『諦めるのか? クソ神』


 ―――めのまえに私がいた。

 いや、よく見るとちがう。

 あなたは―――


『どうでもいいことを気にするな。今は自分のことだけ気にしろ』


 じぶん。

 じぶんは消えてしまった。

 からだはもうない。


『本当にだらしないやつだ』


 でも存在しなければ おわり。


『……自分の手を開いてちゃんと見てみろ』


 ……?

 手だけが存在している。

 握った拳を開く。



  .



 手のひらからはなれてなにもない空間をただよう。

 たった一ドットにも満たない、ちり。

 でも、それは確かに存在していた。


『君の手は届いたんだよ、彼に』


 そっか。

 よかった。むだじゃなかったんだ。

 ちいさくて、どうしようもないかもしれないけど。

 よかった。


『ここで諦めるのか?』


 …。

 でも、しかたないこと。

 つかめただけで、それだけで。

 だから。


『じゃあ、諦めろ』


 …。

 あきらめたくない。


『じゃあどうするんだ?』


 わからない。

 けど。あきらめるとか、あきらめないとかじゃなくて。

 あきらめたくない。

 わたしは、あきらめたくない。

 なにもかも終わっただけで、それくらいで、あきらめたくない。

 だって、まだなにもはじまってない。


『我儘な奴だ』


 わかってる。でもあきらめたくない。わたしは消えてなくなったかもしれない。けど、わたしはここにいるから。たしかにここにあるから。


『本当に我儘だ。だが、それでいい』


 いつまでもここにいられない。はやくいかないと。


『分かった、手を出せ』


 …?

 手をさしだすと、手をにぎられた。


『これを持ち主に返してやれ』

 ひかりのつぶがあふれる。


『せっかく持ってきてやったんだ。今度こそ大切にしてやってくれ』

 だれかのおもい、かれのためのおもい。


『私では助けられないから』

 きらきらがあふれてくる。


『最初で最後だ』

 ひかりに包まれて、かたちをつくる。


『ありがたく思え。クソ神』

 からだに、ねつが、ちからが、ただただ純粋なその想いが、溢れてくる。


『……縺ゅj縺後→縺』

 私が見えない手をふろうとしたときにはその姿はもうなかった。

 ありがとう、という間もなく、私の影はなにもない空間に消えてしまう。



 そして。

 それと向きあう。

 新しく生まれた体で空中に手を伸ばす。

 たったヒトカケラの存在。

 でも、それはたしかにある。

 ぎゅっと握りしめて。

 口元に寄せる。

 たしかに鼓動を感じる。

 手のひらから熱量が溢れてくる。


「      」


 ―――凛さん


「      」


 ―――あなたの


「――――――」







 ―――願い事は?


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