろ(うつろ)な目をして身体(からだ)を引きずり、足元をフラつかせながら廊下の壁をつたい。職員室へと続く階段に差し掛かると、二階の階段を降りようとする足が階段を踏み外し・・・
原丘ティーチャーは吸い込まれてゆくように、中二階へと、静かに落ちてゆく・・・
その場面に丁度タイミングよく通りかかった瑞穂の担任、三馬(みつば)先生は両腕を前へ伸ばしストレッチをしようとしていたその時、両腕の上へと落ちてきた原丘ティーチャーを偶然にも受け止めてしまった。
突然ズッシリと両腕に重圧がかかり、踏ん張りを一所懸命に努力した。が、しかし、あんまりの突然の出来事と重さに耐え切れず、ガク然としたまま後ろへと倒れ込んだ・・・
意識が朦朧(もうろう)としている原丘ティーチャーは、三馬先生の胸の上に乗っている事に気づかず、しばらくの間(あいだ)ボー然としながら壁を見ていた・・・ ふと俯く(うつむく)と、三馬先生が下敷きになっている事に気づき、
踏みつけていた顔面から、そ~っと足を退け。
顔を引きつらせながら、微かに流れる冷や汗をハンカチで拭い、床の上へと・・・そ~っと座り直す。
三馬先生は顔面を押さえながら起き上がる。
「痛ゥ~・・・原丘先生。一体どうなされたんですか?」
原丘ティーチャーはハイヒールの足跡がくっきりと付いた顔面を、冷や汗をたらしながらビクビクして、ゆっくりと見る。
「ご、ごめんなさい。み、三馬先生・・・だ、大丈夫ですか?
おケガは、なさいませんでしたか?」
三馬先生は原丘ティーチャーの元気のない悲しげな声に気づき、心配そうに言う。
「は、はい。僕のほうは、ただ顔がヒリヒリするだけで、ケガはありません。
僕のほうよりも、原丘先生が心配です。何かあったんですか?
僕でよければ訳(わけ)を話していただけませんか?」
その場に立ち上がると、さり気なく原丘ティーチャーに手を差し出す・・・
原丘ティーチャーは手を延ばし。三馬先生は手を握り、手を引き、上体を起こさせながら立ち上がると同時に勢いがつき、三馬先生の胸の中へと吸い込まれるように抱きついた。
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