第二十一章 カルロス
小柄な南米系の小男は、ニヤニヤしながら、かすみ達を見渡した。
「おうおう、可愛い女の子が四人もいるじゃねえか!」
小男は下卑た顔で言い放った。そして、ピュウッと口笛を吹いた。いきなり正体不明の異能の力を受けた森石章太郎はギリッと歯を軋ませて、小男を睨みつけ、
「てめえもメディアナの組織の人間か!?」
下ろしていた拳銃を構え直して怒鳴った。すると小男はにやけるのをやめ、眼光鋭く森石を睨み返すと、
「そうだよ。俺の名はカルロス。とは言っても、本名じゃねえよ。メディアナ様がつけてくださった通り名さ」
その瞬間、森石が構えていた拳銃が急速に熱を持った。
「うわっち!」
森石は
「
手塚治子がその様子を見て呟いた。カルロスは再び下卑た顔になり、虚ろな目のままの新堂みずほに近づいてその肩を抱き寄せた。森石がムッとして前に出ようとしたが、カルロスに睨まれ、
「なるほど、君が手塚治子ちゃんか?
カルロスは森石の怒りの視線など意に介さない。治子はカルロスの下品な物言いにキッとして、楕円形の黒縁眼鏡を右手の人差し指でクイッと上げた。
「馴れ馴れしいわね、おじさん!」
治子はすぐにカルロスの心の中を
「どういう事?」
彼女は驚きのあまり、目を見開いた。カルロスはまた鋭い目つきになり、
「わからねえのかよ、姉ちゃん。おめえ達は、偉大なるガイアの勢力下で戦ってるんだよ」
その言葉に誰よりも大きく反応したのはかすみだった。彼女はビクッとしてカルロスを見た。
「あんたが噂の道明寺かすみちゃんか。なるほど、でっけえおっぱいしてるな。揉み甲斐がありそうだぜ」
カルロスはニヤリとして、ペロッと舌舐めずりしてみせた。かすみは身震いし、治子は嫌悪の表情を見せた。
「いい加減にしなさいよ、セクハラオヤジ!」
その時、ずっと黙っていた片橋留美子が叫び、
「おっと、危ねえ」
カルロスはそれに気づくと、みずほを楯にした。それに慌てた留美子が力を打ち消した。波動はみずほの直前で消滅し、地面を深く
「ほお、すごいね。そうすると、あんたが片橋留美子ちゃんか。眼鏡をやめてコンタクトにしたら、男達の人気が急上昇したらしいねえ」
留美子もキッとしてカルロスを見た。カルロスはチラッと錦野那菜を見て、
「さあ、光明子ちゃん、面倒臭いアンチサイキックは封じたぜ。さっさとけりつけちゃえよ」
それを受けて、カルロスのすぐそばまで戻って来た那菜がフッと笑って森石を見た。
「ありがとう、カルロス。では、改めまして」
那菜の
「ぐうう……」
かすみも治子も留美子も、脳に
「くそ……」
森石はなす術なくカルロスと那菜を睨みつけるだけである。
「かすみちゃんは傷ものにするなよ、光明子ちゃん。その子はメディアナ様への
カルロスは再び舌舐めずりして言った。すると那菜はニヤリとして、
「あんたこそ、かすみを傷ものにしそうね。手を出したりしたら、ガイアに殺されるわよ」
「そんな事、する訳ねえだろ」
カルロスはみずほの頬をベロリと舐め、得意満面の表情で森石を挑発した。そんな事をされても、みずほは微動だにしない程、那菜に強く支配されていた。
「くう!」
治子と留美子の口と鼻から血が滴り始めた。かすみは何もできない自分に腹が立っていた。
「さあ、もう死にな!」
那菜の力が更に強化された。治子と留美子は目からも血を流し出した。
(このままでは、治子さんと留美子さんが……)
かすみは瞬間移動して那菜を叩きのめそうと思ったが、脳への負荷がかかり過ぎているので、集中できない。
「あああ!」
治子と留美子はとうとう地面をのたうち始めた。痛みが極限に達しようとしているのだ。それでもまだ堪えていられるのは、彼女達がサイキックだからだ。それを見ていたかすみは意識がどこかへ飛んで行ってしまう感覚に襲われた。
(だめ、だめ、だめええ!)
かすみの心の中で何かが弾けた。その瞬間、かすみから出た波動が那菜を直撃した。
「え?」
那菜は突然自分の力がかき消されたのに気づいた。それと同時に、治子と留美子が地面に倒れ臥した。
「何だと?」
カルロスも那菜の力が消えてしまったのに気づいたようだ。
「おい、何してるんだよ、光明子? 力を止めてどうするんだ? 続けろよ」
彼は那菜が力を放出するのをやめたと思ったようだ。那菜はキッとしてカルロスを見て、
「違うよ、バカ! 私は何もしてない!」
そして、かすみを睨みつけ、
「あの女が何かをしたんだよ!」
そう言って震える右手で指差した。その指の先にいるかすみは、遠くを見ているような目をしており、全く覇気を感じない。
「下手な言い訳だぜ、光明子。かすみからは何も感じない。いや、すでに無抵抗になってるじゃねえかよ」
カルロスは下卑た顔で言うと、かすみに近づいた。森石が動こうとしたが、みずほを楯にされ、立ち止まった。
「畜生……」
森石は悔しさのあまり、唇を歯で噛み切っていた。血がジワッと溢れ出し、顎の先へと流れ落ちた。
(道明寺、どうしたんだ? 逃げろ)
カルロスはみずほを引き摺るようにしてかすみにじわじわと近づいた。
「かすみさん……」
治子が苦しそうな顔を上げ、かすみを見た。留美子もかすみを見上げている。
「まずはそのおっぱいを拝ませてもらうぜ」
カルロスの目が怪しく光った。温度制御の能力を使い、かすみの制服を燃やすつもりのようだ。
「うん?」
ところが、いつもまで経っても、かすみの制服は燃え上がらなかった。
「どういう事だ?」
カルロスは力の加減が悪かったのだと思い、もう一度念じた。ところが、何も起こらない。
「まさか……?」
楽天的な思考のカルロスも、さすがに蒼ざめていた。
(力が届いていない? いや、消されてしまっているのか?)
すると那菜が、
「わかっただろう、カルロス? かすみが何かしているんだよ! 私の力も、その女が消しちまったんだよ!」
絶叫のような声で怒鳴った。カルロスもハッとしてもう一度かすみを見た。だが、かすみは相変わらず覇気のない顔をして、遠くを見ているような目をしている。
「え?」
カルロスはいつの間にか、みずほから離れたところに立っていた。
「は?」
彼は自分に何が起こったのか、全く理解できない顔をしている。
「さっきはよくもやってくれたな、このヤロウ!」
目の前には森石がいた。しかも、右の拳を振り上げて。
「ぐへっ!」
カルロスは森石の右ストレートをまともに食らい、数メートル吹っ飛ばされて、地面に仰向けに倒れた。
「バカな……。かすみか?」
カルロスは顔を上げてかすみを見た。
(ガイアの力で連中の能力は制御されているはずだろ? 話が違うぜ)
カルロスはすぐさま温度制御の能力を全開にし、自分の周囲の空気を急速に温め、上昇気流のような流れを作り出し、飛翔した。
「出直すぜ!」
そう捨て台詞を吐くと、カルロスは星空の彼方に消えた。
「あのバカ!」
一人だけでサッサと逃亡したカルロスを見て、那菜は歯嚙みした。
『今は
ガイアがテレパシーで言った。
『はい、ガイア』
那菜は悔しそうにかすみを一瞥し、瞬間移動した。
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