待って、僕は女じゃない

村雨 夏

第1話 下校

高校に入学して早一年、今年から高校二年生だ。

まだ冬の寒さが少し残る四月上旬、新入生を迎える入学式のことだった。

「また一年彼女なしで始まるのかぁ」

僕、上坂祐かみさかゆうは無意識に童貞発言をしてしまった。

「彼女?もういるじゃん二次元に」

いつもの如くクラスの友達にテンプレ対応される。

「僕は二次元に彼女なんていないしお前の方こそ○○たんマジ嫁とかなんとか言ってるじゃん」

「俺の嫁ディスってんの?お?コラ?三次元の女なんかより別格にかわいいんだぞ?」

「二次元と三次元を比べるなっての」

こんなどうでもいい会話が今日で最後とは思いもしなかった。

入学式も終わり帰るとき、ふと空に目をやると朝は晴れだったはずの空は今にも雨が降りそうな空に豹変していた。

「せっかくの入学式なのに曇り空とは残念だな」

思ってもないようなことを一言つぶやいて学校を後にした。

ちょうど学校を出たときに雨が降り始めた。

「天気予報ちゃんと見ておくべきだったなぁ」

軽く後悔する。

今日一日晴れだと思い込んでいた上坂は無論傘など持っていない。

道を歩いていると次第に雨はひどくなっていく。

横断歩道の信号が切り替わる時間が長く感じた。

信号が切り替わり、道を渡ろうとしたときだった。

信号が赤にも関わらず車が勢いよく走ってくる。向かい側にいる人は携帯をにらみつけるように画面を見ているうえにイヤホンまでしている。車が来ていることに気付いていないようだ。

「危ない!」

そんなことを言う前に僕は向かい側にいる人を回避させようと走り、通行人に飛びかかる。

その後は僕にはわからない。僕は助けることができたのか?それともできなかったのか、その結果さえもわからず僕の記憶はここで終わっていた。

目を覚ました。

辺りを見渡し、しばらく経ってからここが病院だということに気付いた。

「夢だったのかな」

そう一言つぶやくと自分の声に違和感を覚えた。まるでのような高い声になっていたのだ。

とりあえずトイレに行きたかったので病室を出て男子トイレを目指す。

トイレに着き、用を足そうとしたときだった。

「あれ...ない...」

急いでズボンを上げ、周りを見る。視線を感じる。場違いと言わんばかりにこっちを見てくる。

視線が怖くなってきたのでトイレを出ようとチラッと鏡を見た時だった。ここはトイレなはずなのに鏡には女の子が映っていた。

一旦病室に戻り改めて鏡を確認した。

映っていたのはトイレで見た同じ人、僕ではない女の姿だった。

「僕、女になってる...」

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