第四十三章 絶対に超えられない壁
首相官邸の屋上で繰り広げられているアルカナ・メディアナとロイドの睨み合い。屋上に大穴を開けた大型トラックの影響で、官邸内にいた幾人かが死傷したが、その原因がロイドの
「お前はどちらかと言うと、私と立場を同じくすると思うのだが、違うかね、ハロルド?」
メディアナはニヤリとしてロイドを見ている。しかし、ロイドは相変わらずガラス玉のように無感情な目でメディアナを見て、
「ふざけた事を言うな、外道。世界中の誰が貴様と同じだとしても、俺は違う」
メディアナはクククと含み笑いをしてから、
「なるほどな。その虚勢、見上げたものだ。それも全て、愛する道明寺かすみの覚醒のためか?」
挑発めいた言葉を発した。ロイドの眉が「愛する道明寺かすみ」のところでピクッとしたのをメディアナは見逃さなかった。
「どうやら、図星のようだな、ハロルド? お前も普通の人間と同じように人を愛する事ができるのだな」
メディアナの挑発は更に続いた。しかし、ロイドは表情を変えなかった。
「だからどうした、外道? お前は欲望のためだけに好きでもない女を数知れず犯し、手段でしかない子供達を産ませ、意に沿わなければ容赦なく殺した。そんな奴に愛などという言葉を口にしてもらいたくはない」
メディアナはフッと笑い、
「それで私を挑発しているつもりか? 女は我が子を産む道具に過ぎず、子は我が目的を遂行する道具に過ぎない。その事を指摘されたところで、私には
するとロイドは、
「外道が動揺するなどと思ってはいない。貴様には心などないだろう?」
二人のやり取りを見ていたジェームズ・オニールはその応酬の間にいくつもの力のぶつかり合いがあったのを知り、驚愕していた。
(ロイドはメディアナと互角に渡り合っているのか? いや、メディアナはまた
ジェームズの背中を冷たい汗が流れ落ちた。
(何を話しているんだ?)
端でその様子を見ている首相は、二人が英語で会話をしているため、断片的にしか内容を把握していなかった。そして、ロイドが落とした大型トラックを見て、
(これは一体どこから降って来たのだ? メディアナの力でないとすれば、突然現れたあの二人の白人のどちらかがやった事なのか? という事は?)
首相は何とか現状を把握しようとしたが、わからない事が多過ぎ、先に進めなかった。しかし、メディアナと二人の白人が仲間でない事だけはわかった。
(敵の敵は味方と考えたいが……?)
首相はロイドではなく、ジェームズを観察した。ジェームズも首相が自分の正体を探ろうとしているのを感じ、彼を見た。すると首相は目が合うとは思っていなかったのか、ビクッとした。
『私達は貴方を助けに来たのです。ご安心ください、首相』
ジェームズは首相の脳に直接語りかけた。首相はまたビクッとしたが、すぐに小さく頷いた。
「ガイア、図に乗るな。お前如きにこの状況を打開できるとでも思っているのか?」
メディアナは笑みを封印し、鋭い目つきでジェームズを見た。ジェームズは首相からメディアナに視線を移し、
「思ってはいない。貴様を倒せるのはかすみさんだけだ。私はその手助けをするだけだよ」
メディアナは再びフッと笑い、
「そうか。謙虚な考え方だ。自分の実力を
ジェームズはメディアナの不敵な笑みにムッとし、
「間違っている、だと? 何がだ!?」
大声で尋ねた。メディアナはロイドを見てからもう一度ジェームズを見て、
「お前達が頼りにしている道明寺かすみは、覚醒したとしても、私には勝てないという事だ」
「何!?」
ジェームズは更に怒りを増したが、ロイドは表情を変えない。メディアナは我慢できないという表情で笑い出し、
「わからんのか? お前達はかすみが秘めた力を持っていると思っている。それは正しいかも知れない。だが、かすみの力が私の力を凌駕するという保証がどこにある?」
ジェームズはグッと詰まった。確かにその通りなのだ。ジェームズのかすみに対する期待は、推測の上に成り立っているに過ぎない。理論的にかすみの力がメディアナを上回ると結論づける証拠はないのだ。
「私自身、長年数多くの
すると、そこまでずっと黙って聞いていたロイドが、
「人は動揺すると雄弁になると聞いた事がある。随分とお喋りになったな、外道?」
その強烈な嫌味が、初めてメディアナの神経を逆撫でしたのか、
「黙れ! 我が力を超越する者などこの世に存在しないのだ!」
ジェームズはメディアナが感情的になるのを初めて見たので、驚いていた。
(ロイドの指摘が図星だという事か?)
勝機はまだある。ジェームズはかすみの覚醒を願った。
「ならば、急ぐまでだ。お前達を片づけて、かすみが覚醒する前に支配してやる!」
メディアナは半ばロイドの言葉を認めた発言をすると、一気に力をロイドとジェームズにぶつけて来た。
「くっ!」
二人はメディアナの途方もない
(
ジェームズが歯軋りした。ロイドはそれでもメディアナの力を受け止めていた。
「くう……」
ジェームズの波動が押され、メディアナの波動が彼に迫った。
「自分を信じろ、ジェームズ!」
ロイドが叫んだ。ジェームズはハッとして、もう一度意識を集中し、メディアナの波動を押し返した。
「なかなかいい抵抗をしてくれるね、ロイド、ガイア。だが、私はまだ全力の五十パーセントも出していないのだよ?」
メディアナの笑みが狡猾なそれに変わった。ロイドの目が見開かれた。
「偉そうにほざくな、外道! 俺もまだ半分も力を出していないぞ」
「ぬ?」
メディアナはそれをロイドの強がりだと思ったが、先程より勢いよく押し返され始めたので、ハッとした。
(何が起こっているんだ?)
首相には両者の間でぶつかり合っているサイコキネシスの波動が見えないため、呆然としていた。
「ジェームズ!」
そのぶつかり合いを感じ取った手塚治子が、首相官邸がある方角を見て叫んだ。留美子がそれに反応し、
「何か起こっているんですね? 怖くなる程のサイコキネシスの力を感じます」
治子は留美子を見て、
「アルカナ・メディアナとロイドさん、そして、ジェームズの戦いが始まったようよ」
留美子はギョッとしてしまった。
「何だって? 二人は首相官邸に行っているのか?」
大男をロープで捕縛していた森石章太郎が治子の方を向いて尋ねた。ロープの一方を持っている慈照寺香苗も治子に目を向けた。治子も森石を見て、
「ええ。かすみさんの覚醒までの時間稼ぎをするつもりみたいです」
森石は舌打ちして、
「おいおい、そういうのは事前に打ち合わせしないと、こっちにも都合があるだろうよ!」
大男を縛り終え、治子に歩み寄った。治子は、
「かすみさんの覚醒を促してみます。森石さんと理事長も、力を貸してください」
「え? 力を貸すってどうすればいいんだよ?」
森石はそんな事を言われると思っていなかったので、香苗と顔を見合わせてしまった。
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