第5話 対コンプレックス (2)

 集合場所は混とんと化しており、大勢の隊員が既に待機していた。その中、笠木が一人堂々と立つ。その横にあまり見慣れない顔が二つあった。第二、第三の部隊長だ。

「第一部隊、隊長笠木だ! これより、全部隊の総指揮を執る。目標は大通りを進行中の魔物の大群だ。その数、百を超える!」

 それと共にざわめきがこの場所全体に広がった。百体、今までとは規模が違う。

「その群れは見事と言っていいほど列を組んで大通りを進行。その大軍の末端にもしかすれば司令塔に近い個体がいるかもしれない。それを見つけ出し叩くのが今回の任務の最終目標だ。以降は現地に向かいながら説明する。全員乗り込め!!」


 大量のワゴン車が社の建物から流れ出す。そして目的となる大通りの先端に近い部分に到着した。全ての部隊、総動員して挑む今作戦。笠木の指示をまとめると大通りを封鎖するように部隊を構え、向かってくる魔物をここで食い止める。

「前方、魔物の群れを確認。かなりの種が一丸となってこちらに向かってきます」

「よし、数は多いが怯むな。弾幕を張り続けろ。打ち方用意!!」


 一斉に銃を構える音。亮人の目に映る魔物の大軍を見てシラトラがあればなどと無意味な考えを一瞬してしまい、首を振る。そして照準を前方に合わせた。

「三秒前、二秒……、撃て!!」

 笠木の合図と共に全部隊から大量の弾丸が吐き出され始める。それに合わせて魔物の群れの最前列の魔物何匹かが態勢を崩し始めた。けれども、後ろから絶え間なく続く魔物は倒した魔物の上を飛び越えて攻めてくる。

 マシンガンの連続発砲は確かに魔物の群れを削っていったが、魔物の進行速度に討伐速度はどうあがいても勝てそうにない。地味ながら距離が縮まっている。


「うち続けたまま数歩後退」

 全体が後ろに下がり、魔物と距離を取るようにする。ひたすらそれの繰り返しだった。このままでは、魔物の全滅より先に、絶対防衛圏を突破されかねない。けれども、笠木はひたすら打ち続けるよう命令。今はそれを考える暇があったら撃ち続けろ、そういう事だ。


 絶え間なく魔物の群れは続いてきた。その中、先頭が再び叫んだ。

「得体のしれない固体が数体、前進してきます! これは!? 見た事ありません!!」

 そんな叫びを笠木はいち早く聞き取ったらしい。

「全員怯むな。打ち続けろ!」

 笠木の指示に従い、断幕を張り続ける。

「確かに見た事ない個体だ。君らは見た事あるか?」

「「……いいえ」」

 第二、第三部隊隊長も見た事がない。そんな奴が接近していると言うのか!?


「あれは何だ? 見た感じ狼型と言った所か……、いや、むしろ猿型……。角が発光している発光性……、いや待て、口元に炎が揺らいでいる……、まさか、発光性と発火性を兼ね備えている魔物と言うのか!? 全ての第一、第二小隊、これより目標を新個体に移す。間もなく射程内に入る。それに備え、それ以外の小隊は弾幕の範囲を広げろ!!」

 何とも難しい指示に答え、部隊が動く。その中亮人はちらりと新個体を見た。その固体、遠目ではあるが、相当な大きさがあった。危険度☆☆級のライトパンジーと同等かそれ以上、紫色の毛並み。一見狼型っぽいが、肩、前足部分はまるでゴリラのように膨れ上がった筋肉を持っている。更に、額には発行する角に炎を纏う口。取りあえずやばいのはよく分かる。


 だが、今は自分にできる事。前方からくる魔物を食い止めるべくマガジンを装填、発砲を続ける。

「それぞれ第一、第二小隊。目標新型。攻撃開始!!」

 最初こそ、怯みはしたが、それだけだった。新型は群れをごぼう抜きするように全力で突進し始めて来たのだ。しかも驚いたことに、後ろに同じ個体が列になって続いている。並ぶことでこちらに数を認識させないようにしてきたのだ。

「新型。一、二……、とにかく、多いぞ!  全員新型を撃て! 近づけさせるな!」


 それが届いたころには遅かった。狼型としての俊敏性が瞬く間に距離を詰めて既に目の前に姿を現している。

「第一部隊、先行部隊! ブレード装備。接近戦に備えよ!」

 ブレードを装備、新型に備えるエリート部隊の先行隊だが、それは突進の威力が課せられた新型に軍配が上がった。忽ち後方に吹き飛ばされ、ボーダーラックの部隊の中心に割り込んできたのだ。

 パニックに陥る第二、第三部隊。第一部隊もかなり動揺していた。その中に、後ろから発砲を怠った故に迫ってきた魔物の群れが到着。前方にいた隊員を巻き込むように群れが舞台に突撃。瞬く間に混戦状態に突入した。


 後方にいた亮人たちも既に態勢を崩している状態。周りに魔物が立ち始め、マシンガンでは対応しきれないと判断、ブレードと拳銃を所持し接近戦の準備に入る。

 最初に亮人に襲ってきたのはブルータルだった。後方部隊故、訓練以外ではあまり接近戦の実戦経験がなくなれない振りでブルータルの顔を斬撃。怯んだところを拳銃で発砲。倒れたそこにブレードを差し込んでとどめ。それを直ぐに抜き取り後ろから攻めてくる別の魔物を切り裂いた。


 今の時間帯、高校は授業中。恐らく凛は来られない。その間にどんどん犠牲が増えていく。最早この状態では部隊の指示もままならなかった。どんどん隊員が倒れていく。そして亮人の後ろを取ったのはごつい体格をした例の新型。

「やべぇ……」

 新型の角がより光始め口の炎が大きくなっていく。と思ったらその炎が亮人に向かって吐き出された。咄嗟に横に緊急回避。避けた先にいた魔物をがむしゃらに切り刻み、新型に対抗するべく態勢を整えるがとてもじゃないがこの新型にたった一人で勝てる気は起きなかった。

 マシンガンに持ち替え、とにかく発砲してみるが怯む気配すら起きない。パニックの中、拳銃で発砲するが勿論効かず。ブレードに持ち替え最後の攻撃ぐらいの気分で突っ込んだ。


 その時だった。

 確かにまた視界が真っ二つに切られる異様な感覚が肌に届いた。さらに数回にわたり斬撃の音。それが終わった後、次の視界に移るのは既に消滅し始めている新型。そして、黒い刀を光らせた佐久間だった。

 後ろからぞろぞろとやってくるボーダーラックとは対照的な黒い部隊、MOAT社。

 並び終えたかと思うと黒い部隊はなんとボーダーラックの隊員お構いなしに魔物に向けて発砲を開始し始めた。亮人をはじめとする動ける数人だけが慌てて避けるがその場で置いてきぼりの隊員が何人も。

「おい! 人を巻き込むつもりか!」

 笠木がMOAT社の部隊に向かって怒鳴ったが、一向に無視して発砲。その間、佐久間は新型がじりじり近寄る中、その群れを抜き去るように前方に向かって走り出した。


「まさか、あいつ。あの新型倒さないのか?」

「というか、群れの中一直線に進んでいきやがる!?」

 佐久間は一気に群れの中に飛び込み直線方向にいる魔物のみ切り倒しながらどんどん進んでいく。まるで事を急ぐように……。


 その時、翠の言葉を思い出した。確か佐久間が使うシステムには負担が大きかったはず。ならばこの群れを全て撫で切りにしている余裕はないはず。つまり……、存在するかもしれない司令塔を倒すためだけに直進。

 だが、それを見とれている暇はなかった。目の前にはまだ新型が大量に放置されている。これは簡単に倒せるものじゃない。しかも、あろうことか既にMOAT社は退却を始めていたのだ。


「まさか、MOATの奴ら。あいつを送り出すためだけに来たって言うのかよ!」

 誰かがそう叫んだのを聞いた。多分、本当にその通りなのだろう。新型を見るな否や勝ち目はないとでも言うように撤退していく。まるで後は全てボーダーラックに任せる、もとい押し付けるとでも言うように撤退され、戦場には残り少なボーダーラックの隊員と大量の魔物だけが残された。


 皮肉とでもいうべきことではあるが一度、魔物は佐久間のおかげでちらつき、態勢は整ったが状況の圧倒的な振りは変わらない。見事部隊は囲まれていた。よく見れば後ろからも群れが続々と到着。五十体は下らない数に囲まれていた。

 じりじり寄ってくる魔物は再び攻撃を開始してくる。残り少ない部隊員が倒されていく。

 亮人もまた、同じだった。いつの間にか笠木達部隊長もマシンガンで応戦状態。だけれどもそんなのは最早焼け石に水だった。

 群れに飲み込まれ散り散りになり、瞬く間に整った部隊も沈黙。気が付いたら亮人はまた魔物に単独で囲まれる状態に。

 がむしゃらにマシンガンを乱射するが効果などなかった。


「くっそぉぉぉおおおお!!」

 ブレードを取り出し無我夢中で目の前にいる魔物にだけ意識を集中し切りつけた。何度も切り付けやっと一体倒せたぐらい。次の攻撃に備える暇も無く、後ろから魔物が牙を向けてくる。無防備な自分の背中、とても対処しきれそうにない。目を瞑り、攻撃を食らう事を覚悟したのだが、

『タイガーショット』

 突如、とてつもない光が視界を支配した。その後に続くエナジーが流出する音、そして衝撃音。目が眩み、耳鳴りが生じたが、直ぐに収まる。で、再び目を開けた時、立っていたのは白いアーマーを身に着けた凛だった。


 凜は直ぐにリロード、発砲。それを繰り返し周りにいる魔物を蹴散らしていく。さらに剣に変えると周りに向かって円状に振るう。周りの魔物を後退させた。

「ふう、間に合った……、とは言い難い状況だな」

 既にボーダーラックほとんど全滅に近い状態のこの戦場を見て凜はそう呟いた。

「凛……、部活……は?」

「それぐらいいつでも休める。それよりもこの状況を打破することが先決だ。どうも……、この魔物は厄介そうだな。おまけにまた来客が来たようだ」

『ソードモード』

 タイガバスターを剣モードに変形させ後ろをちらりと見る凛。そこには他の魔物とはひときわ目立つ、ゴリラのような狼のような紫の魔物。光と炎を宿したその魔物の後ろには電気器官を腕に持つ危険度☆☆級、ライトパンジーの姿も数体あった。この二種は☆級とは別物だ。新型も☆☆級に当たるだろう。そしてその☆☆級が計、十二体。そしてまだまだ☆級魔物がうじゃうじゃと凛、亮人の周りを取り囲んでいた。


 これはいくらシラトラ、凜とはいえそう簡単にいけないのでは? 特に亮人と言う荷物を背負った上ではなおさら……。

 いや、可能性はある。翠が言っていたあれだ。

「凛! シラトラの開発者が言っていたんだ。そのシステムには隠しシステムがある。それを使えば精神の負担は大きくなるが、数倍の力を発揮できるはず……」

 と、言ったのだが、自分でそのシステムをどう起動すればいいのかなんてわからない。分からないシステムを使うなんて……。

「問題ない……、知っている」

「へ?」


 不思議なセリフを発した後、凜に魔物が襲い出した。だが、凜はそちらも見ずにそれを剣で器用に受け流す。

「泉、ちょっとだけ魔物の攻撃を避け続けろ。耐え抜いてくれ」

「耐え抜けって……」

 何が何だか分からないが、とにかく魔物の攻撃を辛く受け流し続ける。ブレードと拳銃で耐え抜くなんて時間の問題だと思うが。

 と、凜は亮人と同じように魔物の攻撃を受け流しながらデバイスのタッチパネルに触り右にスライドの動作。そして、パネルを叩いた。


『バーサークシステム・スタンバイ』

 !? まさか、本当に隠しシステム知っていたのか、凜は!?

『メンタル・リンキング・ノーマル・エナジーアマウント・クリア』

 システム内を確認し始める。機械音がデバイスから流れ始め、その間、凜は剣と体を使って魔物の攻撃をひらりとかわしていく。

『アーマー・ノープログレム・システム・オールグリーン』

 その合図があると一度凜は深呼吸して更に魔物の攻撃を受け流し続ける。その間、亮人もとにかく必死に受け流す。

『テンパチャー・ノーマル・パルス・ノーマル』

 何か、前置き長くねえか? システム起動にどれだけ時間かかっているんだよ……。マジで翠のセンスと言うか開発時の設定を恨みたい……。でも、危険度は高いとか言っていたっけ。これだけ慎重に行うほど、精神に影響するって事なのか?

『メンタルコンディション・オールグリーン・システム・レディ』


 するとデバイスの機械音がまた小さくなった。それを確認したのか凜は亮人の前まで来て剣を大きく振り払い魔物を後退させる。そして凜と魔物の間に確かな余裕が出来た。

 凜がデバイスに手を掛ける。その凜の指先を見ていたらいつの間にかデバイスのタッチパネルが青白く輝きが増していた。

『バーサークシステム・スタートアップ』

 突如、凜が装着する白いアーマーが青白く輝きだした。一瞬近くで発行した光の眩しさに目を閉じてしまう。が、直ぐそれも慣れた。そのアーマーの光、それはまさしく翠が見せたアーマーのCGそのもの。確かに凜の言っていた隠しシステムだった。

『ベルセルクモード』


 その音声と共にまるで周りの空気が変わったような気がした。急にあたりに静けさが走り凜の周りに妙に小さなつむじ風が吹く。そしてその中、凜はゆっくりとブルータルに向かって歩み始め、剣を中段に構えた。

 最初こそ、魔物はそんな凜に対し警戒心を見せ、唸っていたが、すぐに対抗するかのように前から凜に向かって逆にブルータルの方が最初に攻撃を仕掛けてきた。それでもなお、凜は焦ることなく、静かに歩む足をぴたりと止め足をスライドさせた。そして目の前のブルータルを横切り。


「泉、しゃがめ!」

 その声に慌てて姿勢を下に崩すとそのすぐ頭上、紙一重に剣が飛び出した。それは見事後ろにいたブルータルの群れを突き差し、粉砕。

『ブレイクファンクション・スタンバイ』

 途端にエナジーチャージが開始。そして、いつもより早く『エナジーチャージ・OK』の音声。からの、

『タイガーストライク』

 凜は一気に円状に振り回すと共に爆風を呼び起こした。剣にたまったエナジーが飛翔する斬撃となり周囲を切り刻み、吹き飛ばしていく。☆級はきれいさっぱり片付いたがそれでも、☆☆級はかなり残ってしまった。エナジーが分散したゆえ、これには致命傷を与えられなかったと言う事だと思う。


 けれども凜はまた冷静に剣を中段に構えると瞬く間にライトパンジーに向かって残像を残す勢いで踏み込み。ライトパンジーの胴に一気に切れ込みが入り消滅していく。剣道でいう胴に打つ動きだった。さらに向かってくるライトパンジーの腕を、上半身を少し後ろに傾けるだけの動作で回避。そのまま脳天に斬。まさに面の一撃。


 今度は新型が三体向かってくる。それに対し凜はむしろ立ち向かった。一匹目を横に避けその勢いのまま横から切りつけ。二体目が最接近する前に凜は跳躍。剣を下に向けてそのままの勢いで新型を切りつける。着地。最後の一体が来る直前、素早く剣を振るうとそのまま左に突進を避けた。


 そのすべての動作が終わった頃、ようやく切られた魔物たちが遅れて消滅し始めた。それを見もせず構えを取り続ける凜。それは冷静、余りにも冷静だった。

 確か、隠しシステムは暴走に近い物と言っていたはずだ。理性の一部は失う。でも、凜にはそんな気配がみじんたりともなかった。もしかして、これが凜の圧倒的精神力なのだろうか。


「あとは猿三体、狼猿二体か……」『ショットガンモード』

 と、呟いた次の瞬間には一体の魔物にゼロ距離で銃口を当てていた。と、同時にトリガーが引かれ粉砕。リロード、さらに、横にいる新型に向けて発射。まるで流れ作業のように全て一発でライトパンジー三体、新型二体を倒していった。

 数分後、完全に沈黙。凜はショットガンを両手で抱えるとふうと一息、デバイスのタッチパネルに振れた。


『ベルセルクモード・リリース』

 するとアーマーからの青白い発光がゆっくり消える。額の汗を拭くような動作をした後、ゆっくりタイガバスターをブランと下に垂れ下げた。

「一応、状況は打破できたか……、相当な犠牲はあったが」

 凜と同じように亮人も周りを見渡した。そこに魔物はいなかったが倒れているのは隊員ばかり。魔物がきれいさっぱり消滅する性質とはいえ、敵が倒れておらず自分の仲間だけが大量に倒れているこの光景には軽い恐怖を感じる。多分、死者もかなり出た。さっきからピクリとも動かない人たちがそうなのだろう。


 すると後ろにいた右肩を抱え、足を引きずる笠木が一歩近づいてきた。

「まだ……、終わってない。反応が南の方に固まってある」

「ッ……! 司令塔……、ですか?」

「だが……、無理だ。ほとんどの隊員が動けない。……撤退するしかない。まだ生きている奴は直ぐに病院に運ぶ。動ける奴は……立て!」

 それを合図に、本当に数名、足を震わしながらも立ち上がった。その中、凜は後ろから呟いた。

「まだ……、魔物がいるのか?」

「凛?」


 聞き返そうとしたが、その時すでに凜は南に向けて戦闘によってかなり崩れた大通りを猛ダッシュで駆け抜け始めていた。留めようとした声を掛けはしたがとっくの昔に届かない距離にいる。

「危うけば、奴が司令塔を潰してくれるか……、MOATが倒しているか」

 笠木の言葉にハッとした。MOATの佐久間が先に突っ込んでいったはずだ。あれだけの戦闘能力を持つあいつだ。司令塔を見つけ出しもう倒していてもいい頃のはずなのに……。倒せていないのだろうか……。


 それともう一つ、引っかかる所があった。凜はついさっきあの隠しシステム、バーサークシステムとやらを使っている。翠曰く、続けての使用は危険が増すらしい。確かに凜は凄いがどこまで行けるのかなんて分からない。

 亮人の胸に不安と自分自身のコンプレックスを何度も往復させた。ここで撤退したらまた所詮七光りで終わってしまう。自分にできる事、それは魔物の殲滅させるアシスト。それが今ここで出来なかったら、結局は親父のコネで入社したクズで終わってしまう。


「部隊長、俺。凜の後を追います。俺はまだ一応動けます」

「撤退命令を出したはずだ」

「俺は動けます! 凜に助けられましたから……」

「その借りを……返すためって事か?」

「違います! 俺にできる事をするためです。ボーダーラック、第一部隊第七小隊、後方支援部隊として凛、シラトラの援護をします。俺が役に立つなんて自信はありません。でも、俺は動ける限り出来る事をしたい。俺は俺。七光りじゃなく、俺自身の手でやるべきことを果たすために」

「フッ、カッコよく行っているが……、結局のところ七光りが悔しくて見返したいってことだろ?」

「いや……、それは…………」


 はっきり言って図星な返答に口が途絶えてしまう。どう返答すればいいか考えていると笠木は自分の腰にぶら下がっているマシンガンのマガジンを数個投げ出してくれた。慌ててそれを受け取る。

「お前の弾丸、残り少ないだろ」

「……、どういう事です?」

 マガジンを見つめた後、笠木を見上げると笠木は右手で亮人の後ろ、先の南方を指さした。

「行け、泉。小隊長、間宮の負傷により、直接部隊長より特別命令だ。これより、南方に潜む魔物殲滅作戦を開始する。泉は殲滅しようとするシラトラを援護、支援を行え。最終目標、変わらず司令塔だ。潰せ」


 一度ポカンとしてしまった。そんな亮人を笠木は後ろを振り向かせ尻を叩く。

「お前が言ったんだろ。さっさと行け!」

 押されて前に数歩出る。後ろ、笠木の方を振り向くとグッドサインを亮人に向けてくれた。

「お前はただの七光りじゃないさ。お前の実力はわたしが保証する。突っ込んで来い!」

 その言葉にぐっと歯をかみしめた。そして南方に向かってスタートダッシュを切る。

「はい!」

 その返事をばねにし、一気に走り込んだ。

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