第13話 アズベル 初めての極秘任務


アズベルの旅立ちをグランに認めさせてから、アズベルはよりいっそう訓練に取り組んだ。無論、その間も魔方陣の勉強や、レミアとの遊びも欠かさなかったが。


時は流れ、6歳の誕生会も過ぎた春のある日。アズベルはついに動き始めた。現在の状況で一番優先すべきだった事柄を思い出したからだ。




       ◆◆◆




「ん?今日はお出かけか?マリー。」

マリーはたまに休暇を貰っては、実家へ帰ったりしている。いつもは普通の服なのに、今日はよそ行きの服を着ていた。


「はい!今日はベルと一緒にコンサートに行くんです!」

マリーはとっても嬉しそうにしていた。


「…は?コンサート?ベル?そいつ誰?」

アズベルはその名をどこかで聞いた事があるように感じた。


「あれ?アズベルさんに言ってませんでしたか?ベルは、私の友達ですよ!」

「ベル…友達…なっ?!マリーの彼氏じゃん!」

アズベルは思い出した。3年前にふと聞いただけの名前。マリーの彼氏、ベル。

とても重要な事をアズベルは、訓練やらレミアやらですっかり忘れていたのだった。 


「違いますよ!ベルはただの友達ですって!…でも、ベルが彼氏…嬉しいな…」

マリーは頬を染め、ボソボソと呟いている。


(聞いた!そのセリフ3年前にも聞いたぞ!)

アズベルは叫んだ。


「あっ!もうこんな時間!すみません、アズベルさん!行ってきまーす!」

そう言い、マリーはスカートを風にたなびかせながら、走って行ってしまった。


アズベルはプルプルと震えた後、声高に笑った。

「フフフッ…アハハハハッ…どうやら、旅立ちへの障害はこんな所にもあったようだな。…ベル。マリーの彼氏か…」

アズベルは町の地図を手に取った。






       ◆◆◆






爽やかな風が吹く、ある日のお昼過ぎ。

アズベルは町の喫茶店で、ある人物を待っていた。

マリーには休暇を言い渡しているため、ここにはいない。アズベル一人で出向いていた。


カランコロンコロン…

客の来店を知らせる鈴が鳴った。


「やっと来たか。」

ドアの方を向くアズベル。その目は少しいつもとは違っていた。


視線の先の人物は、特に目立つ服装はしておらず普通の女であった。そして、その女は店員に連れられてアズベルの席とは別方向に行ってしまう。


「人違いだったか…」

アズベルはイライラした様子で時計を見る。


(待ち合わせの時間は2時だったはずだ。なのに…)

チッと舌打ちをする。


「…いけないな。気を落ち着かせないと。」

そう言い、アズベルはを口に含んだ。




       ◆◆◆




「あの、依頼者のアズベルさんで宜しいですか?」

待つこと数分、後ろからいきなり声をかけられた。


「うわっ?!な、何なんだ?」

突然の事に驚くアズベル。思わず身構えてしまう。

そこにいたのは先ほどの女だった。


「は?…お前はさっきの…まさか、お前が探偵か?」

「はい、そうです。名をティナ・ポステルといいます。お向かい失礼します。」

そう言い、ティナは席に座った。


「そんなことより、もう少し早く来れなかったのか?」

アズベルは不機嫌そうに言った。


「えっ?まだ、約束の時間まであと3分ありますけど…」

「あと、3分しかないんだぞ!普通は予定時刻の15分前にはついておくものだろう?」


アズベルは時間には厳しかった。

前世でネトゲのイベント開始時刻の15分前にはPCに向かっていただけはある。


「はぁ…以後、気をつけます。」

「分かれば良いんだ。改めて、挨拶をしよう。僕はアズベル。フォスター家の次男だ。こんな見た目だけど、対等に接してくれると嬉しい。」

「では、改めまして。私はティナです。探偵をやる傍ら、趣味で冒険者をしています。」


(おいおい。普通は逆だろう。何だよ、趣味で冒険者って…)

アズベルは思いっきり驚いている。

しかし、ティナはそんな事を気にも止めず、平然と話を続ける。


「本日はどのようなご用件で?」

「あ、ああ。先に言っておく。今から見せる紙の人物名は絶対に声に出すな。それだけは約束しろ。」

「了解しました。」

ティナは、特に不思議かる事なく深く頷いた。


「ティナに依頼したい要件は、この人物の調査だ。」

そう言うと、アズベルは一枚の紙を見せた。


「これは…」

ティナはじっくりと紙を見る。


「ああ。この人物は僕の知り合いと関係があってな。こいつの人格、行動、職場関係、恋人関係等、分かることは全て探って欲しい。」

「ほほう。」

「それと、恋人関係の件で、この人物とデートしている時だけは調査をしなくていい。」

そう言うと、アズベルはもう一枚の紙を見せた。


「なぜ、そのような事を?」

ティナは疑問を抱いている。


「僕が、奴らがそこで何をしているのか知りたくないだけだ。デートと言えば、その後に必ずある行為をするだろう?」

「確かに…そうですね。分かりました。」


アズベルは嫌そうな顔をして、吐き出す様に言った。ティナは一瞬顔をしかめたが、すぐに頷く。


「まあ、そうだな…一ヶ月後くらいにまた会おうか。」

「了解しました。それで、報酬の方は先払いでお願いします。金貨3枚頂きます。」

「ああ、これでいいか。」

そう言い、アズベルは机に金貨を置いた。


この世界のお金は貨幣しか使われていない。貨幣の種類は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類だ。


銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で白金貨一枚に両替することができる。


町での買い物は、ほとんど銅貨で済ませる事が可能だ。武器や防具を買うのであれば、銀貨、金貨を使う場合もある。白金貨はその家の財産として管理されたり、超高額の買い物の際に使われたりする。


ちなみに普通の宿では、一拍銀貨数枚程度である。


(今回の金貨3枚は、大体新人サラリーマンの平均月収辺りだろう。冒険者をしているのも頷けるな。)


「では、これで。」

そう言い、ティナが席を立とうとした。

アズベルはふと思い出し、急いで声をかけた。


「あ!おい、ティナ!お前、通信用の魔導具持っているか?」 

「もちろんです。一ヶ月後にお電話いたします。」


カランコロンコロン…

ティナは店を出て帰って行った。


アズベルは一人不敵に笑う。

「クククッ…さぁて、ベル君よ。君がマリーに相応しい奴かどうか、しっかりと見極めさせて貰うよ…クククッ…フハハハッ!」

「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので、そのような行為はご遠慮下さい。」


「…あ、すみません。あと、追加でアイスクリームとホットミルクお願いします。」

「かしこまりました。」


アズベルは店員に注意された。

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