第16話 過去の後悔



 約半日ほどかけて、資料を調べた佐座目の下に菖蒲がやってきた。


「あ、あの……お茶、持ってきました。良かったら、どうぞ」

「わざわざ、持ってきてくださったんですか。すみません」

「い、いえ……。好きで、やってますから……」


 温かいお茶を受け取り飲み干すと、乾いていた喉が潤っていく。


「あの、えっと……、作戦には、参加されるんですよね」

「ええ、そのつもりです。まあ、嫌だと言っても強制的に参加させられるんでしょうけど。今はどうでもいいかな。何とかしたいと思っていますし」

「そ、そう……ですか」

「とりあえず、座ったらどうですか。女性に立ったまま話をさせるのも気になりますし」

「あ……、じゃあ……し、失礼……します……」


 佐座目の隣に、小さくなって座る菖蒲。

 立っていた時よりも、とても窮屈そうだ。

 だかといって、立たせるのはかわいそうだろう。


「し、調べていたんですね」

「ええ、この世界の事をしっておきたくて」

「わ、忘れてる……から」


 そういえば、まだ理沙や美玲アルシェ達には言ったが、自分がディエスではなく佐座目であることは言っていない。

 このまま勘違いさせた方がいいのか、そうでない方が良いのか。

 幸か不幸か、この菖蒲という少女はディエスのことを避けてはいないようだが……。


「そういえば、気になっていたんですが。どうして菖蒲さんは他の人みたいにディエスを避けないんですか? 佐紀さんもそうですけど……」

「あ、えっと。それ……は、あの……っ」


 普通の質問のはずだが、何故か菖蒲は赤面して慌て始める。


「佐紀さんの場合は、どんな人でもああいう態度……なので、特別ディエスさんに親しくしている……わけ、ではないです。わ、私の場合は……」


 まるでこれから何か重大な事でも、告白します。と言わんばかりだ。

 椅子の上で組んだ手をぎゅう、と握りしめ肌から血の気がうせて白くなっている。


「言いたくないのなら……」

「い、いえ……違いますっ。わたっ……私、その……」

「とにかく一度落ち着いてください。ちゃんと待てますから」

「は、はい……」


 段々言葉があやしくなってきたので、さすがに佐座目は制止して、落ち着くように促した。

 しばらくの時間、彼女が呼吸を整えるのを静か待つ。

 それで、落ち着いた彼女から再び話を聞いた。


「私、中学生の時にディエスさんに助けられたことがあるんです」


 怖い先輩たちに囲まれて脅されていた時の事だそうだ。

 その時は、船頭牙が助けに入って事なきを得たのだが、菖蒲はお礼も言わずにその場から逃げてしまったらしい。


 その時の後悔をどうしても何とかしたくなった彼女。周囲でうろうろしているうちに、船頭牙が抗体組織で活動していることを突き止めてしまい、なしくずし的に入る事に自分も入る事になってしまったらしいのだ。


「その時、ディエスさんに、自分のせいで巻き込んでしまったと、すごく謝らせてしまったんです。悪いのは傍で動き回っていた私なのに。……でも、そっちの方が気にしてもらえるかもって、思って……今まで内緒にしてきたんです。ごめんなさい」


 水菜と理沙だけにとどまらず、菖蒲にまでフラグを立てていたとは。


「菖蒲さんは気にしなくていいんですよ」

「ですけど……」


 ずっと、今まで気にしてきたのだとしたら、さすがに可愛そうになって来た。

 きっと悪いのはフラグを立てるだけ立てて管理しない、牙が悪いのだ。


「僕が本当のディエスに……、船頭牙に伝えておきますから」

「えっ」


 取りあえず僕は、そのために自分の事について菖蒲に話すことにした。


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