異世界転生・テイクアウトでお願いします
ろまえ
Takeout1:『りたーん とぅ あーす』
朝、登校中に交差点でマヨコーンパンを咥えた女の子と激突しパンツが見えたせいで殴り飛ばされた先にあったスイカの皮で滑って宙返りしたところをトラックにインターセプトされるという若干エキサイティングな事故に遭った男子高校生がいた。
少年の名前は紅花 蓮(べにはな れん)。どこにでもいる冴えない男は全知全能の神様を名乗る老人により第二の人生を与えられた。
剣と魔法の異世界で。
生まれた時から記憶を引き継ぎ。
かつてない魔術の才能を秘めた
「お前さんの力は無限に伸びる。だから少なくともワシを一捻りできるくらいには強くなっとくれ。でないと『あれ』には到底――」
自称神様が言い終わるより早く、連の視界はぼやけていく。
「何なんだよ、一体、俺、は、どうな、る……ん……」
そして、ブラックアウト。
女子にモテない紅花 蓮の物語が終わった瞬間であり――
――伝説の英雄・《焔の神等大魔導師》レン・ハイウェルンの物語が始まった瞬間であった。
Takeout1:『りたーん とぅ あーす』
「あ、起きた」
「……ふぇ?」
病室で目を覚ましたレンの視界に映ったのは、あまりにも……あまりにも懐かしい、友の顔だった。
具体的に言うと、体感時間で27年ぶりである。
ぱちくりぱちくりと何度も瞬きして、その女性的な線の細さを持つ少年(少女の可能性も否定できない)に問いかけた。
「お前、アザミ……だよ、な?」
アザミと呼ばれた少年(少女)は人差し指を顎に当てて可愛らしく首を捻った。長く艷やかな髪がふわり、と流れる。
「何それ、記憶喪失のフリ? いかにもボクは白樺 薊(しらかば あざみ)。キミの大親友、いやボク達の関係はそんな言葉じゃ表せないほどに深く、そして……」
「なんだ夢か。おやすみ」
レンは布団を被って再び元の世界へと旅立とうとする。も。
「おやすみじゃないよおやすみじゃ! トラックにぶっ飛ばされてもう3日も気絶してたんだから! 後遺症が残る確率は極めて低いし容体はびっくりするほど安定してるからそのうち起きるって言ってたけど心配したんだよ!」
「ええいうるさいうるさい! 俺はまだアレストラの姫様をハーレムに入れてねェんだよ!! こっちの世界にいたら俺の錆びついたおちんちんは今を撃ち抜けねぇんだ!!!」
「意味わかんないこと言ってないで起きなさい! この子はもう、ただでさえ地理の成績壊滅的なのにこれ以上休んだら本当にダブるよ!? 進級できなくなっちゃうよ!!」
「お前は俺のかーちゃんか!! 俺は向こうの世界だと全成績パーへクツで学校始まって以来の天才として理事長の娘をあてがわれ是非その優れた遺伝子をくださいとか言われぐへへ………………ッッ!!!」
「レンくん!? 大丈夫!?」
突如、レンの頭を針が通り抜けていったような鋭い痛みが走った。
思わず目を瞑った瞼の裏側に熱が籠もり、デジタル調の数値が浮かび上がる。
カシャカシャと勢い良く回転したスロットが指した数は――
『Takeout-Percentage:0.5』
「何だ……!? 0.5パーセント……? 何の事だよ……!!」
「?…………!!!!」
彼に起こった謎の現象と彼の瞳に映ったTPを目にしたアザミは、当の本人よりも遥かに動揺を見せた。
一瞬のフラッシュバック。
息が止まる。視界が滲む。手が震え、心臓が凍えそうになる。
蘇る、かつての記憶。決して忘れることなどできはしないが、思い出す事も少しずつ減っていった……あの日々。
大きく口を開けて空気を食らうように無理矢理取り込み、唾ごと飲み込んでアザミはレンの肩を支えた。
「TP……じゃあ、レンくんは今まで、本当に違う世界に……?」
「あ、ああ……ったく、どうなってやがる……っておい!?」
細い腕と小さな体でひしと抱きしめられる。髪のふわりとした匂いが鼻孔をくすぐり、一瞬ドキッとしてしまう。
「おかえり……おかえり、レンくん! 怖かったね! もう戦わなくていいんだ! 大丈夫だよ! ボクがいるから!」
涙をぽろぽろと流しながら、アザミはしっかと彼を包み込むように抱きしめ、体を密着させた。
見た目だけで言えば異世界の美女達となんら遜色のない、いやむしろ上回っている気さえするその泣き顔が目の前にある。
(ああ……俺の幸せは、こんな近い所にあったんだ……)
レンはその瑞々しい唇に、そっと自分の唇を――
「――ってアザミは男じゃねぇか!! 危ねぇ!! 話が終わるところだった!!」
「きゃっ」
どんと細身を軽く突き飛ばし、レンは
ベッドの上にぽすんと尻餅をついたアザミにレンは喚く。
「うちは女の子がいいのん! おちんちんはいらないのん! ……ったく、そんな心配しなくても何一つ怖いことなんてありゃしねーよ。あるとすれば俺が死んだ後の王位継承者争いくらいだ。なんせ各地にガキが何人も……」
「……? ずっと戦ってたんじゃないの?」
「まあ戦いばっかだったと言えば戦いばっかだったような気もするが……俺の無尽蔵の魔力で魔物達は全員消し炭、捕らえられてた女の子はみんな俺にベタ惚れって寸法よ。ま、俺最強すぎたからな。何も怖くなんてなかったぜ」
「そうなんだ……じゃあ、ボクのいた所とは違うんだね」
安心したようにため息を吐くアザミ。その台詞を聞いて、レンは昔の出来事を思い出した。
「そう言えば、アザミも昔……小学生の頃だっけ? なんか異世界がどーのこーの言ってたな。確か事故って意識不明になったんだったか」
「うん。あの時に、ボクも……異世界に入れられてたんだ」
どこか憂いのある微笑みで、アザミが答える。
その時の事はレンも覚えていた。
「あったなぁそんなこと。あの時のお前すげー怖がりだったよな」
「ボクはもう二度と異世界なんか行きたくないよ……あんなとこ……」
どうやらアザミの行った異世界はレンの所よりだいぶ悪い環境だったらしい。
小学生、それもこの細くひ弱そうな体で変な所に放り出されたら臆病になるのも当然だろう。
「で、TPってなんだ? さっきの数値のことだよな。あれは何の意味があるんだ?」
「TPは、その異世界での力の還元率……『持ち帰れた強さ』みたいなんだ」
「じゃあ俺は0.5パーセント……? 全然じゃねぇか! 200分の1とか超絶弱体化じゃねぇかよ!!」
うがーと頭を抱えるも、それ以上にレンは気になることがあった。
「……お前はいくつだ? まさか俺より高いなんてことは……」
「さっきボクもレンのが見えたから、多分ボクのも見ようと思えば……」
そう言われて、レンはアザミの茶色い瞳を凝視する。
アザミのもち肌ほっぺがほんのりと桜色に染まる。
「そ、そんなに見つめちゃ恥ずかしいよ……」
「お前はもっと別のことに恥じらいを持て」
その瞳の中に、レンは先程と同じ数値を確認できた。
目を合わせさえすれば、間近で見なくても判別できるようである。
『Takeout-Percentage:0.000000002』
「ハッ」
「鼻で笑われた!?」
同じ頃。
自宅のベッドで目覚めた男がいた。
「……ここは……そうか、こっちに戻ってきたのか……」
異世界に行く前から銀色の髪をした、長身の男だった。
彼の脳に、数字が灼けつく。
「ふん……まあ、同じことらしい。どちらでも、な」
彼が虚空を睨んだ瞬間。
目の前の空間が、スライドし、ずれる。
「……」
まるで結果から過程を生み出したかの如く。
彼の手には、愛刀『鳴鵲』が握られていた。
『Takeout-Percentage:100』
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