第6話 アルシェ・バード
何か凄い音がした後、何事もなかったような様子で部屋の中から会話が聞こえてきた。
「いい加減、この部屋を占領するのはやめろ」
「ううん? 僕は占領なんてしててないよ。来たければこればいい。僕は拒まない」
美玲の声に続いて聞こえるのは男の声。
中にいるのは、話が通じないタイプの人間らしい。
「入って良いぞ。見たかったんだろう」
「はぁ、失礼しま……」
佐座目は挨拶もそこそこに絶句。
部屋の中はなんか色々悲惨だった。
壊れた筒やら切れたワイヤーやらが散乱してるし、うっすらと煙が漂っている。
「ええと、ここは何の部屋なんですが」
「視聴室だ。使われなくなった、な。一時は息抜きとして使われてた時期もあったんだが機材が壊れてからは、誰も寄り付かなくなった。こいつが居ついたせいでな」
奥にいる人物は、寂れた椅子に腰かけながらディエスの方を見つめて首をかしげる。
金髪で色白の肌、青い瞳をした青年だ。
「その口調、それは何の冗談だい?」
記憶喪失ということを知らない彼はそう不思議そうにする。
「昔はともかく、お前はディエスが冗談を言うような人間に見えていたのか」
「それは、ないね。話を聞こうか。何かとんでもないことが起きたみたいだね」
佐座目はため息を押し殺す。
この建物に入ってから何度目になるか分からない説明をアルシェにもすることになった。
――――
「なるほど、まあ僕には関係のない事だけど」
「お前なら、そう言うと思った」
アルシェはディエスの方を見て興味なさそうにそういう。
「ただちょっと聞いておきたいことはあるんだけど、君は彼女のことは覚えているのかい?」
「彼女?」
「ああ、だいたいその反応で分かったよ。……忘れてしまったんだね」
アルシェは悲しそうに瞳を伏せる。
佐座目の話に一応耳を傾けつつも、どうでもよさそうな態度をとっていただけに驚きの反応だ。
「あれだけ大切に思っていたのに、ね」
彼女とやらが誰なのか分からないがディエスには大切な人がいるらしい。
それとも、いた……のだろうか。
案外ディエスが破滅的な性格になる原因だったのかもしれない。
先程の美玲の言葉を考えれば、以前はこうではなかったようにも聞こえたし。
これで聞きたい事は終わったとばかりに視線を外すアルシェ。
だが、佐座目が部屋を出る時に、最後に一言だけ付け加えた。
「何か問題があったら言うといいよ。その気になったら助力しよう」
親切なんだか、不親切なんだかよく分からない言葉だ。
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