第6話 入隊試験②
「うっわ、なにこれ。真っ白じゃん」
気がついたら俺は雪原の真ん中に立っていた。
「てか、顔寒っ!!」
体はポカポカして温かいものの、外気に露出している顔と手は露骨に冷気の攻撃を受ける。
取りあえず立っているだけでは始まらないので、俺は右手に持っている機械をポケットの中に入れて、辺りを散策する事にした。
************
「あー、やっとあった……」
散策を始めてから2時間は経過しただろうか。やっとこさワームの巣を見つけ、卵を発見した次第である。
「6個か……。ま、既定の数には足りてるからいいかな」
最初は不慣れだった雪の上も2時間も歩けば慣れるものだ。全く、人間の適応能力ってのは恐ろしい。
「んじゃ、さっさと回収して帰りますかね」
と俺は卵を革袋の中に入れ始める。卵の感触は冷たくて堅い。まるで氷を触っているような感触だった。
5個目を袋に入れ終わった直後だっただろうか。遠くの方から何かを引きずる音がかすかに聞こえてきた。その時は音も小さかった事もあり、大して気にも止めなかったのだが、最後の6個目を入れた後、その判断は間違いだという事に気付かされた。
音が近づいて来ていた。もの凄いスピードで。音の出処から方角を判断し、その方向を目を凝らして見る。
それは物凄い勢いで大きな雪煙を上げながらこちらに近づいていた。
「いや、え? これって、俺狙い?」
確証は無い。だが、もしもということもある。これは一刻も早く帰った方がいいだろう。そう考え、俺はポケットに入れた小型機械のスイッチを押そうとした。しかし……だ。ここで1つの疑問が生じた。この機械は押した瞬間すぐ帰れるのだろうか。もしも、押した1分後とかだったらどうする? そして、押してから動いてはいけないという決まりがあったら? そのような不安が突如俺を襲った。機械を渡された時にそういう説明が無かったから恐らくは大丈夫だと理解はしていても、納得ができていない。もしもここで帰れなければ、俺は知らない雪山の中で遭難するという事になる。それは嫌だ。故に手がボタンを押すことを拒否する。
そう考えていたら、雪煙を出していたモノはもう視認出来るくらいまで近づいていた。
一言で表すなら、その正体はミミズだった。……かなり大きめの。確証は無いが、顔の部分は大きさは大体直径3 m位だろうか。それがうねうねと近づいてくるのだ。気がつけば足が勝手にミミズとは逆の方向に動き出していた。
しかし、速度の差は歴然で、すぐにでもミミズは俺に追いつきそうな勢いだった。
となると、残された道は1つしか無い。『戦う』だ。
俺は覚悟を決めて、ミミズと正面から向き合う。先程より距離が近いおかげでミミズの表情がよく分かる。口は規則的にパクパクと開き、口の中からは鋭く尖った牙が見える。……これミミズじゃないよね。ただの怪物じゃん。
獲物が逃げるのを諦めたと感じたのかどうかは定かでは無いが、こちらに近づいてくるミミズの速度が少し上がったような気がした。俺は左手をギュッと握り、右手を正面に突き出す。もう、この手段しか残っていないのだ。
正直にいうと凄く怖い。もしかしたらここで死ぬかもしれない。だが、やるしか無いのだ。やるしか生きる手段は残されていないのだ。俺はそう、自分自身を説得し、ミミズとの距離が1 mを切った所で、全力で雷を放出した。
***
「ハァ……ハァ……」
俺はその場で180度回転し、空を見上げた。どんよりとした曇り空は、パラパラと小さな雪を降らせ始めた。
「やった……のか……」
辺りは静まり返っており、自分の呼吸音以外は何も聞こえない。この事象が指し示す回答は助かったということなのだろう。
本当に偶然だった。偶々、ミミズが大口を開けた瞬間に能力が発揮できたのだ。雷は口の中に吸い込まれていき、ミミズはそこで動きを止めた。しかし、慣性の法則というものがあり、ミミズの動きは止まっても、ミミズ本体はこちらに突っ込んで来たのだ。
俺は動かない体に鞭を打ちながら、左方向に思いっきり飛んだ。結果、ミミズは俺の体を掠めるように飛んでいき、俺は雪の上に緊急不時着したというわけだ。
(取りあえず……しばらくはこのまま休みたい……)
そう考え、俺は生きている事の喜びを噛み締めつつ、自分の魔欠状態を解決する事に全力を尽くすことにした。
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