第十一章 美少女 VS ケダモノ
国定修は、右肩に残っていた植木鉢の破片や土を左手で払いのけながら、怒りの目でかすみを睨みつけた。しかし、かすみは
「俺にとっちゃ、組織は手段でしかねえのさ。だから、メディアナなんてジイさんのご意向は全然気にしねえ!」
国定は目を見開き、再び
「何度やっても無駄よ!」
かすみは迫り来る波動に向けて右手をかざした。すると国定はニヤリとして、
「同じ手が通じると思ったのか?」
次の瞬間、国定のニメートルを超える巨体が宙に浮かび上がった。かすみは右手をかざしたままの姿勢で、自分と同じ高さまで浮かんで来た国定を呆然として見つめてしまった。
「力の応用ができるのは、何もお前だけじゃねえんだよ、道明寺!」
国定は勝ち誇った顔で笑った。度肝を抜かれているかすみに国定が放った波動が当たった。身体が砕かれるかと思ったかすみだったが、違った。その波動はかすみが身に着けていた制服を引き千切り、彼女を下着姿にしてしまったのだ。その上、ソックスと靴はそのままなので、かなり淫靡な格好である。
「下衆な事するのね!」
かすみは剥き出しになってしまった胸を両手で隠し、瞬間移動で国定から離れた屋根に移った。国定はニヤニヤしたままで空中を浮遊し、かすみに迫った。
(まさか、サイコキネシスをそんな風に使うなんて!)
国定の力の使い方にかすみは動揺していた。
「おうおう、でか過ぎて、お前の手では隠し切れないな、その乳はよ!」
国定は舌舐めずりしながら言った。かすみは寒気がしそうだったが、
(どうすればいい?)
対策を考えようとした。その時だった。
「捕まえたぞ!」
いきなり国定が高速移動し、かすみに抱きついた。
「いやあ!」
かすみはそれから逃れようと身を
「いい匂いがするなあ、若い女は。気のせいか、母乳の匂いもするぜ。まさかとは思うが、お前、子供を産んだ事があるのか、道明寺?」
臭い息を吐きながら、これ以上はないというくらいのセクハラ攻撃をして来る。かすみは心身ともにダメージが大きかった。
「くう……」
国定の口から放たれる臭気は、かすみの想像を絶していた。
(ゾンビが実在したら、こんな臭いがするんじゃないかしら?)
そう思ってしまうくらい臭いのだ。国定はかすみが顔をしかめているのに気づき、
「おっと失礼。レディとデートするのに夕食を餃子定食とレバニラ炒めにしたのはまずかったなあ。すまなかったな、道明寺」
そう言って、更に臭い息をかすみに意図的に吹きかけた。かすみは気絶しそうだった。だが、気を失えば、間違いなく国定に下着を剥がされ、
「いやっ!」
そのまま、国定はかすみを屋根の上に押し倒した。ヒンヤリとした瓦が背中に当たり、かすみは身を縮ませた。
「うおお、すげえな。貧相な乳だと、寝転ぶと潰れちまうんだが、お前の乳は、横になっても上を向いているな。これが若さって奴か?」
国定は臭い息を吐きながら、かすみの胸に顔を寄せ、クンクンと匂いを嗅いだ。
「やめて!」
かすみは目に涙を浮かべながら、何とか国定から逃れようともがいたが、全く意味がなかった。国定はピクリとも動かないのだ。
「何だ、泣いてるのか、道明寺? 男によっては、女の涙に反応して、萎縮しちまう奴もいるらしいが、俺は違うぜ」
国定の右手がかすみの左の乳房をグイッと下から包み込むように掴んだ。
「いやああ!」
かすみは絶叫した。口からは
「うひょひょ、
国定はかすみの顔を舐め回した。
「いやああ!」
かすみがもう一度叫んだ。その時、彼女の身体が光を放ち、国定の身体を弾き飛ばしてしまった。
「くうあ!」
国定は屋根から転げ落ちそうになったのを自らの力で押し止め、持ち直すとかすみを見た。
「てめえ、今何をした?」
かすみはそれには応じず、輝きながらフワリと起き上がった。彼女は屋根に立ったのではなく、浮かんでいた。
(道明寺はサイコキネシスは使えないはず……。何だ?)
国定は眉をひそめてかすみを見た。
「ぬ?」
国定はかすみの目が白くなっているのに気づいた。
「何だ?」
その途端、えも言われぬ恐怖が彼を支配し始めた。何かはわからないのであるが、確実に命を奪われるような感覚に囚われたのだ。
「ひ!」
ハッと我に返ると、目の前にかすみが浮遊していた。彼女の目にはやはり黒目はなかった。
「来るなあ!」
国定はガタガタと震えながら、飛び退いた。さっきまで犯してやろうと思っていた相手に恐れを抱いているのだ。
「な、何者なんだよ、てめえは!?」
国定は震えながらもかすみを睨んで叫んだ。しかし、かすみは反応しない。右手をスウッと掲げると、人差し指を国定に向けた。彼は目を見開いた。かすみの指先から、一メートル四方の巨大な火の玉が出現したのだ。
「うへえ!」
思わず後退りした国定は屋根から転げ落ち、
(
国定はサイコキネシスで自分の身体をゆっくりと地面に降ろし、屋根を見上げた。かすみはじわじわと姿を見せ、黒目のない目で国定を見下ろした。
「ぐえ!」
今度は精神攻撃をされた。脳味噌をかき回されるような激痛が国定を襲った。
(これは
国定はかすみの力を欲しがっている国際テロリストのアルカナ・メディアナの真意がわかった気がした。
(もしや、道明寺は
国定の額に汗が噴き出した。そして、目と耳と鼻と口から血が流れ出した。
「うがあ!」
国定は雄叫びを上げてその場に地響きを上げて倒れ込んだ。それを確認したかのようにかすみも倒れ込み、屋根を滑って落下しそうになった。
「く!」
間一髪のところで、彼女を抱き止めた者がいた。季節外れの黒のフロックコートを着たロイドだった。
(カスミ、お前は俺より遥かに優れた
ロイドは彼の腕の中で気持ち良さそうに眠っているかすみを見て思った。
国定の敗北はすでに敵の中枢の知るところとなっていた。
「どこまでも愚か者でしたね、忠治は」
一人が言った。するともう一人が、
「思った以上に道明寺かすみの秘めたる力を引き出してくれたよ。連中にあれこれ訊き出される前に始末を頼む、クロノス」
クロノスと呼ばれた人物はフッと笑い、
「もちろんです、ガイア」
そう言ってから、
「それにしても、道明寺かすみ、底知れぬサイキックですね。もう一人くらい探りを入れさせた方がいいのではないですか、ガイア?」
ニヤリとしてガイアを見た。するとガイアはクロノスに背を向けて、
「すでに手は打ってある。抜かりはない」
「なるほど。そうでしたね」
クロノスは肩を竦め、歩き去るガイアの背中を見た。
かすみが目を覚ましたのは、自分の部屋のベッドの中だった。彼女はどうして自分がそこにいるのか、全くわからなかった。国定を倒した事さえ、自覚していないのだ。
(自分でここまで来たのかしら? それにしても、どうして記憶がないの?)
国定に屋根の上に組み敷かれてからしばらくして、記憶が飛んでしまったのがわかった。
「ダメ、眠過ぎて……」
考えようとしたが、強烈な睡魔に襲われ、かすみはまた眠りに落ちてしまった。
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