ラヴ・イズ・オーヴァー

摩天楼・華

-ばあちゃんの恋、通夜にて、遺影の隣の写真の男-

「ねぇ、誰、あれ」

「ほら、おばあちゃんの…」

「え、ばあちゃんの何?」

「シーッ!!!!!」

凄い形相で引っ張って行かれた部屋の隅に。

ちょっとナミ。何、何なのよ。

答える代わりにナミが指差したのは遺影の隣の写真。


通夜までの時間は憂鬱だった。

楽しい訳がない。

親戚の顔なんて一人も知らない。

ばあちゃんに会ったのだって小学校の時以来だ。

今日だって来たくなかった。来なくても良かったのだと思う。

母は今日も逃げた。滅多にしない連絡をよこしてあたしに出ろと命令した。

突然前日に連絡されたって服もなければ髪を染め直す時間だってない。

グレイアッシュの髪に私服のあたしに声をかける者は従妹のナミだけだった。

居辛さから外へ出て携帯ゲームをしたり煙草を吸ったりなるべく誰とも接しないように

していたら家の前に車が停まった。出て来たのは地味な女と派手な男。数年前よく通っ

ていた店のホストを思い出した。二三事話して女は車に戻った。男は家に入っていった。


炊事場からの伯母たちの声が聞こえた。

「なんで来たのよ」「亡くなる前に報告だけはして欲しいってお母さんがうるさくて。そしたら来るって」「何それ。あんたが殺したようなもんでしょって言ってやんなさいよ」「殺してはないでしょ。お金もらってただけで」

煙草を吸いに出たら叔父さん達の声が聞こえた。

「老けた氷川きよしだなー」「違うよ、『夢芝居』だよ」「つまんねぇ仕事やめて俺も化粧してみようかな(笑)」


知らなかった。


あたしの知るばあちゃんは子供の頃母を怒鳴りつけていた姿だけ。


戻ってちらりと男を見たら、男は金髪に似合わぬ正座でじっと遺影を見つめていた。


深々と頭を下げた時、ワイシャツの背中からチラリと、色つきの鱗が見えた。



写真の中のばあちゃんは最高にいい笑顔でピースしてた。


やるじゃん。ばあちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラヴ・イズ・オーヴァー 摩天楼・華 @yumemaboroshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ