第4話 ディエスという男
医務室に連れてきてくれた女性の話をまとめよう。
ディエスという男は、困ったさん。つまり問題児だったらしい。
人の話は聞かない、忠告は無視する。仲間のフォローは最低限しかしない、チームワークなど存在しないかのように独断行動する。口を開けば「話しかけるな」とか「うるさい」しか言わない。部隊活動していない時は、ひたすらトレーニングにあけくれて誰とも顔を合わせようとしない。
まさに問題児の中の問題児といった言動だ。
よりによってそんな奴の体に宿ってしまうとは……。
「それは困った人ですよね」
「は、はぁ……」
彼女は曖昧な言葉で答えた。
それが正直な佐座目の感想だが、向こうから見たら当の方人に言われている言葉なので何とも言えないのだろう。
そんな風にこの体の
「ディエス!」
振り返る。
医務室に怒号が飛び込んできた。ついでに新たな人物も。
「アンタまた無茶したんだってね。馬鹿だねぇ。援護もなしにナイトメアの群れに突っ込んでったなんて」
その人は、足音を立ててこちらに近づき、佐座目の頭をはたいた。
仁王立ちして立つその人は中年の女性だ。
怒りの感情を表して、ぷっくりと膨らんだ鼻が特徴のふっくらした体格の人物。
こんな所にいるよりは大家族の家庭で、お玉を片手に子供達をしかりつけているのが似合うだろう。あるいは大衆の食堂で働いている姿か。
「とうとう記憶が飛んだのかい、いい機会だと思って大人しく治療されな!」
「怪我人を殴っていいんですか?」
ここは医務室じゃなかったのか、と発言するのだが。
「馬鹿だねぇ。忠告を無視して飛びだすような問題児に権利なんてあるのかい」
「微妙に矛盾しているような……」
「とりあえず、ちゃんと見せな。記憶うんぬんはともかく、怪我してるだろう」
「いえ、怪我なんて」
と、思って断ろうとしたが。
自覚すると痛みというものは主張しだすんだった。
体の各所の具合に意識を行きわたらせると、横っ腹が地味に痛いことに気が付いた。
どうやら自分が宿る前に、
椅子に腰かけて服をめくって見せると、肌が内出血して赤黒いあざができていた。
「ふんふん、出血はしてないみたいだね。アタシがこっち方面の異能を持っていたら力になれるんだけどねぇ」
と、女性はシップを取り出して佐々目の脇腹にペタペタと張ってテープで固定していく。
「治療系の能力を持つエージェントはいないんですか?」
「アンタも見たろう、この施設のざまを。怪我人ばっかのところにナイトメアが突っ込んできてね、皆やられちまったのさ。生き残ったのもいたはいたけど、本部に持ってかれちゃったよ」
「本部に?」
「ああ」
女性はふう、と息をついて治療の記録を用紙に書き込んでいく。
「例の作戦が近いだろ? それで一番重要なところを担う本部が、あちこちの支部から戦力をかき集めてるのさ」
「例の作戦? というと……」
「アンタ、そんなことまで忘れちまったのかい? んん、どうにも変な感じだね」
女性はじっとこちらを観察しながら首を傾げている。
「記憶を忘れたっていうよりは、はまるで別人と接しているみたいだね」
迂闊に喋りすぎたかもしれない。
これ以上怪しまれると、今後の活動に支障が出てくるかもしれない。
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