渡辺淳一の評価がとても低い(『作家の値うち』を読む)
ここからは、具体的な作家の評価について見ていく。
なお、この本で取り上げている100人の中には、私が読んだことのない作家も多く、ここで取り上げるのは私が今までに読んだことがあり親しんでいる作家が中心である。
最初に渡辺淳一を取り上げる。渡辺淳一は私が25年くらい前によく読んでいた作家だ。
取り上げた作品及びその評価は次のようになっている。
『花埋み』 49点
『遠き落日』 44点
『化粧』 38点
『ひとひらの雪』 31点
『失楽園』 22点
『かりそめ』 28点
全体的に非常に評価が低く、特に大ベストセラー『失楽園』の低評価が目につく。
似ているタイプで本書に取り上げられている作家を探すと、不倫小説と伝記小説を書くという意味で林真理子が目に入る。比べてみると、林真理子の評価も低いがそれよりもさらに低い評価だ。
また、同年代のエンターテイメント作家では五木寛之が載っている。五木寛之の評価も低いがそれよりもさらに低い評価になっている。
まず、取り上げられている小説がどのようなものなのか見ていくが、その前にまず、渡辺淳一の小説にどんなものがあるのか、おおざっぱに分けてみる。
北海道もの・東京もの・京都もの・伝記ものの4系統に分けるのが有力な分け方だと思う。前の3つは現代小説で、小説の舞台になっている場所で分けた。
北海道ものは、渡辺淳一の生まれ故郷であり学生時代及び医師時代を過ごした北海道を舞台とした小説。北海道ものの中には、恋愛小説だけでなく医学的な題材のものが含まれている。東京ものは、専業作家として過ごした東京を舞台とした小説で、不倫を扱ったものが圧倒的に多い。京都ものは、渡辺淳一が中年以降よく遊び(及び取材)に行っていた京都を舞台にした小説。伝記ものは、資料調査等を重視して書いた小説である。
上記の小説は系統的には次のようになる。
『花埋み』『遠き落日』が伝記もの、『化粧』が京都もの、『ひとひらの雪』『失楽園』『かりそめ』が東京もの。
『化粧』は京の料亭の三姉妹がヒロインの話で、東京の大学に行ったり銀座のクラブに勤めるヒロインもいるので京都・東京ものと呼ぶこともできないわけでもないが、京都の料亭の三姉妹の話なのでやはり京都ものでいいと思う。
ところで、この本は、作家自身の生まれ育った場所のことを書いた初期の作品に高い評価をつける傾向があり、宮尾登美子の『櫂』、林真理子の『葡萄が目にしみる』、山崎豊子『花のれん』『ぼんち』の評価が高い。
『遠き落日』『化粧』『失楽園』は相当売れた代表作なのではずせないかもしれないが、他の作品のいくつかを北海道ものに代えるとかなり評価が違ってくるのではないだろうか。北海道ものの『白夜』『阿寒に果つ』『北都物語』なども渡辺淳一の代表作と言っていいと思う。
次に、作家に関する解説文を読んでみる。
渡辺淳一が「亡国的作家」とみなされるのは。紋切り型のポルノグラフィーそのままの性描写のためばかりではない。文章の緊張感の欠如、人間理解の浅さ、小説の構造の信じ難い安易さなどが目につくにもかかわらず、かような作品が多くの読者を集めていることをして、日本民族の「衰退」の明確な徴と受け取らざるをえない。
ものすごい熱のこもった批判文である。「亡国的作家」だの日本民族の「衰退」だの、作家に対する悪口としては異例とも思える愛国主義的な言葉を用いている。これは、物語のイデオロギー化を認める立場からの発言なのであろう。
そして、文章・人間理解・小説の構造などが駄目だと言っているのだから、「小説家として何もいいところがない」と言っているに等しい。
「そこまで言うか?」と突っ込みたくなるが、ただしうなずけるところもあった。
それは人間理解という部分だ。
渡辺淳一の書くものには、「女とは~」「男とは~」などと決めつけたりしてどうも上から目線の部分が目につく。物語の中で突然そういった人間学の講釈が始まるのである。うざったいと言うか、「みんながみんなそうとは言えないんじゃないの?」と反論したくなる。福田氏もそう思ったのだろうか?
一方、文章は読みやすくてなかなかいいと思う。場面などに合わせて適度に論理的だったり抒情的だったりしてなかなか柔軟だし、視点がしっかりしている。
小説の構造は、よくあるようなストーリーが多く、別によくもなければ悪くもないと思う。
ざっと見てきたが結論としては、渡辺淳一の本が売れることと日本民族の「衰退」とは無関係で、娯楽小説と考えればなかなか面白い小説も多く、まずまずの評価ができる作家だと思う。
※ 文芸に関する記事は下記のブログにもあります。
『東野圭吾の考読学』
URL:http://ooyamamakoto.hatenablog.com/entry/2018/06/27/211407
検索;考読学
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