第二十五章 治子 VS 光明子
天翔学園高等部を出た森石章太郎とジェームズ・オニールは、森石の運転する車で警視庁を目指していた。
「あんたはロイドの状態をどう見る?」
森石は交差点を右折しながら、ジェームズに尋ねた。ジェームズは腕組みをして前を向いたままで、
「何とも言えませんね。何故ガイアがロイドさんを殺さなかったのか、その理由もわからないですし」
「確かにな。状況的に考えて、ロイドは確実に抵抗ができなかったはずだからな」
森石はジェームズを怪しんではいるが、彼自身がそのガイアだとは思っていない。
「ですが、ロイドさんは必ず回復すると思っています。こんな不確かな事を断言するのはおかしいかも知れませんが、彼の潜在能力はそれをなさしめるレベルだと思います」
ジェームズはチラッと森石を見て言った。森石も一瞬だけジェームズを見て、
「奴はそんなにすごい
「ええ。
ジェームズが言った「オールマイティサイキック」という耳慣れない言葉に、森石は眉をひそめた。
「え? 何だ、それ?」
ジェームズはまた前を向いたままで腕組みを解き、
「あらゆる異能の力を持っているサイキックの事ですよ。ロイドさんは現在、
森石は左折をしながら目を見開いた。
(すげえんだな、あの無愛想男。今度から言葉に気をつけよう)
あまりロイドを挑発すると命が危ないと思ったのだ。するとジェームズは森石の表情を見て、
「但し、それぞれの能力にはレベルの差はあります」
「レベルの差?」
森石は信号で停止したので、ジェームズを見た。ジェームズも森石を見て、
「ロイドさんは、サイコキネシスと瞬間移動に関しては、最高レベルですが、パイロキネシスは最低レベル、サイコメトリーは中程度でしょうか?」
「なるほど。で、俺の
興味を惹かれた森石が尋ねると、ジェームズは苦笑いをして、
「貴方のアンチサイキック能力は、私には測れません。何しろ、サイキックの能力を遮断してしまう力ですからね。計測の方法がありません」
「なるほど。そうか」
森石は少しがっかりして、車を発進させた。するとジェームズは、
「しかし、私が貴方の意識層に侵入を試みても、全く受け付けないので、推定ですが、最高レベルに近いと思いますよ」
「あ、そ、そう?」
森石は照れ臭そうに笑った。ジェームズは森石に見えないように顔を背けてニヤリとし、
(これはお世辞ではなく本当だよ、森石。お前もロイド同様、使い道がある)
森石はそんな事は少しも感じないまま、ニヤニヤして車の運転を続けた。
その頃、警視庁の地下にある特別室にいるかすみと手塚治子は、かすみの眠っている能力を引き出すためのテストの準備をしていた。
「かすみさんと森石さんの話を総合してみると、かすみさんは自分の命が危険に
治子は聞き取りした事を書き留めたノートを机の上で見ながら言った。
「そうみたいですね」
未だに自分の潜在能力の解放に対する不安が拭い切れていないかすみは顔を引きつらせて応じた。それを察した治子は微笑んで、
「心配しないで、かすみさん。貴女は自分が力を解放したら、制御できなくなると思っているのでしょうけど、そんな事はないと思うわ」
そして、片橋留美子を見て、
「準備はいい?」
「はい、大丈夫です、治子さん」
留美子は部屋の隅に立ち、かすみの方を見ている。かすみは椅子から立ち上がり、留美子を見た。
「これから、貴女の力を引き出すテストをします」
治子はノートを閉じて立ち上がった。
「はい」
かすみは留美子から治子に視線を移して頷いた。治子は頷き返してから留美子を見て、
「始めて、留美子」
「はい」
留美子は意識を集中し、サイコキネシスの波動をかすみに向けて放った。
「く……」
かすみはその波動を感じ、身を
「留美子! そんな弱い力では、テストにならないわ! もっと強い力で!」
「でも、かすみさんが怪我をしたら困るので……」
心優しい留美子は目を潤ませてそう言った。治子は溜息を吐き、
「それじゃあ、テストの意味がないでしょ? もっと強い力を出して! 以前、かすみさんと戦った時くらいに!」
留美子は治子が本気で怒っているのを感じ、
「はい!」
再び意識を集中し、さっきよりは遥かに強い波動を繰り出した。
「わっ!」
かすみは空間を歪ませて迫って来る波動に気づき、焦った。
(どうしよう?
彼女は潜在能力の発現を誘発するために、敢えてギリギリまで引きつける事にした。すると、
「ダメ!」
怖くなってしまった留美子自身が、力を消滅させてしまった。
「ああ……」
かすみと治子の口からほぼ同時に溜息とも呻き声ともつかない声が漏れた。
「治子さん、留美子さんには無理ですよ」
かすみはまた治子が留美子を叱ると思ったので、口を挟んだ。治子は留美子からかすみに目を向けた。
「それに、私の潜在能力は命の危険がないと発現しないみたいですから。留美子さんがいくら頑張っても、私を殺せる程の波動を放つのは無理だと思います」
「そうかも知れないわね。どうしたらいいかしら?」
治子が腕組みをして考え込んだ時、
「なら、私が相手をしてあげるよ。殺すつもりでね」
特別室のドアを開いて入って来たのは、光明子こと錦野那菜だった。
「どうやってここへ?」
かすみ達は呆然とした顔で那菜を見た。すると那菜はニヤリとして、
「全能なるガイアにわからない事なんてないんだよ、おバカさん達」
次の瞬間、かすみと留美子は脳に大きな石を載せられたような感覚に陥った。
「くうう!」
二人は床に膝を着き、更には四つん這いになってしまった。
「む?」
那菜の目が鋭くなり、射るような視線を治子に向けた。治子は平然としていたのだ。
「あら? 何をしたのかしら、錦野さん?」
治子は黒髪をサッと後ろに撥ね除けてフッと笑った。那菜は歯軋りをして、
「あんたこそ、何をしたのさ!? 私の力を受け付けないなんて!」
治子は
「精神能力なら、誰にも引けを取らない自信があるわ。それに不意を突かれなければ、準備する事もできるしね」
「言いたい事言って! 許さないよ、小娘!」
那菜はますますヒートアップした。そして、
「かすみを殺しに来たつもりだったけど、まずはあんたを殺すわ! でないと、気がすまない!」
目を血走らせ、治子を睨みつけた。
「お手並み拝見と参りましょうか?」
治子はそれでも冷静だった。
(それより、この女がどうやってここを知ったのか気になるわ。本当にガイアに見通されてしまったのかしら?)
かすみは、那菜のサイコメトリー能力が放った重圧感に堪えながら考えた。
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