師匠いじめ

crow mk.X

師匠いじめ

足の下で蠢く何かは騒々しく、歓喜とも悲哀とも取れない声で鳴く。赤ん坊のように私の足にすがる手を、ヒールで潰すように踏み込む。ぐぇぇとガマのような鳴き声が耳に心地よく、そして愉快だ。

楽しい楽しい、こんなに楽しいことがこの世にあったなんて、師匠は教えてくれなかったなんてひどすぎる。いや考えてもみれば知ればこうしたくなるから教えなかったのか。

尊敬する自分の師を足蹴にし、踏み潰し、普段の凛々しい姿からは想像もつかない、苦痛と屈辱と、ほんの少しの快楽のいり混じる複雑な表情。醜態が脳へ刻まれる。

デリケートなヒールで力一杯に踏み込む事に一抹の不安を抱くが止められない。止めてはいけない、苦痛と快楽、歓喜と屈辱、これを言葉で表現することができれば、私はもう一つ階段を上れる。おそらく師匠も望むところだ。だから私はこの表情を理解するまで踏み続けねばならない。

というのはあくまで踏み続けるための大義名分であり、実際のところはただの娯楽。踏んでいて楽しいから踏んでいる。気の向くままに足を振り下ろす。リズムは取らず、不規則に。力加減もバラバラに。時に踏み殺すように強く、時に地面に寝て腹を見せる猫を転がすように優しく、踏んで踏んで、また踏んで。侮蔑と尊敬、相反する感情を混ぜこぜにしてこの遊びを続けてみる。

かれこれ10分ほど続け、ヒールが折れてようやく足を止める。仕方がないので素足で1発蹴り飛ばして、今日は終わりにする。

「ごめんなさい。でも楽しかった。だからありがとう。また明日も踏ませてください。あとこのヒール高かったんですよ、財布からサービス料とヒール代抜いときますからね」

師匠は、笑顔を浮かべ無言で親指を立てるだけだった。

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