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帰宅すると、居間に母親がいた。
「あら、おかえり」
「……本村、殺されたんだ」
「あれ、あんた知らなかったのかい」
「知らなかった」
「そういや、あんたしばらくいなかったものね。もうとっくに知ってるもんだと思ってたわ。知らせてやるんだったね」
大根の安売りの話でもするような軽さだった。この話題は母親のなかでは、もう深刻さの失われた話なのだろう。
「いま、健さんと話してたんだ」
「健さん、いま刑事なんだってね」
「そう」
「犯人まだ見つかってないんでしょ?」
「見当もついてないんじゃないかな。おれにも話聞くくらいだし」
「まったく物騒な話だね。じゃあんた、お葬式にも行っていないの?」
「そりゃ知らなかったんだから行くわけない」
「お葬式、さびしかったらしいわよ」
「そっか……行ってやりたかったな」
「あんたさ、お線香あげに本村さんのおうちに行ってきたら? 友だちだったんでしょ」
「うーん……」
先ほど健さんと話していて思ったが、おれは本村からゲームを借りたり、有益なことを教えてもらったりしたが、おれが本村に対して何かをしてあげたという記憶はまるでなかった。
不孝者だな、おれは――。
部屋に戻り押入れのなかを漁ると、予想通り本村から借りたゲームソフト『虹色メモリーズ』が出てきた。埃を払って、中身を確認すると、外傷はないようだった。十年以上前のゲームなので、ヒロインたちが虹を見上げているパッケージがいささか古めかしく感じる。
気乗りはしなかったが、葬式にも出なかったわけだし、本村の家に行って線香をあげ、虹メモも返そう。そう決めた。
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