サイキックJKかすみファイナル

神村律子

序章 再び登場! ムチムチ美少女

 長い夏休みが終了し、バイオリズムがすっかり狂ってしまった生徒達がボオッとした顔で登校している。

「おっはよう、かっすみちゃあん!」

 そんな中でも、身体のほとんどが能天気でできている横山照光は元気いっぱいだ。その横山に声をかけられた道明寺かすみは、長いポニーテールを左右に動かして横山を見つけると、

「おはよう、横山君。元気だった?」

 弾けるような笑顔で言った。横山は鼻の下を伸ばして、

「でへへ、あんまり元気じゃなかったよお。かっすみちゃあんに会えなかったからさあ。夏休みはずっと寂しく過ごしていたんだよ……」

 そこまで言った時、幼馴染みの五十嵐美由子が必殺の鞄角殴りを繰り出した。

「ぐうう……」

 激痛のあまり、横山はしゃがみ込んでしまった。美由子はそんな横山を無視して、

「おはよう、かすみさん。元気そうで良かったわ」

 かすみはしゃがみ込んだ横山を気にしつつ、

「おはよう、美由子さん。美由子さんも元気みたいね」

 美由子は苦笑いして、

「私みたいなのは、元気だけが取り柄だから」

 すると横山が復活して、

「いてえじゃねえか、ゴリラ女!」

 しかし美由子は、

「良かったわね、生きてる証拠よ、底なしバカ!」

 負けずに言い返す。かすみは顔を引きつらせていたが、

「おはよう」

 そこへすっかり公認カップルになった風間勇太と桜小路あやねが一緒に現れた。

「おはよう、あやねさん、勇太君」

 かすみはちょうど好かったと思い、二人に挨拶した。勇太は頭をさすっている横山に、

「おい、どうしたんだ?」

 笑いながら尋ねている。あやねは美由子を見て、

「ねえ、やり過ぎじゃないの? 横山君、記憶喪失になっちゃうよ」

 ところが美由子はフンと鼻を鳴らして、

「まだ足りないくらいよ。全然、休み前から進歩がないんだから」

 あやねはその返事を聞いて呆れ顔になった。かすみが、

「彼氏にはもっと優しくしようよ、美由子さん」

 ズバッと切り込んだ事を言ったので、美由子の顔が見る見るうちに赤く染まった。

「な、何言ってるのよ、かすみさん! こいつは彼氏なんかじゃないわよ。只の幼馴染みで、縁を切りたいくらいなんだから!」

 そう言って、ダッと駆け去ってしまった。

「そうだよお、かっすみちゃあん! 俺の彼女はかっすみちゃあんなんだからさあ。あんなゴリラ女、関係ないんだよ」

 横山は美由子の駆け去るのを見ながら口を尖らせて言った。

「五十嵐さんもお前も、ホントに素直じゃないよな」

 勇太が笑いながら言うと、

(勇太君には言われたくないと思うよ、横山君も美由子さんも)

 かすみは苦笑いして思った。そして、皆、天翔学園高等部に向かって歩き出す。

「そう言えばさ、ずっと空席だった理事長の椅子が、ようやく埋まるらしいよ」

 あやねが言った。かすみはそれを聞いてピクンとした。

(まさか、また?)

 先代、先先代と問題のある理事長が続いたので、つい怪しんでしまうのだ。

「今度は美人の理事長かな?」

 横山の思考はそれしかないのかという顔で、あやねは冷たい視線を向けてから、

「ベテランの人みたい。父が理事をしている関係で、少しだけ話を聞いたんだけど、結構やり手の女性らしいよ」

 あやねはお金持ちのお嬢様である。彼女の父親は天翔学園に多額の寄付をしているので、理事に選出されたのだ。

「ベテランさんかあ。パスだなあ」

 横山は露骨にがっかりした顔で呟いた。かすみはそんな横山のバカげた発言を聞いていなかった。

(気になる。理事長室を探ってみたけど、理事長らしき女性はいるのに心が覗けなかった)

 サイキックの可能性が出て来て、かすみは緊張した。

(今度乗り込んで来るとすれば、国際テロリストのアルカナ・メディアナの直属のサイキックのはず……)

 今までとは格が違うと聞いているので、余計気になってしまった。

「おはよう、かすみさん」

 校門の前で、隣のクラスの片橋留美子が待っていたので、かすみは更に緊張した。念動力サイコキネシスを持つ留美子と繋がりがある天翔学園大学に進学した手塚治子は千里眼クレヤボヤンスを持っているからだ。治子が何かを掴んだのかも知れないと思った。

「おっはよう、るーみこちゃん」

 節操のなさでは学園一であろう横山がヘラヘラして留美子に挨拶した。しかし、留美子は横山の性格をよく知っているので、

「おはよう、横山君」

 後退あとずさりしながら応じた。そして、かすみにサッと近づくと、

「治子さんから言伝ことづてがあるの」

 そう言って、かすみを校門の陰に引っ張って行く。横山はションボリしていたが、ハッと校舎の方を見ると、鬼の形相の美由子が仁王立ちしているのが見えたので、

「俺、先に行くね」

 蒼ざめた顔で走って行ってしまった。あやねと勇太は顔を見合わせた。かすみは横山が走って行くのを見届けてから、

「悪い知らせ?」

 小声で留美子に尋ねた。留美子はコクンと頷き、

「新任の理事長、治子さんの千里眼で見通せなかったそうよ」

「……」

 かすみの身体が強張こわばった。予感が的中してしまったと思った。

「警戒した方がいいって言われたわ」

 留美子はチラッと理事長室がある方を見てささやいた。

「そうみたいね。私も探ってみたんだけど、何も覗けなかったわ」

「やっぱり……」

 留美子は溜息を吐いた。

「またいろいろと騒動が起こるのかな?」

 不安そうな顔でかすみを見る。かすみは肩を竦めて、

「今はまだ何もわからないけど、注意するに越した事はないわね」

「そうね」

 かすみと留美子が深刻な顔で話しているのを見て、あやねは怖くなってしまった。

「この前みたいに事件が起こるのかな、勇太?」

 彼女は勇太の腕にしがみついた。勇太はデレッとしてしまいそうなのを堪(こら)えて、

「どうかな」

 勇太はドキドキしながら、あやねの肩を抱いた。彼女が震えているのがわかり、勇太は更に力を入れてあやねを抱き寄せた。あやねは勇太がそんな事をしてくれたのは初めてだったので、嬉しくなった。


 そんなかすみ達の事をどこからか観察している者達がいた。

「どうですか、ガイア。道明寺かすみ、なかなかの上玉でしょう?」

 一人が言った。するとガイアと呼ばれた者が、

「本当にそれ程のサイキックなのか? メディアナ様の見立て違いではないかと思えるぞ、忠治ちゅうじ

 忠治と呼ばれた者はニヤリとし、

「サイキックとしての素質はあまり興味ないですね。自分はあのはち切れそうな身体に興味があります」

 ガイアは忠治の言動に呆れたようだ。

「バカな事を考えている暇があったら、かすみの力を試す方法を考えろ。全てはそれからだ」

「はい」

 忠治はガイアに深々と頭を下げた。


 新たな戦いはすでに始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る