第1話 アーマーシステムの適合者 (2)
目的地付近に付いた。市街地の中ではあるが、ただ広く周りに何もない公園が広がっている。よくもまあ、旨い事こんな土地を選ぶことが出来たものだ、と感心しながらも公園に置いてある時計の時刻を見て、慌てて招集場所を探す。
スマホに指示された場所に行くと既に人が集まっていた。かなり広い公園に同じボーダーラック社の社員、いわば同僚たちが連なっている。ただし、白を基調にした“防弾チョッキ”やら“ヘルメット”やら武装を施しているのではあるが。
「泉、遅いぞ。何やっていた?」
この場所で一番偉い人、いわゆる亮人の上司、笠木瑞子(かさぎみずこ)が亮人に厳しい視線を送ってくる。
「すみません。ちょっと……」
「いいから、さっさと武装しろ。そして位置につけ」
「はい!」
慌てて右手にはめられている小型の腕時計みたいなものに指を触れた。と、同時に音声。
『アーマーオン』
そうすることで亮人の体が一瞬の間に白い防弾防圧チョッキに包まれる。さらに肘や膝にパット。頭にヘルメットが装着され、周りにいる人と同じ格好になる。
それを確認すると、亮人の定位置、部隊の後方に立った。
「これより、魔物殲滅作戦に入る。前方に注意せよ」
ヘルメットを通して笠木の指示が届く。これは他の人たちも同じだ。すると、隣にいる人が亮人に小声で声をかけて来た。
「よう、遅刻野郎。父親が偉いと遅刻も許されるんだな」
「黙ってろよ、木島」
声をかけて来たのは木島拓哉(きじまたくや)。同じ時期に入った、つまり同期。いや、亮人は遅れて入社したから本当の同期とはいえないのか。とにかく、こんな感じで突っかかってくる奴だ。
だけれども、こんな風に突っかかってくる奴は珍しくない。むしろ大半がそうだ。亮人はその通り父親のコネで入った事になる。それを疎んでいる奴らが亮人の事を嫌う訳だ。
「言っとくが、親父は関係ない。俺は俺だ!」
そんなやり取りをしていると、部隊の前方から声が張りあがった。
「前方より、危険度☆級。狼型、発光性、ブルータルの群れが出現しました! 計五体です」
「よし、殲滅を開始する。目標、ブルータル。第一小隊、第二小隊、前方からくる敵を弾幕で押さえろ、そのまま、フォーメーションAに移行」
「「ラジャ」」
笠木の指令の元、一斉に動き出す。フォーメーションA、一~四小隊で敵を囲み、五~七正体が援護射撃。一小隊は五人からなり、亮人がいる隊は木島と共に第七部隊。後方部隊に当たる。
今、亮人たち、白い部隊が囲んでいる物は魔物と呼ばれる未知の生物。彼らがどこからやってきて何が目的なのか、その正体、果たして地球の物なのかもいまだ分かっていない。
ただ、何の前触れもなく突如、街中に現れては他の生物などと違い、明らかに人を積極的に襲おうとすることは確か。で、目の前にいるブルータルと呼ばれる魔物は狼の形をした青い毛並を持つ。背中に発光体を持っているのが特徴だ。
そして、この魔物こそ、亮人を受験開始時期から桜が散る時期まで病院のベッドで気絶している破目になった原因、張本人である。つまり、事故とはあの日、魔物に襲われたと言う事。
ちなみに今、亮人たちはマシンガン、立派な武器を持っている。亮人が所属するのはあくまで民間会社。ではなぜ武器が持てるのか。それは許可証があるからだ。部隊にいる人は全員が許可証を持っている。これを持っている限り、武器を所持し、魔物に対して武器を構え、発砲することが許される。
「攻撃開始!」
その合図と共に、一~四部隊が一斉にマシンガンによる射撃を開始する。それによってブルータルの群れは勢いをそがれ鳴き声を上げながら銃弾を浴びていく。魔物の体に銃弾がどんどん叩き込まれ一体、また一体と倒れていった。
「二体撃破!」
第一部隊の小隊長が叫んだ。すると倒れた魔物はまるで空気となるように肉体を残さず消えていく。これも不思議なところだ。魔物は生命力を失うと死体が残らず完全に消えてしまう。この謎は魔物の生態の中でもかなり大きく取り上げられる内の一つ。
着々と片付いていく中、誰かが悲鳴のように叫びをあげた。
「前方、前方です! 前方から馬型、放電性、ディードホーンの群れが出現しました! それと……、危険度☆☆級……、猿型、放電性、ライトパンジー。まるで、ディードホーンの群れを率いるように迫ってきます!」
「は?」
突如、沈黙が訪れた。ただ、マシンガンの射撃音だけが鳴り響き、確かに向こうから別の群れがやってくるのだが、それでも沈黙が続いた。
だが、それも笠木の指示によって砕かれる。
「後方部隊。後方よりライトパンジー及び、ディードホーンの群れに射撃を開始。いや……、違う。ライトパンジーだ! ライトパンジーに集中攻撃。近づかせる前にこれを抹殺せよ」
亮人、及び他の五~七部隊が一斉に銃口をライトパンジーに向ける。ライトパンジー、二足歩行を行う青色のサル。牙と手に電気器官を有しており、そこから電気を発している。人間の大人より大きいその巨体、その戦闘力もあって危険度☆☆級に指定されている。
一斉に射撃を開始。亮人の右腕に例の痛みもあっていつもより反動が響く。でも、ここでやめる訳にはいかないのは確かで、狙いをひたすら定めて打ち続ける。
「これはイレギュラー事態だ。臨機応変な対応を出来るように各自心構え。先行部隊はブルータルを処理次第、ライトパンジーに射撃を開始……」
「だめです! ディードホーンがライトパンジーの前に出て庇うように前進してきます」
第五部隊の小隊長が叫ぶ。確かにその通りだ。ユニコーンのような見た目で黄色の毛並みを持ち、角に電気器官を備える魔物。ディードホーンがライトパンジーを確かに庇いながら接近してくる。まるで、指揮された部隊でライトパンジーを敵のど真ん中に突っ込ませて来るような。
「ブルータル、殲滅! これより目標を移行、ライトパンジー!!」
部隊すべての銃口が一斉に向けられる。周りにいるディードホーンは倒れていくがデカい猿は体を屈ませた猿らしい二足歩行でひたすら迫ってきて、さらに雄叫びが上がる。
「部隊をちらつかせろ! 先行部隊は接近戦の準備に移行。第一小隊にライトパンジーを引き寄せ、フォーメーションBに移行。他の部隊で一斉攻撃により目標を抹殺」
フォーメーションB。先行部隊は接近戦、後方で射撃支援のフォーメーション。
既にディードホーンはすべて倒したが、ライトパンジーは既に第一小隊の前に来ていた。第一小隊は準備していたブレードで接近戦を開始、その小隊にライトパンジーは容赦なく腕から雷を放ち、同時に耳をふさぎたくなるような騒音と共に電撃が辺りに放電していく。
その隙に残り、二~四部隊がブレードで一斉にライトパンジーに切りかかった。全員が一撃離脱。計、十五の斬撃を受けたライトパンジーは足元のバランスを崩して地面に伏せる。どうやら足の損傷に成功したらしい。
腕を地面に突き立て、咆哮を上げながらも立とうとしているライトパンジーに笠木から下る射撃命令を受け、後方の五~七部隊で一斉射撃。のちに、二~四部隊の射撃に参加。何百発もの銃弾を浴び続けたライトパンジーはもがきながらもその数分後に動きが止まり、すうっと音も出さずに消えていった。
しばらく間があったがやがて、殲滅成功が全部隊に知らされる。そこでへなへなと倒れ込んでいく人たちが何人か現れ始めた。
やがて、笠木から声が流れて来る。
「死傷者、何名だ?」
「負傷、二名。死者……、第一部隊、五名です」
第二小隊の小隊長がそれを報告。つまり、第一部隊がライトパンジーのあの電撃を受けて全滅、殉職したということになる。
それを耳にした途端、部隊が一斉に重い空気となった。
笠木瑞子。対魔物戦闘第一部隊の隊長。茶色に染めたロングヘアが風に空しく靡いている。腕を組む笠木の手に大き目な胸が乗っかる。いわゆる巨乳という奴。そして、その綺麗な顔の中にある双眸が濡れているのが亮人には分かった。多分、今笠木には後悔が映っているのであろう。でも、彼女自身、何より頼れる上司、強い指揮官であることを望む性格である。だからこそ、笠木は目をキッとしぼると口をかみしめた。
「疲れているだろうが、今ここで聞く。戦闘を行って今回の魔物の動きにどう思った?」
鋭く空気を切り裂くような声。ざわざわと部隊がざわめきだしたが、第二小隊長が進んで手を挙げる。
「自然ではありえないほど統率されていました。まるで……、魔物にも指揮官がいるかのように……、もしかして、ライトパンジーが指揮官のような役割を?」
「分からない……、だが、余りに不可解な動きだ。これはいったん、上に報告する。今度からそれも踏まえて作戦行動をとるように」
つまりはこうだ。今まで魔物と戦ってきたが、魔物は基本的には動物と同じ。同種が群れを成して行動したり、ライトパンジーのように単体行動したりする。だが、今回は二種類……、もしかすればブルータルを入れた三種類が統率されていたのかもしれない。少なくとも、魔物が別の種の魔物を庇うような行動は一度たりともなかったはずだ。
「今日はここで解散とする。負傷者はわたしが用意した車に乗れ。と……、それから泉、ちょっとこい」
名前が呼ばれて慌てて笠木に近寄る。
「笠木部隊長」
「泉……、確か今日も例のシステムの適性審査だったんだっけか?」
「はい。そうです」
「そっか……、それで遅れたって事でいいのか? 体の調子が悪かったんじゃなかったのか?」
「え? あ、いえ。そのような事は」
慌てて否定すると笠木は亮人の右手をポンと叩いてきた。
「いってぇえ!? ちょっ、部隊長!?」
ちょうど火傷していた部分に笠木の手が当たり激痛が走る。笠木はため息をつくと任務のために笠木が乗ってきたのであろうワゴン車から包帯を取り出し、亮人に投げつけてきた。
「嘘をつくな。システムを使ったばかりで本調子な訳ないだろう。そんなんじゃ泉、死ぬぞ? 無理なら無理と言え」
「いや……部隊長の迫力がありすぎてそんな事が言えなかったと言うか……」
「ああ?」
「いや……、何でもないです」
「取りあえず、それ巻いておけ」
「あ……、ありがとうございます」
取りあえず、ご厚意に甘えるべきだと思い、火傷の部分を包帯で巻く。巻いている時、また笠木はまた声をかけて来た。
「で……、肝心の適性審査はどうだったんだ?」
それを期に再び頭に今日のテストの様子が頭に浮かぶ。実に無様な結果である。
「まあ、ちょっと……、だめですね」
「はぁ……、そうか……」
と、またため息をつくと巻き終わったのを確認したのか、亮人の手からさっと包帯の束を奪い取ると車の運転席に乗り込みだした。
「これから直ぐに負傷者を病院へ送る。泉も送ってやろうか?」
「あ、いや。もう、大丈夫です」
「本当か?」
「うっ……」
じっと見つめてくる笠木。どうも彼女の眼は心の奥まで見据えているようで何とも言えない物を感じて不安というか、妙な恐怖すら感じてしまいかねない。
「え……、ええ、本当ですよ」
「……、そうか。ならば気を付けろ」
そういうと、豪快に音を鳴らしながらドアが閉められ、車が発進する。その様子を見守っていると、今度は後ろから声が聞こえてきた。
「ふん、父の七光りは部隊長様にも気遣ってもらえるのか? 言い御身分だな。おまけに新システムの被験者で、途中から入ったくせに第一部隊の隊員だもんな。新人の俺がどれだけ訓練を人一倍やってこの場所に来れたか知ってるのか?」
アーマーを外した木島が機嫌悪そうに横腹を突いてくる。亮人も『プットオフ』と言う音声と共に、アーマーを解除するとその突く腕を振り払った。
「親父は関係ない。この場所は俺が自分で手に入れたんだ。被験者だってたまたま俺に適性があっただけ。システムの被験者になるかは適性があるかないかだけだ」
「本当にそんなもんか?」
亮人と木島は互いに睨み合うばかり。そんな中に割り込んできたのは第七小隊長の間宮(まみや)だった。
「おい、二人ともそれぐらいにしとけ。いいから、泉はさっさと休め。な?」
二人の肩をポンと叩くとそれと無く距離を取らせる間宮。
「……隊長」
それでも、木島は依然ムスッとしたまま、無言で離れていくだけだった。
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