金と薬と女と ~前編~

朝日が昇りかける深夜。



ツインテールの女の子が



「それじゃ田辺さんまったねぇー」



田辺と呼ばれた男は、女の子の方を振り返り手を振る。



笑顔で帰路に向かう最中、田辺の背後からいきなり鈍器のようなもので殴られる。



倒れた田辺のそばで



「これで権利と金と地位は俺のものだ。」



不気味に笑い声を出してた。すると近くから複数の男が田辺を車のなかに運んでいった。







昼下がりのオープンカフェ。



ユージはパソコンをいじりながらエスプレッソを飲んでいた。



画面には『パーラーデルンデス閉店!!』の文字が。



先日ユージがナイトメアとして暗躍した事件。



オーナーが逮捕され、健全な遊戯をといいながらも裏で遠隔操作を行い、打ち子を雇い裏で資金を巻き上げた事が明るみにでた。



しかし、ユージが気にしているのはその事ではなく、自分の存在が知られているかの一点のみだった。



しかし、色んなサイトを見てもというワードは出ていない事にがっかりする。



パソコンをリュックにしまいながら立ち上がり、カップに入ってるエスプレッソを飲み干し



「にげぇな。」



渋い顔をしながら歩き始めた。



職場に戻ったユージは散らかっているデスクに腰をかけると本来の仕事に取り掛かった。



「先輩。今回のネタは決まってるんですか?」



ユージに声をかけた男がコーヒーを持ってきた。



コーヒーを見た瞬間お腹を擦ったユージ。



「ちょっと気になっていてな。永井の方はどうなんだ?ツチノコは」



永井と呼ばれた男は笑いながら



「先輩。さすがに今はツチノコは流行りませんよ。今はネッシーですよ!!」



ユージの開いた口がふさがらなかった。



ネッシーについて熱く語る永井を無視するかの様にいつの間にユージはいなくなっていた。



「あれ?先輩ー?」







『昭和製薬』



と書かれた看板がある建物の入り口に空を見上げながら立っているユージ。



「さてと現場百篇てか。」



独り言をつぶやきながら建物へ入っていく。



「こんにちは。本日はどのような御用で?」



受付嬢がユージに問う。



「こーゆーもんですけど。社長さんに会いに来ました。」



名刺を出しながら話をするユージ。



しかし、名刺の表記には



弁護士 ユージナカイ



名刺をみて疑うような眼差しをユージに向ける受付嬢。



無理もない。ロングTシャツにジーパンの男が弁護士だなんて誰が見ても思わない。



「あっ?弁護士にみえないですよねぇ。スーツはなにぶん性に合わないもんで。」



受付嬢が渋々受話器を取り



「社長。変な弁護し、、、申し訳ございません!!はい!早急に!!」



内線をきって受付嬢が頭を下げながら



「申し訳ありませんでした。私存じ上げなくて。社長室は6階になっております。」



ユージは笑いながら



「わかればいいよん。」



社長室の前に着いたユージはノックもせずに入っていく。



「待っていたよ。ユージ君。いやナイトメア。」



小太りで口ひげがトレードマークな男がユージを見ながら話しかけてきた。



「ったくオヤジの知り合いだから頼まれてるんだからな。」



ユージは溜め息を吐きながら、不機嫌そうに言う。



話を簡単にまとめると、先日のユージがナイトメアの活動をしたことによりオヤジが動き出した。



するとオヤジはすぐにユージにを提供した事らしい。



ユージと話をしている口ひげの小太りの男。昭和製薬の社長、一文字剛いちもんじたけし



一文字とオヤジは学生の頃からの仲らしい。



一文字が口を開いた。



「今回、お願いしたいのはこれだ。」



1枚の写真を出した。写真に写ってるのは1人のサラリーマンが血を流しながら縄で縛られている姿だった。



「彼の名前は田辺。我が社の研究員であり次期役員が決まっている。最後の現場仕事で彼は囚われの身に。」



語尾に力が無くなっていく。



「一文字さんよぉ。心当たりは?」



ユージは一文字を睨みながら聞いた。



一文字は溜め息を吐きながら。



「実は、思い当たる節はこれぐらいしかないんだが、私と田辺は新しい薬を作って成功させたんだ。それからトントン拍子で臨床試験もクリアしたんだ。後は世に出るだけだった。」



「新薬誕生の妨げってか。だけど世にも出ていないのなら社から漏れた可能性は?」



「外部に漏れることはまずない。私と田辺だけの秘密であり、彼への報酬も提示したのだから。」



一文字は自信満々に答えた。



「事件の背景はわかった。だけど情報が少なすぎる。囚われた理由。相手。そして現在も生きてるかどうか、、、」



ユージは考えながら話し続ける。



「写真だけしか届いてないのも謎なんだよなぁ。」







ユージは煙草を吸いながら街を歩いていた。情報が少ないこの案件。スタート地点も見つかっていない状態。



スマホを取り出して電話をかける。



「あっオヤジ。頼みたい事があるんだけど。昭和製薬の田辺って奴の身辺を洗ってくれ。」



「若!身辺はもうとっくに洗ってあるぜぇ。」



ユージは少しにやついた。



オヤジと一文字の関係性を物語っているかの如く仕事が早かったのだ。



一文字からオヤジに頼んだ時点でオヤジは行動を開始していたのだ。








ユージの家の中でオヤジとユージが話し合っていた。



「オヤジが調べてくれても、情報が少なすぎて、、、手の付け所がねぇよ」



コーヒーを飲みながらユージがオヤジに言った。



「若ぁ。とりあえずここしかないんじゃないか?」



オヤジが指を指しながら言う。



オヤジが指を指した先には、一人の男の写真が。



平田浩二ひらたこうじ、囚われている田辺の側近で彼の部下らしい。



「平田から当たってみるかぁ~」



ユージは伸びをしながら家を後にした。







夜のバーの中、一人の男が酒を嗜んでいた。



「マスターおかわり。」



空いたグラスをマスターに差し出して、新たな酒をもらった。



「お隣いいかなぁ?」



酒を嗜んでいる男の前に顔を出したユージ。男は少し驚きながらも了承した。



「ところで早速なんだけど平田さん。田辺さんの事聞かせてくれないかなぁ?」



ユージの隣で酒を嗜んでいた男。彼こそ平田だった。



「あなたは?」



平田は酒を口にしながらユージに問う。



「聞かれなくてもわかってるでしょ?あなたの上司を助けようとしてるものだよ。」



ユージは笑いながら言った。



「ダメだ。彼を助けるのは、、、不可能だ!!何故ならっ!?」



ユージが平田の胸ぐらを掴んで



「どういう事だ!!」



声を荒げた。



マスターも慌てて



「お客様お静かに。」



「不可能ってどういう事だよ。」



ユージが唇を噛みながら聞いた。



「田辺さんは新薬を開発したことを誰かに喋っちゃったみたいなんです。」



平田が震えながら喋り続ける。



「田辺さんは社長と密に新薬のやりとりをしてたらしいんです。私は二人の会話で薬がどうこう聞いただけの事だから実際は解らないんですけど、田辺さん最近デートクラブにハマってたみたいで、、、」



「デートクラブ、、、?」



ユージはタバコを吸いながら聞き返す。



「1回だけ田辺さんに誘われて行ったんですけど、、、私には性に会わなくて、だけどそのデートクラブの近くで」



平田は震えながら酒を口につける。



「見たんです!はっきりとその筋の人が何人も店に入って行くところを!」



ユージはタバコを吸いながら言った。



「平田さん。デートクラブの名前は?」



平田は震えながら背広の内ポケットから名刺を出した。



「ここです。田辺さんのお気に入りの子では無いんですけど。」



受け取った名刺を見ると



キューピッドという店の名前が書かれていた。ユージは少し考えながら立ち上がりカウンターにお金を置いて右手をあげて店を後にした。



「これ。俺からの奢りね。」



平田から溜め息が漏れていた。しかし平田自身田辺を助ける術が無い今、突然隣に来た田辺の事を聞いてきた男に頼るしか無いのだから。







「いらっしゃいませ~!!キューピッドへようこそ。」



桃色の声が店内に響き渡る。



「お兄さんうちの店初めてぇ?」



ツインテールの云わば妹系みたいな女の子が声をかけた先には、



もちろんユージがいた。



「あっ、うん。まぁ。」



驚いてあっとされてるユージを余所に腕を引っ張っていく女の子。



「御新規1名様でぇす!!」



ユージは女の子から矢継ぎ早に説明を受け続け、気付けば女の子とデートしていた。



「改めてですけどはじめまして。私チョコ。よろしくね。」



ユージを半ば強引に引っ張ったツインテールの女の子は自己紹介をした。チョコは見た目は明らかに高校生。しかし時計は深夜を平気で回っていた。



「あのさぁ、チョコちゃんは高校生だよね?こんな時間に町歩いたら警察に、、、」



「あのね。深入りすると危険なんだよ。」



一気にチョコの目付きや雰囲気変わった。踏んではいけない地雷を踏んだかの様に。



「あ、いやごめん。ごめん。妹が高校生で深夜働けたらなぁなんて言ってたから良かったらチョコちゃんと同い年ぐらいだからどぉなのかなぁって」



ユージはとっさに嘘をついたが、つくづく口から出る出任せにうんざりもしていた。



「そおなんだ!それならそうと早く言ってよね。チョコびっくりしちゃった。おかしい男が最近多いから。」



さっきの雰囲気が変わったチョコから元に戻って、会ったばかりのキャピキャピした感じになっていた。



『このままだとマズイ!!』



ユージは直感的に感じた。



気持ちを切り替えたユージは一変してチョコとデートを再開していた。



しかしユージは田辺の事を聞きたいのにチョコの一方的な喋りでユージは聞くだけ。時計を見ると気付いたら4時を回ったところでチョコから



「お兄さんもおすぐ時間だけど?延長する?」



ユージはすかさず



「今日は雰囲気味わいたいだけだったから申し訳ないけど今日はここで帰るよ。」



チョコは少し寂しそうな目をしながら



「妹さんにも話してみてね。ここで働く事。では今日は3時間半で65000円です。」



ユージはお金を支払いチョコと歩いた街中を後にした。



チョコが見えなくなったところで渋い顔をしながら



「香水臭ぇし、なんかキャピキャピしすぎだし気持ち悪くなってきた。しかも値段高過ぎだよ。」



独り言をつぶやいた。








「オヤジぃ~若い娘に興味ある~?」



昼下がりユージの家でベーコンエッグを食べながらオヤジに聞いた。



「若!急になんだよっ」



オヤジあたふたして皿を割った。



ユージはその光景を笑いながら眺めていた。



「仕事だよ。この店で情報集めてきて」



キューピッドの名刺を差し出してユージは続けた。



「昨日の夜、平田から聞いて行ってみたけど、、、俺よりオヤジの方が若い娘、扱えるだろ?」



ユージはオヤジの肩を叩いて家を後にした。



「本当に若は人使いが荒いんだから。まぁでも仕事がてら、、、」



オヤジの顔はにやついた。







「いらっしゃいませ~」



キューピッド内に声が響き渡る。しかし店内に入ってきたのは、ちょいワルオヤジを意識した格好をしたオヤジだった。



「ゲンちゃんと呼んでくれぃ!!」



店内が一瞬無言に包まれたのは言うまでもない。



おとなしい感じの女の子が出て来て、オヤジは直ぐ様腕を組んで歩き始めた。



端からみたらただ楽しんでる中年男しかみえない。



しかしサングラスの奥の眼差しは真剣そのものだった。



2人はカラオケに入っていく。



するとオヤジは突然人が変わった様に



「なぁ嬢ちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?勿論タダとは言わないよ。」



女の子はちょっと驚きながらも



「えっ?どうしたんですか?」



「ここのお店の裏話を教えて欲しいんだ。色々と悪い噂があってね、、、ゲンちゃん気になってしょうがないんだよ。」



「そんな事ありませんよ。」



「本当かい?ゲンちゃんの友達が痛い目にあったってんだよ。嬢ちゃんの知ってる事でいいんだ。」



「本当に知りません。これ以上変なこと言うと店にれんら!?」



オヤジはポケットの中から札束を1本取り出して机に叩きつけた。鋭い眼光をサングラスの奥から放ちながら。



「言っただろ?タダじゃないって。」



女の子はうつむいて、



「私の、、、知ってる事で、、、いいなら。ただ!!間違っても私から聞いたって言わないで!!」



力強くオヤジにお願いをした。



オヤジはにやつきながらわかったよと云わんばかりに合図をした。







女の子が事情を説明し終わる直前だった。



「オッサン、、、今聞いた内容忘れてもらおうか。」



いかついスーツの男がオヤジに銃を向けていた。



「それと娘。お前も就業規則違反だ。お前にもそれなりのペナルティーを受けてもらうよ。覚悟しな。」



いかつい男が引き金をひこうとした瞬間、部屋の扉が勢いよく開き右足が銃を捉えた。



蹴り飛ばされた銃を余所にいかつい男は蹴りが飛んで来た方向に目を向けると、紫のつなぎを着たユージがいた。



「オヤジ。楽しんでる最中に悪いなぁ」



ユージは白い歯をオヤジ達に向けて、いかつい男に飛びかかった。



飛びかかったユージを振り払い、すぐに蹴りを繰り出すもユージは両腕で受け止めた。



狭い部屋の中はしっちゃかめっちゃか。周りの客も突然の騒音に野次馬や悲鳴をあげて逃げる者もいた。



受け止めた足を払いボディをめがけてユージも蹴りを繰り出すがいかつい男は片腕で蹴りを受け止める。



すぐに間合いをとったユージは顔を向けることなくオヤジに言う。



「ここは任せろ!!それとその子にGPSと盗聴機が仕掛けられてる。先ずはそれを外すんだ!!」



「ちょいとゴメンよ。」



オヤジは言われた通りに女の子を調べ始めた。



「きゃあ!?」



悲鳴をあげる女の子を無視してオヤジは服を隅々までみる。



すると、襟元に小型の機械を見つけてすぐに握りつぶした。



「とりあえず行くぞ!!」



オヤジは女の子の手を引っ張りカラオケを後にする。



いかつい男は汗を拭いながら、



「このままで済むと思うなよ。」



ナイフを取り出してユージに向けた。



ユージを切りつけにかかるいかつい男はナイフを振り回す。



しかし切りつけにかかってきた、ナイフを全て見切って避ける、そして右足でナイフを持った手に蹴りをかます。



ナイフが弾かれたと同時にユージは笑いながらサングラスを取りだし、



「決着はまた今度ね。ゴリラ。」



声を弾ませながら、ポケットから何かを取り出すと地面に叩きつけた瞬間、煙が部屋を包んだ。



いかつい男はむせながら煙を払う。視界を確保出来た時にはユージの姿は無くなっていた。



「あの野郎、、、」



歯を食い縛りながら言った。



カラオケ屋を後にしたオヤジはバイクを走らせていた。後ろにはさっきの女の子を乗せながら。



「ゲンちゃん!!どこまで行くの?」



女の子は叫びながら聞く。



「あん?とりあえず安全なところまでな!」



オヤジは更にアクセルを回す。何故なら後ろから黒い車が追ってきてるからだ。



「かぁーっ!!しつこいってんだよ!」



オヤジが独り言をつぶやきながらバイクを乗り回すと歩道橋が目に入る。するとそこには紫のつなぎの男、ユージがいた。



ユージは背負っていたライフルを取りだしスコープを覗きこみ車に標準を合わせる。



「さぁーてと、久しぶりに撃つから当たるかなぁ?」



おどけながら独り言をつぶやいた。



オヤジが歩道橋を過ぎたと同時にユージは引き金を引いた。



黒い車の左前輪に見事命中。車は止まった。



「やりぃ!!」



ユージは小さくガッツポーズをして歩道橋を後にした。



オヤジ達が乗ってるバイクはそのまま住宅街に入っていき、どんどん小さくなっていった。







ユージの家。



オヤジが女の子を連れて帰ってきた。



「好きにかけてくれ。」



女の子にソファーに座るように促すと、力のない声で、



「ゲンちゃん、、、私これから、、、殺されるのかな?」



震えて目から何粒も涙が流れていた。



オヤジはコーヒーを作りながら



「大丈夫だよ。俺達には若が着いてるから。」



「若って?」



「さっきカラオケでお前さんを助けてくれたヤツだよ。」



女の子はさっきのカラオケでの光景を思い出しきっと大丈夫って暗示をかけるかの様に胸の前で握り拳を力強くもどこか弱く握っていた。



「ただいまーっ」



ユージが威勢よく帰ってきた。



「あ、、、あの助けてくれて、、、ありがとうございます」



女の子は立ち上がりお辞儀をする。



「あぁ別にいいよ。杏ちゃん。それともちゃんの方がいいかな?」



名前を言われた女の子は驚き、オヤジは皿を落として、



「若!なんで、この子の名前をしってるんだよ!」



「皿割りすぎだよ。」



ユージは鼻で笑いながら説明を始めた。



オヤジより先に家を出た後、キューピッドが入ってるビルに向かい、裏口から潜入し、営業開始前もありキューピッド内は誰もいなく、チョコやキューピッド内の事を細かに調べてたら従業員が出勤してきたと云う。



「そしたらさぁ、様々な事が解ったよ。実はこの子達」



あおいと呼んだ女の子を見ながら



「全員身寄りの無い女の子達だったんだ。しかも表向きは健全なダミー会社を装って、裏では関東最大級のヤーサングループ左久良さくら組傘下の団体が絡んでるだよなぁ」



オヤジは呆気にとられながらも



「で、、、でも若。なんでまた身寄りの無い子を集めてこんな商売を、、、」



「オヤジも聞いてただろ?さっきのカラオケでのゴリラの言葉。この子達には逃げ場が無いんだよ。ただ1人の女の子を除いてな。それと田辺だっけ?囚われてるの。」



「そうだけど、、、」



「田辺なら無事だよ。少なくとも来週までは」



「どういう事だよ!!」



オヤジは慌てながら聞いた。



「詳しくはこれを見るんだな。」



と言って、ファイルをオヤジに渡した。



そこには昭和製薬の株主総会について書かれていた。



「さてと俺は準備をしてくるよ。しっかりと目を通しておくんだな。」



ユージは笑いながら、家の地下へ向かう。



地下の扉を開けると部屋中には銃が立て掛けられ1つの机とパソコンがあった。



ユージはパソコンの画面を見てにやけていた。



画面には昨夜ユージのお相手をした子チョコの履歴書が写されていた。



「さてとまずはこいつからだな。」



笑いながらつぶやいた。





~続く~

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