第7話 大切な君の夢
そんなこんなのやりとりがあった後、そのまま私室(もちろんディエスの)にたどり着き、美玲と別れた。
色々調べてみようかと思ったが、特にすることなどなかった。
部屋に物が何もなかったからだ。
必要最低限の物しか置いてない。
そして後は、貰い物らしき女物の道具か。
ディエスについて知りたかったが、これではとうてい調べることなどできないだろう。
そういえば、と鏡はないかと探す。
ディエスとやらの顔がどんななのか、気になる所だ。
聞き及ぶ性格の悪さから、おそらく悪人みたいな顔をしているのではないかと洋装するが。
捜している最中に、誰かが部屋をノックした。
「あ……の……」
「何か御用ですか」
控えめな女性の声だ。どこかで聞いたような。
「え……と……、入ってもいい、ですか」
「もちろんどうぞ」
部屋の扉を開けて入って来る女性は、昼間地下にいた時に話しかけてこようとした女性だった。
手には食事のトレイがある。
「これ、ご飯……です。いつも運んでいるので……今日も、どうかなって、思ったんですけど……一応」
そういえば、まだご飯食べてなかったな。
トレイのから、香る食べ物の匂いが急に佐座目に胃の空腹を教えてくる。
「ありがとうございます、いつもこんなことをしていたんですか?」
「はい……訓練に夢中になって、ご飯を抜くことが……何度もあるから、美玲さんに言われて」
トレイを受け取って尋ねれば、女性はそう答えてくれる。
「そういえば、君の名前はまだ聞いてなったね。できればついでに医務室にいる人の名前も教えてほしいけど」
「
「そうかな、とても良い名前だと思いますよ」
「あ……ありがとう、ございます」
多少どもりながら、つっかえながらではあるが、会話がスムーズに成立していることに気づく。
この子はディエスが怖くないのだろうか。
その事を聞けば、
「だ、大丈夫……です。本当は優しい人だって、分かって……ます、から」
そんな事を言って、部屋を去っていった。
聞く限りでは、優しい人間にはとても思えなかったんだけどな。
そう思いながら食事をとった後は、色々今日一日の疲れが押し寄せてきて、それ以上何かを調べたり考えたりする期にはなれず、部屋のベッドの上に寝転んだ。
うっかり目を閉じてしまえば、予想外に早く、すぐに眠りについてしまった。
夢の中で僕は、抗体組織のトレーニングルームに立っていた。
これは過去の記憶だ。
目の前では自分の兄がいて、二人の少女に代わる代わる激励されながら、腕立て伏せやら走り込みやらの訓練をこなしている。
兄は情けない様子で、ひいひい言いながらも必死に訓練メニューをこなし続ける。
ああでもない、こうでもない。
兄の様子について言い合っていた二人の少女のうち一人がこちらへとやってくる。
髪をツインテールにした勝気そうな少女だった。
その少女は、離れたところでなさけなく床に倒れこんでいる兄を指さす。
「あんたもあんな風になりたくなかったらしっかり訓練に励みなさい。いいわね」
僕はその時なんて言っただろうか。
「じゃあ、頑張ったらご褒美に僕とデートしてくれますか」
ああ、そうだった。確かこんなことを言ったんだった。
その時の彼女の反応は……。
「なっ、何言ってんのよ! 所詮あんたもケダモノってわけね!」
真っ赤な顔になって、肩をいからせてこちらを睨みつけたんだっけ。
僕はそんな彼女の様子が面白くて、もう二、三言からかいの言葉を投げて彼女で遊ぶのだ。
楽しい思い出だ。
君は知らないだろうけど。
僕はこんなにも誰かと一緒にいて楽しいと思うことはないんだよ。
君以外には。
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