第二十章 かすみの過去
かすみが誘導されて瞬間移動で現れた場所は、新堂みずほ達がいるところから数キロ離れた河原だった。
「さてと。しばらくお前の相手は俺がする。他の連中の事は忘れてもらおうか」
マイク・ワトソンはニヤリとしてかすみを見た。かすみは寒気がしそうになったが、何とか
「貴方と
目を吊り上げて怒鳴った。するとマイクは肩を竦めて、
「別に構わんさ。行きたければ、行くがいい。但し、俺の干渉を無理に振り切ろうとすると、お前の肉体だけでなく、周囲の空間にも支障が出て、何が起こるかわからないぞ」
嬉しそうな顔で脅しをかけて来た。
「そんな事、できもしないくせに! 貴方の考えている事は、全部見えて来るのよ、ワトソン先生」
かすみも負けずに挑発仕返した。マイクは苦笑いし、
「そうか、お前は人の心を覗き見る事ができるんだったな。だから今まで、お前に言い寄って来た男達がどんな事を考えているのかわかってしまって、付き合う事ができなかったんだよな」
かすみは、誰にも話した事がない話をマイクが喋り始めたので、動揺してしまった。
(何で知ってるのよ? それはロイドだって知らない事なのに!)
関わりが長い
「そりゃあ、嫌だよなあ。お前の裸を妄想して、自分の欲望の
かすみの嫌悪などお構いなしで、マイクは話を続けている。かすみは恥ずかしさで顔が真っ赤になり、マイクの言葉が聞こえないように耳を塞いだ。
「やめて! そんな話、聞きたくない!」
かすみは首を左右に振り、大声で叫んだ。しかし、マイクはニヤニヤしながら、
「聞きたくなくても、聞かなくても、話してやるよ、かすみ。連中は、お前のそのでっかい胸とむっちりした太腿を揉みしだくのを妄想しながら、あれこれしていたんだよな! そういう思いは、普通の空想と違って強烈な波動を出すから、知りたくなくてもお前には見えてしまうし、聞こえてしまった。だから、自分の事を好きな男ができると、転校をしていた」
その過去は、両親に捨てられた事より思い出したくないものだった。かすみは耳を塞いでも聞こえてしまう自分の異能の力が呪わしかった。
「そのせいで、お前は日本全国を転々として来ている。ようやく安住の地を見つけたと思ったら、そこは我々が罠を張って待っていた場所だったって訳さ」
マイクは腹を抱えて大笑いした。かすみはマイクの最後の言葉を聞き、目を見開いて彼を見た。
「どういう事?」
かすみはマイクに歩み寄った。マイクはそれに合わせて
「どういう事かって? お前がここに来るように仕向けたんだよ。全能なるガイアがな」
真顔になって答えた。ガイア……。圧倒的な異能の力を持つ敵のリーダーである。
「だから、あの学校には、お前の事を好きになる者はいても、今までのように激しい妄想をする者はいなかったのさ。全部、ガイアの力のお陰さ」
マイクの話はかすみを完全に打ちのめしていた。マイクはかすみが呆然としているのを愉快そうに笑って見て、
「天馬翔子も、小藤弘も、自分達の思惑であの学園に来たつもりだったのだろうが、違う。全て、ガイアの力によるものだ。今日のこの戦いも、全部ガイアの想定内なんだよ、かすみ!」
血走った眼を見開き、叫んだ。その声は、木霊となって、周囲に拡散していった。
「そんな……」
かすみは目眩がしそうだった。国際テロリストのアルカナ・メディアナを操っているかのような存在だった天馬翔子。そして、メディアナを出し抜き、彼等と抗争をするつもりだった小藤弘。そのどちらも、ガイアの
(私の過去を暴いたのはガイア……。でも、探られた覚えがない。それ程彼の力は凄いものなの?)
いつの間にか自分の心の奥底までもガイアに覗かれていたと思ったかすみは恐怖で身が竦んでしまった。
(無理だわ……。次元が違い過ぎる……。勝てない。無理よ……)
かすみは次第に悲観的な考えになっていった。それを感じたのか、マイクがニヤリとした。
「そうだよ、もう諦めろ、かすみ。
かすみはガックリと項垂れ、膝を地面に着いてしまった。マイクはフッと笑い、かすみに近づいた。
「いい子だ。そうだ、それが一番賢明だよ、かすみ。メディアナ様は寛大なお方だ。お前が素直にメディアナ様に服従を誓えば、仲間達の命は助かるさ」
マイクがかすみの肩に手を置こうとした瞬間、かすみは瞬間移動した。
「何!?」
しかも、マイクの頭上には大きな河原の石が出現していた。
「うわあ!」
マイクは瞬間移動し、間一髪で下敷きになるのを避けたが、かすみを取り逃がしてしまった。
(くそ、あと一歩のところで逃げられたか)
マイクが舌打ちして悔しがっていると、
『無様だぞ、クロノス。詰めを怠った貴様の責任だ』
ガイアがテレパシーで言った。マイクはビクッとして、
「申し訳ありません、ガイア! すぐにかすみを追います!」
全身汗塗れになって叫んだ。しかしガイアは、
『もういい。お前は少し休んでいろ』
そう告げると、マイクを眠らせてしまった。彼は河原に倒れ、まるで胎児のように丸くなって
かすみは元いた公園に戻っていた。
(もう少しでワトソンの嘘に乗せられてしまうところだった)
マイクの話は九割型成功していた。しかし、最後の最後で、彼は慢心し、かすみに心の中を覗かれてしまったのだ。かすみは天馬翔子と小藤弘の事は、ガイアとは関わりがない事を見抜き、マイクにつけ入られるのを何とか未然に防ぐ事ができたのだ。
(いずれにしても、ガイアが私の過去を全部見てしまったのは事実だし)
越えようのない壁があるのは確かだと思った。
「ち、もう戻って来たのか?」
「道明寺、無事だったか?」
森石がチラッとかすみを見て言った。
「もちろんよ」
かすみが微笑んで言った瞬間、那菜のサイコメトリーの力がかすみの脳を直撃した。
「ぐうう!」
手塚治子と片橋留美子も同じように苦しんでいる。かすみはもう一度みずほのそばへ瞬間移動しようとしたが、
「させないよ!」
那菜が更に力を増幅し、かすみの集中力を奪おうとした。
「道明寺!」
森石は那菜がかすみに気を取られているのに気づき、銃を下げて走った。
「何!?」
那菜は突進して来る森石を見て、仰天した。
「今よ!」
那菜の力が緩んだのを機に、治子が叫んだ。かすみは大きく頷き、治子の
「くそ!」
それに気づいた那菜は慌てて逃げ出そうとした。
「逃がすかよ!」
森石が那菜を捕まえようとした時だった。
「うわっち!」
彼の足元のアスファルトが突然沸騰したように湯気を出した。
「あち、あち!」
森石は何が起こっているのかわからなかったが、何かの異能の力だと感じ、後退った。
「おいおい、もう追いつめられちゃってるのかい? 情けないぜ、那菜」
そう言って姿を現したのは、パーマをかけた黒髪に、真っ赤なシャツを着て、白のチノパンを履いた、小柄な肌の浅黒い南米系の若い男だった。
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