君臨せしはフリーズ

第10章『君臨せしはフリーズ 1』

 戦争とは、ビジネスである。父は昔から口癖のようにそう言っていた。

戦いが起きることによって、政府は軍を動かし、軍は企業から兵器や弾薬を買い漁り、企業は政府からの信頼と信用を得る。大国が動くほどの規模を誇る戦争が生み出す利潤はそれほどまでに大きく、言うなれば、戦争がなければ世界の経済は破綻してしまうのだ。だからこそ、人類は定期的に戦争を起こさねばならず、政府や企業はその口実を欲した。

 すなわち、人の世において、力によって支配する“U3F”のような世界を統治する存在は必要であり、それに反発する人々の集合体である“インデペンデンス・ステイト”もまた、必要な存在なのである。

 戦いにおいて、どちらかが“悪”だということはなく、“正義”の反対はそれとは違う“正義”であると、かつての詩人は謳った。互いの正義は、己や、自分たちの正義のみを信じ、相反する正義を潰すことで、唯一無二の存在であろうとする。それが戦争の歴史の必然なのだ。

 神からすれば、それは実に滑稽であろう、と思う。“正義”など、ただの言葉であり、嘘なのだ。まやかしなのだから、と。

 父の言葉を聞いて育ち、世界に絶望した少年はいつしか、自分は神になりたいと、神のようででありたいと、願うようになっていた。



「コスモフリートの介入により、ピージオンの奪取作戦は失敗しました。コスモフリートの戦艦は現在、木星圏を離れ、火星圏へと向かっているとのことです」


 ドロレス=ブルームが淡々と報告書を読み上げると、窓の外を見ていたオミクロンは、仮面の顎にグローブに包んだ手を当てながら、頷いてそれを聞き入っていた。


(あの癖、あの仕草をする男を、私は知っている……)


 報告書に目を向けながら、ちらちらとオミクロンを鋭い目で盗み見る。頭の中で思い浮かべた人物は一人ではない。無意識のうちに顎を触ってしまうことが癖となっている人間など、世界中にごまんといる。


(LOCAS.T.C.の指導の下、U3Fの軍事基地内でピージオンは造られた。その中に“オラクル”を名乗る内通者がいたため、インデペンデンス・ステイトはピージオンの存在を嗅ぎつけ、奪取作戦を決行するに至った)


 これまでに起こった事実を、ドロレスは頭の中で一つ一つ結んでいく。

内通者という存在自体は別に珍しい話ではない。インデペンデンス・ステイトにも、U3Fに潜り込んだスパイは幾らでもいる。しかし、U3F内ですら開発されていること自体が殆ど知られていなかったピージオンを、何故“オラクル”は知ることができたのか。それはつまり、スパイである“オラクル”が、U3F内でも強い権力を持っている人間だということになる。

 もし、U3Fでもかなりの発言力をもつような者が、インデペンデンス・ステイトで活動しているとしたなら、その者は間違いなく身分を偽るか、隠すだろう。

 より具体的な例をあげるならば、仮面などで、だ。


(“オラクル”はスパイなんかじゃない、素性を偽る者の自作自演だ)


 つまりその者は、U3Fとインデペンデンス・ステイトの、二足の草鞋を履いているということになる。


(U3Fを打倒するために、目の前の仮面の男・オミクロンはインデペンデンス・ステイトを立ち上げ、その手腕を存分に振るい、これほどの巨大勢力になるまで規模を拡大させた)


 そして、U3F……いや、武力統治の基盤を築いたとされるLOCAS.T.C.の現代表取締役社長プレジデント=ツェッペリンに対して、かつてプライベートで愚痴をこぼしていた人物を、ドロレスは知っている。その男も、人の話を聞いているときについ顎を触ってしまうのが癖だった。


「……今日は、やけに息苦しいですね」


 ドロレスは黒いドレスの袖を靡かせながら、オミクロンの側まで近づく。


「ん? 空調は問題ないはずだが」


 窓のカーテンを閉め、白い肌が露出した肩口を当ててくるドロレスに対して、穏やかな口調でオミクロンが聞き返す。一見そのような言葉だったが、その裏は発言の意図を探っているような鋭さが感じられた。


「大丈夫、今なら部屋に誰も来ませんよ。よろしければ……」


 美しく繊細なドロレスの細く長い指が、そっと、オミクロンの“口元”に触れる。


「その仮面をここでお外しください、オミクロン様。いや、“お兄様”」


 ゆっくりと、“ドロレス=ツェッペリン”は、男の冠る鉄製の仮面を外していく。その仮面はとても重く、彼の背負ってきた全ての罪や、抱いてきた宿命が、宿っているように感じた。次第に、仮面の奥に隠されてきた真実が露わになってゆく……、




「……ッ!?」


 仮面を手に取ったドロレスは、驚愕のあまり固まってしまった。目の前にある光景が、何を意味するものなのか、理解できなかった。


「そう、君は昔から悪戯が好きだったね」


 “仮面”から、声が発せられた。


「靴の底に氷が入っていたり、クローゼットの中がシャボン玉まみれだったり、私はいつも困らされていたよ」


 眼前の“男の体”が、懐かしむように天井を仰ぐ。


「でも、君がそういうことをする時というのは、決まって宿題を手伝って欲しい時か、私に何かを教えて欲しい時だった」


 言うと、“男の体”はこちらを振り向いた。


「今日は何を教えて欲しいんだい? ドロレス」


 やっぱりこの人は凄い。数年ぶりに、そのような感想を抱いた。



 ピージオンを巡る『ミスト・ガーデン』での戦闘が起こってから、すでに一ヶ月ほどの時間が経過していた。U3Fの追撃艦から逃れてきた6人の少年少女たちはコスモフリートに迎えられ、アレックス共々、一時的な乗組員という扱いでそれぞれに衣住食をあてがわれていた。

 ミリアは当初、


『うえぇ、男の人ばっかり…』


 などと、男性色の強い艦内での生活に難色を示していたようだが、


『安心しなよ。女の寝込みも襲えないヘタレ早漏野郎ばっかりだからさ』


 とポニータに言われ、渋々納得していた様子だった。ちなみにその時、ミリアがコスモフリートの男性陣の誰よりも、ポニータに対して獣を見るような目で睨み、警戒心を強めていたということは、言うまでもない。

 それからというもの、コスモフリートがU3Fやインデペンデンス・ステイトの管轄宙域を避けた航路を通っているということもあり、これといって目立った戦闘は起こってはいなかった。

 その間、アレックスとデフは臨時戦闘員という名目で、ナットの指導の下、シミュレーターを用いたDSWの操縦訓練を受けていた。毎日、長時間にわたって訓練を行っているため、アレックスもデフも技術はかなり身についていたが、それでもシミュレーター上で二人掛かりになっても、ナットを倒すことは未だにできていなかった。それだけでなく、ナットに『DSWに乗るにしても、お前たちはまず基礎体力が足りない』と言われ、コスモフリートの重力ブロックの円周約8キロはある廊下を毎日50週は走らされていた。いくら走っても代わり映えのしない景色は、体力的にも精神的にもかなりの苦痛となり、この回し車のような仕掛けで一日中遊んでいられるハムスターは正気ではないとさえ思った。

 1日分の地獄のようなトレーニングを終え、アレックスとデフはシャワールームに入るなり、身体中に染み付いた汗を強引に洗い流していた。


(はァ……はァ……死ぬ! ミドの奴は『俺は頭脳労働派ですから〜』なんて言って訓練を断っていたが、そっちのほうが正解だったかもなァ……ッ!)


 タイルの壁に額をぶつけながら、デフは訓練を受けたいと志願したことを必死に後悔していた。今日、この時に限った話ではない。訓練前、訓練中、訓練後、食事中、トイレ中、就寝前、夢の中、いつどこにいたって、そのような考えが頭に付き纏っていた。しかし、この後悔を口にすることだけはしなかった。

 デフは真横に顔を向ける。プレートを一枚隔てた向こう側には、殆ど放心状態でお湯を浴びているアレックスがいた。無理もない。体力にはそこそこ自信のあったデフでさえ、この調子なのだ。短身痩躯で、殆ど骨と皮だけのような体つきのアレックスからすれば、野に放たれたうさぎのような過酷さだろう。実際、アレックスがトレーニング中にぶっ倒れてしまうことは何度かあった。それでも、彼は訓練に対して根をあげたことは一度もなかった。


(絶対こいつより先に根をあげてたまるもんか……ッ!)


 アレックスを見据えて、こいつだけには負けたくないと、デフは心の中で強く誓った。特に意味のない決意ではあったが、それでも諦めることは、男としてのプライドが許さなかった。


「ん?デフ、どうしたの?」


 言われて、デフはアレックスの顔を何十秒も凝視していたことに気づいた。デフは動揺のあまり目線が泳いでしまっていると、アレックスの身体のとある一点が目に留まった。蛇に睨まれた蛙のように、デフは恐怖のあまり、金縛りのような錯覚に陥った。おそろしいものの片鱗を味わったような気がして、ありのままの心境を思わず呟いてしまっていた。


「………………でけェな」

「な、なにが?」

「……ッ!」


 呟きを聞いて戸惑った表情でこちらを見ているアレックスを見て、デフはようやく我に返った。


「……う、器の話だ! 器のッ!」


 そう誤魔化して、デフはそっぽを向いた。男として、言いようのない敗北感を感じていた。



 宇宙義賊コスモフリートは、木星と火星の間に位置する小惑星帯アステロイド・ベルトを抜けるやいなや、まるで待ち構えていたようにインデペンデンス・ステイトの艦隊と遭遇してしまっていた。U3Fの管轄宙域を避けて航海をしていたため、同じくU3Fと敵対関係にあるインデペンデンス・ステイトとの接触の可能性は当初から否定できないものではあったが、戦艦7隻という数は、さすがのバハムートも想定外であった。


「インデペンデンス・ステイトの艦隊からの通信ッス! ……えっ!? あ、相手は、オミクロンと名乗ってまッス……!」

「何ィ……!? 聞き間違いじゃあないのか……!」

「エイプリルフールでもないのに、こんな状況で嘘なんてつかないッスよ!」


 ただでさえインデペンデンス・ステイトと鉢合わせしてしまったことによって緊張状態だったコスモフリートのブリッジ内で、追い討ちをかけるようにガングロギャル風の通信士が告げた瞬間に、さらなるざわめきが起こった。

 オミクロンという名前は、この時代に住んでいる人間であれば、誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。この場にはいないが、おそらく年少のテオドアでも知っているはずだ。U3Fの武力統治に異を唱え活動していたレジスタンスは、昔から火星やコロニーの各地に点在していたが、どれもが小規模で組織力にも乏しく、殆どがU3Fの誇る圧倒的な軍事力の前に倒されていった。それらの小さなレジスタンス達を、たった一人でまとめ上げ、再編成させた仮面の男こそ、オミクロンその人である。ある者からは正義の味方と賞賛され、ある者からは悪の権化と罵られる彼の、世界に対する影響力は計り知れず、今や連日ワイドショーの特番が組まれるほどの有名人である。彼の正体については諸説あるが、どれも捏造の域を出ておらず、その存在は未だ謎に包まれている。そのような人物だ。

 艦長席に座すバハムートは、正面の巨大モニターに映った戦艦を睨む。砲門は全てこちらに向けられたまま、沈黙を保っている様子だった。


(奴らからの通信。おそらく目的は……)


 ピージオン。世界の双璧として立ちはだかる二大勢力のどちらもが、その存在を必死に求めている秘宝。そしてそれを今、この船は抱えている。他にもコスモフリートと連中との間に因縁がないわけではないのだが、これほどの大部隊を動かしてまで連中が何かを欲しているのだから、目的はピージオンに決まっているだろう。


(機体を渡さなければこちらの船を沈める。概ね、そんなところだろう)

「どうしまッス? 船長」


 どのみち、応答しなければこの場で敵艦は撃ってくるだろう。これは脅迫なのだ。


「わかった。彼らと同じチャンネルを開いてくれ」


 通信士に指示をしてまもなく、正面モニターに鉄製の仮面の男が現れ、バハムートは表情を強張らせた。本物、というとあまり適切な表現とは言えないが、自分たちの見知った仮面と同じものを被った男を見て、クルーたちもそれぞれ何らかの反応を示していた。そういったところも、オミクロンという人物のカリスマ性を鮮明に物語っているといえた。


「はじめまして。いや、君たちには何度か、我々の前線基地や補給路を叩かれてしまったことがあるから、そういう意味ではすでに初対面とは言えないのかもしれないな」


 オミクロンは笑っていた。バハムートには彼の仮面の奥の表情が見えているわけではないが、声音からそう感じられたのだ。冷笑や嘲笑といった、気持ちの悪い類のそれではない。まるで冗談を口にする子供のようだった。言い換えるならば、それは彼の余裕のあらわれなのだろう。


「おっと、失礼。前置きにしては、少々不謹慎だったかね」

「そう思うのなら、砲門を下げて欲しいのだがな。そうしないのなら、お前たちの要求はなんだ」


 いつまでも本題に入ろうとしないオミクロンに、バハムートは言った。聞いているのではない。急き立てたのだ。彼らの要求はわかりきっているのだから。

 しかし、オミクロンの返答は、バハムートの予想とは異なっていた。


「我々は君たちとの、会談の席を希望したい」

(会談……話し合いだと……?)


 オミクロンの意図を髄まで察知することが出来ず、バハムートは困惑してしまった。目的がピージオンであるならば、今すぐこの場でこちらを撃ち落してしまえばいいし、あくまで交渉により穏便に事を済ませたいのだとしても、わざわざ立ち会わなくても、今この場で話をすればいい。


「場所はルビゴンゾーラ級戦艦内。君たちから見て、丁度中央の艦だ」

「そんな、ネズミ獲りに引っかかるネズミのように、こちらがわざわざ敵艦での話し合いをしに赴くと、本気で思っているのか?」

「勿論、我々とて会談は、対等な条件・立場で、円滑に事を進めたいと思っている。そこで、君たちへのささやかな贈り物を用意した。もうそろそろ、そちらに届く頃だろう」


 すると、通信士が相次いで報告する。


「コンテナを引いた輸送船が、着艦許可を求めていまッス!」


 おそらくその輸送船が、オミクロンのいう贈り物なのだろう。爆弾などを仕込んでいる可能性も疑ったが、すぐにバハムートはその線を否定した。戦力比で圧倒的に勝っている彼らが、そのような小賢しい罠を仕掛けてくるとは思い難いからだ。


「わかった。受け入れを許可しよう」



「おいおい、こりゃ何の祭りだよ!?」


 スペーススーツを着こみ、整備班たちの手伝いをしていたミドは、格納庫に次々と入ってくるコンテナを見て驚愕していた。


 ミドと同様にスペーススーツ姿のキムが、レンチで首元を叩きながら面倒臭そうに説明する。


「交渉を対等に進めるための、オミクロンからの贈り物だとよ」

「対等? どういうことです?」


 ミドが疑問を口にしていると、着艦してきた輸送船から、二人のパイロットスーツを着た人影が出てきた。パイロット用の宇宙服は身体にフィットした薄手のもので、ボディラインがはっきりと出るため、二人のうち片方は男、もう片方は女であることがわかる。より特筆するならば、女性の方は少し筋肉質でウエストは細く引き締まっていながらも、柔らかそうな肉付きでありプロポーションは非常に良い、とミドは気がつけば彼女の姿に釘付けになっていた。そんな彼を見てキムは呆れていた。

 すると、女性の方がこちらに近づいてきたと思えば、キムやミドに向き合うと、ややぎこちない敬礼をしてみせた。


「サ、サクラ=バーミンガム及びチャーリー=ベフロワの両名、コスモフリートに人質として参りました!」



 オミクロンから贈られてきたのは、大量の補給物資と二人の若い兵士たちであった。オミクロンの目論見は、兵士は交渉が成立するまでの間、コスモフリート内で人質になってもらうことで、互いに弱みを握り合う形となり、交渉の条件が平等となる、といったところだろう。バハムートが搬入されてきた物資のリストを確認し終えると、オミクロンから次の指示を言い渡される。


「次に、代表者を5名ほど選抜してもらいたい。なお、ピージオンのパイロットも一緒にご同行していただく。迎えの船はすぐにこちらが手配しよう」

「待て、なぜピージオンの搭乗者を同行させなければならないんだ?」

「それについても会談の席で話したい。手順は以上だ。招致していただけるだろうか?」


 ブリッジクルーたちが艦長席のバハムートの方へ目をやった。バハムートは少し考えたのち、決断する。


「招致した。すぐに準備してそちらに向かおう」


 オミクロンとの通信を切り上げると、バハムートは艦全体に向けて、高らかに通達した。


「これよりコスモフリートは、インデペンデンス・ステイトとの会談に応じる! メンバーは俺とKT、シンディ、ポニータ、ナット、そしてアレックスの6名だ!各員、すぐに支度を済ませろ!」



 手錠をかけられた二人の人質は艦内の応接室まで連れてこられると、頭にかぶっていたヘルメットを監視の乗組員に外してもらっていた。


「へえ、男ばっかりの戦艦かと思っていたけれど、あんたみたいなのもいるんだ」


 サクラ=バーミンガムと名乗った少女は、見張り役を任されていたミリアに対して薄ら笑いを浮かべていた。茶色い髪をもつ吊り目の東洋人で、肌は褐色とまではいかないもののやや浅黒く、恵まれたスタイルをみても、いかにも健康的といった印象を受けた。


「ン? 捕虜とお話はできないっての?」

「あ、ごめんなさい。そういうわけじゃ……」


 正直なところ、ミリアは恐縮していた。銃器の類は携帯していないとはいえ、敵の兵士とまともに会話など交わしたことは今まで一度もなかったからだ。ましてや、自分の兄と同い年くらいの兵士の少女に、まるでクラスメイトに話しかけるような感覚で、フランクに接されるとは思ってもみなかったことだ。


「人質なんて立場になっちゃったのに、その、怖くはないんですか?」


 恐る恐るミリアが尋ねると、サクラは何気ない様子で答えた。


「まぁ、人質といっても一時的なものだしねー。よくわかんないけど、殺されるわけじゃないっぽいし」


 どうやら、このサクラはあまり深く物事を考えない性格らしい。あまりにも潔く、場違いなほどにリラックスしている彼女に、ミリアは唖然としてしまった。


「ねえ、チャーリー! どうして私たちが人質なのかな?」


 壁に寄りかかったままじっとしているもう一人の人質に対して、サクラが聞いた。心なしか、ミリアと話していた時よりも声がワントーン高い気がする。チャーリー=ベフロワというその少年は、いかにも無愛想な仏頂面で、何を考えているのかミリアには見当もつかなかった。彼もアレックスと同い年くらいに見えたが、細身ながらも鍛え抜かれた筋肉や、眼光を放っている鋭い眼差しは、幾多の戦場を生き抜いてきた狼を彷彿とさせ、同年代の少年らとは全く異なる雰囲気を纏っていた。


「そう命令されたからだ」


 チャーリーは簡潔に、そして確固たる様子で答えた。この少年は、決してサクラのように物事を考えていないわけではなく、経験や思考を重ねた上で、あえて思考停止に至っているのだと、ミリアは直感した。


「ふーん。まあ、いっか。とりあえず、えっと……そういやあんたの名前は?」

「あ、ミリア=マイヤーズです」

「オーケイ、ミリア。暇だし、ガールズトークでもしてよっか」


 サクラはミリアに対して言うと、歯を見せて笑ってみせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る