Vol.02[Alternative Avenger]

Vol.02 プロローグ『少年の視た光景・主観』

 少年の眼前には、幾つもの肉の塊が広がっていた。


 それらの肉塊がつい先ほどまで街中を歩き、食事をし、会話をしていた人間たちの成れの果てであると知識の上では知っていても、理解することはできなかった。そこではじめて少年は、心臓の鼓動を刻むのを止め、呼吸をしなくなった人間は、ただの腐臭を漂わせる物体でしかないということを知った。いくらその物体たちが不幸を嘆くように口をあけ、神を呪うように瞳孔を開き、救いを請うように手を空にかざしていたところで、まだ九つの少年からしてみれば、それらはそのようなオブジェにしか見えなかった。強いて言うならば、自分も一生を終える時に、このような四肢を持った物体になってしまうのかと想像してしまい、少し悲しくなった、その程度のことである。


 地面を覆うような肉の海を掻き分けながら、殆ど放心の少年は路地から表通りへと出た。そこも普段とは違う光景が広がっていた。見渡す限り、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉……………………。少年は、数えるのをやめた。


 ようやく思考できる程度には落ち着きを取り戻すと、まずはそれまで行動を共にしていた仲間を探すことにした。仲間と同じ顔で、同じ服をした物体はすぐ足元に転がっていたが、声をかけても返事はなかったので、きっと仲間とは姿形が似ているだけで、関係のないものなのだろう、と少年は判断した。


 と、その時、少年は大きな足音を耳にした。街灯よりも高く、大きな巨人が歩いていたのだ。巨人はこちらに気づくことなく、その大きな靴底で、少年を踏みつぶそうとしていた。しかし、寸前で巨人は大きくよろけると、その場に背中から倒れてしまった。死の恐怖を感じた少年は、力なくその場に座り込んでしまう。


 そのまま目の前で倒れている巨人を呆然と眺めていると、胸のあたりから、人間が這い出てきた。人間はこちらに気づくなり、金属の筒が先端に付いた物を向けてきた。商店街に売っていた、おもちゃによく似ていた。


 そして、鉄を噛み潰すような、空気が破裂するような音が、響いて……。







「ミルカ……、シェリー……! アフマドォ……!!」


 硬い簡易ベッドの上で、全身が冷たい汗に濡れたナットは飛び起きた。虚ろな目で周囲を見渡し、ここがコスモフリート艦内の個室であり、自分がそれまで見ていた光景は夢だったということに気付く。意識がだんだんとはっきりしてくると、それに伴い、艦内に響き渡っている“第2種警戒配備”を促す警報音が次第に耳へと入ってきた。


「……っと、こうしている場合じゃねえな」


 ナットは手短に着替えを済ませると、すぐにクレイヴンの駐めてある格納庫へと身を急がせた。

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