ナイトメア ~希望の在りか~
仲仁へび(旧:離久)
プロローグ 私達が生きるべき世界は
そこは人の気配のまったくしなくなった町だった。
寂れ、やがては朽ちていく建物がただ居並ぶだけの町で、
夜の闇に沈んで、灯りのない町。
その中を移動していく、数人の人影があった。
総勢三十名程の人間の影。彼等は、とある目的地へと移動している最中だった。
全体的な比率としては男性の方が多く、女性は全体の一割にしか満たない人数だ。
その中の女性の一人が、周囲にいる者達へ声を掛ける。
「分かっているとは思うが、ここからは地上を移動することになる。ナイトメアと遭遇しても極力戦闘は避けて通るからそのつもりでいろ、いいな」
女性の名前は、
全体的に厳しい雰囲気を纏わせている、真面目そうな印象を受ける女性だった。
微笑みを浮かべれば一瞬で男を虜にできそうな整った顔立ちをしてはいるが、彼女が笑みを浮かべるのを見たものはこの中にはいない。
そして彼女の切れ長の瞳は、いつも鋭く何かを睨んでいる様に他者からは見える。
悪く言わせれば堅苦しそうなイメージしかない彼女の容姿であるが、そんな彼女にも一点だけ、不真面目といっていいパーツが存在している。
それは髪だ。
背中に流れる艶やかな黒色の長髪は普通だが、彼女の額にかかる前髪に、染料を使って赤く染めた髪が一房だけ存在しているのだ。
彼女を良く知る人間は、 必ずそれを見て不思議がる。
あんなに真面目な人間がどうしてあんな風にしているのか、と。
その事情を知る唯一の人間は、この手段の中にいる一人の男性……ディエスだけだ。
美玲は、集団から離れたところに立って、空を見上げていたその男に声を掛ける。
「何か、気になる事でもあるのか?」
「……」
だが男は、何も答えず美玲の顔を一瞥したのみでその場を離れていく。
しかし、美玲は昨日今日で始まったものではないその態度にも慣れていた。ディエスの後を追いながら、周囲に声をかけ町の中を移動していく。
「ディエス、分かっているだろうが今回我々が行う作戦は……」
「どうでもいい」
「……」
かけた言葉を切って捨てるような反応が返ってくる。
それでも美玲は根気強く言葉を続けていく。
「我々の肩には、この世界に生きる者達の希望がかかってるんだ。この作戦が成功すれば、少なくとも今よりは状況は良くなるはずだ」
「俺は、どうでもいい」
だが、再度返って来た言葉は先程の言葉の繰り返しだった。
「ディエス。過去に捕らわれて生きるのは止めろ。死んだ人間は、なくしたものは戻らない、なら今あるものを大事にすべきだ。お前を心配している者だっているだろう、例えば里……」
「黙れ」
これまでまったくこちらのことを顧みなかった男からの言葉を受けて美玲は、息を呑んだ。
声には爆発しそうな怒気が含まれいて、視線には見る者を凍てつかせるよう色が見られる。
「俺は、あいつを殺した人間を殺せれば、それでいい。それ以外がどうなろうと知った事じゃない」
そして、それきりこちらに付き合う気をなくしたような態度で、歩調を速めて離れていく。
他の者達から離れて、一人で歩くその姿はいつも見慣れたディエスの姿だ。
変わらない、いつもの日常の風景。
だが、と美鈴は思う。
「駄目だ。こんな光景を日常にしていいはずがない、お前も、誰も、私達は……もっと日の当たる世界で生きるべきだ」
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