FILE-33 魔弾

「お主は強者でござるか? それとも弱者でござるか?」


 背後に現れた気配がそんな問いを投げかけたと同時に、オレーシャは振り向き様に猟銃のトリガーを引いていた。


 轟く銃声。


 まっすぐに襲撃者へと飛んだ銃弾は、しかし閃く銀閃によって易々と弾かれてしまった。銃弾斬り。とてつもない動体視力と技術がなければなし得ない超高等技術だ。

 ただ、撃ち出された銃弾はただの銃弾ではない。


「ぬ?」


 オレーシャがコサック帽を目深に被っていることに襲撃者は気づいたようだが、遅い。その時には弾かれた思われた銃弾から激烈な閃光が迸っていた。


「閃光弾でござるか!?」


 正確には閃光魔術を編み込んだ魔弾だ。


 オレーシャは魔術を物に込めて使役するエキスパートである。込められる魔術は継続しない一発限りの使い捨てばかりだが、同じ一発で使えなくなる銃弾との相性は抜群にいい。ロシアの山地で長年狩猟生活をしていたため狙撃の腕にも自信がある。

 もっと研鑽を積むために学院に入学したが、同学年の大半は素人以下という現状に少々落胆もした。

 だが、中にはそうでもない奴もいることを今回の辻斬り事件で知った。背後から近づく襲撃者は完全に気配を消していたのだ。狩猟生活で感覚が研ぎ澄まされているオレーシャでなければ声をかけられるまで気づかなかっただろう。


「今の質問に答えてやろう。私が強者か弱者か、決めるのはお前だ」


 そう言ってオレーシャは別の銃弾を猟銃に込めて射出した。それも連続で三発。目が眩んで立往生している襲撃者の少女に直接ぶち込むのではなく、彼女を中心に三点を衝くようにずらして放った。

 三つの銃弾は空中で炸裂し、それぞれが魔法陣を展開。その魔法陣から襲撃者の少女に向かって無数の細い白光線が撃ち放たれた。


 視力を奪われた襲撃者は避けようがない。オレーシャはそう確信していた。実際に無数の白光線が容赦なく襲撃者の少女を貫き蜂の巣にした。


 ただ、その少女の姿が幻のように消え去ったことまでは想定していなかった。


「拙者も奇襲を仕掛けている身。目眩ましを卑怯などとは言わぬでござる」


 声は横から。


「――ッ!?」


 オレーシャは反射的に飛び退いた。

 これほど接近されていたのに、今度は全く気配を感じなかった。


「残像……いや、分身。ジャパニーズニンジャという話は真実のようだ」


 嫌な汗が流れる。一筋縄ではいかないことをたった今証明されてしまった。

 オレーシャは銃口を少女に向けながら観察する。夜色の髪をポニーテールにした少女。両手に日本刀を構え、顔はマフラーで隠されている。


 ――やはり、黒羽は犯人ではなかったか。


 一応、彼を警戒はしていた。だがオレーシャは最初から彼が犯人だとは思っていなかった。もし犯人ならこんな作戦に付き合うはずがないし、特待生ジェレーターの集会になどのこのこと顔を出したりしないだろう。


特待生ジェレーター、オレーシャ・チェンベルジー殿でござるな?」


 一歩前に出て襲撃者の少女が確認の言葉を投げかける。

 オレーシャは鉛玉で返答した。


「ここからは、いざ尋常に勝負でござる!」


 銃弾を高く跳んで回避した襲撃者の少女が、オレーシャとの距離を一気に縮めてきた。


「チッ!」


 舌打ちし、オレーシャはバックステップで距離を取る。狙撃手が間合いを詰められたら終わりである。ナイフを使った近接格闘術の心得もあるにはあるが、どう考えても分は相手にある。

 コサック帽を下ろす。

 再び閃光の魔弾を放つ。瞼の裏まで焼き尽くすような強烈な光が爆裂する。これで敵の動きが数秒でも止まってくれればよかったが――


「その術はさっき見たでござる」


 当然、そう上手くはいかなかった。


「目眩ましが通じるのは一度だけでござるよ」


 オレーシャがコサック帽を下ろすの見てから閃光弾が炸裂するまでの一瞬で目を庇ったのだろう、襲撃者の少女は赤い瞳でしっかりとオレーシャの姿を捉えている。


「そうだろう。ならばこれはどうだ?」


 次の魔弾を装填し、放つ。それは残り五メートルほどまで接近していた襲撃者の少女との間で炸裂し、無数の銃弾へと分裂した。

 散弾銃のごとく襲いかかる銃弾を前に、襲撃者の少女は刀を持ったまま人差し指と中指だけを立てた右手を口元にあてた。


 瞬間、凄まじい熱量が少女の口元から放射された。


 銃弾は少女に届くまでに蒸発して消え、吹き出した火炎は咄嗟に横に転んだオレーシャの左肩を焼いた。


「痛っ……!?」

「火剋金――火は金属を熔かすでござる。甲賀流五行忍術〈灼熱吐息〉。火傷には注意するでござるよ」


 楽しそうに言うと――ギラリ。襲撃者の少女は日本刀を闇夜に掲げた。


「もう抵抗しないのでござるか? だったらトドメでござる」


 火炎を転んで避けてしまったオレーシャに逃げ道はない。日本刀は初動こそゆっくりと、しかし一気に加速して無情にもオレーシャに斬りかかる。

 鮮血は――――飛ばなかった。


「伸っびろーっ!! 如意棒!!」


 どこからともなく聞こえた明るい声と同時に、棒状のなにかが日本刀を弾いたからだ。


「辻斬り見ぃ―っけ! もうちょっと来るの遅かったらシャオが間違えて黒羽襲ってたかもね! にっしし♪」


 棒状のなにかは上空に伸びていた。その先には、両足の先に靴を履くように金色の雲を取りつけて浮かんでいる小柄な少女がいた。

 長めの茶髪を大型犬の尻尾みたいに後ろで纏めた少女――孫曉燕である。

 オレーシャが閃光弾を使った目的は目眩ましだけではない。こうやって味方を呼ぶためでもあった。


「……二対一でござるか」


 弾かれた日本刀を回収した襲撃者の少女は、オレーシャと曉燕を交互に見てマフラーの下でニヤリと笑った――ように思えた。

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