第12話 冒険なんてしないよ
金貨60枚が60グロウル。
俺はそのうちに20グロウルだけを受け取った。
〈呪いのクエスト〉を達成した俺は、冒険者ギルドのギルドホールで盛大に祝福された。酒や料理を振る舞われ、冒険者から、商人から、一緒に働かないか、パーティーを組まないかという誘いを受けた。
ギルドの一番偉い男もやってきて、直々に礼を言われた。
その後、悪人面の商館に行き、15グロウルの借金を返した。早々に首輪を外され、商館の中に招かれると、そこでも酒をふるまわれた。
態度が全く違った。
悪人面も白ターバンも、やけに自分に丁寧だった。
グリムは早々に商館を出て、宿に戻った。
手持ち、残り5グロウル。
今回のクエストは、命が掛かっただけあって、その見返りは確かに大きいようだった。この町にとって、レッドライカンの討伐と砦の開放は、重要な事だったようだ。早馬が、ひっきりなしに通りを駆けてゆく。
宿に戻ると、その一回の飲食スペースで、少女は待っていた。
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名前 :シャス・ハーナ
クラス:ウィザード
Lv:10/15
・ネルの村の少女。
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彼女の名前が分かった。
シャス・ハーナと言うらしい。そして彼女の村の名前は、ネルというのだ。
ハーナは俺を見つけると駆け寄ってきて、嬉しそうに声をかけてきた。何を言っているかはやっぱりわからないが、彼女が、俺が生きて帰ってきたのを喜んでいるのはわかった。
いや、俺もうれしいよ。自分が無事で。それから、もう一度君に会えて。
俺は金貨を三枚――つまり1グロウをハーナに渡した。
ハーナは、金貨など初めて見たのだろうか、受け取ると、その一枚をまじまじと見つめ、ナイフでも渡されたかのように、ふるふると泣きそうな顔をして首を振った。
カーバンクルも、金貨を見つめている。金貨に映った自分の顔に興味があるのかもしれない。
さて、これからどうするか。
彼女は、これで村に帰るのが良いだろう。俺の冒険に付き合わせるわけにはいかない。きっと、危険すぎる。
いや待て。
――俺は別に、冒険なんてする必要がないじゃないか
何が悲しくて、自分から危険を冒すような旅に出るのか。ロッククライミングやスカイダイビング、サーフィンだって、俺からすれば危ないスポーツだ。エクストリームスポーツと呼ばれるもの全般、俺は怖くてやったことがない。
だが、そういう、世間一般に「危ない」と言われるものだって、そうそう死ぬわけじゃない。たまに死んだりするが、それでも、安全の範疇だからスポーツなのである。
で、この世界はどうだ。
魔物が跋扈し、人間も金の為なら簡単に仲間を裏切る。命の保証はない。たった半日で、死ぬ機会が三度はある。そんな世界。
ここで、冒険?
この世界にいるだけで危険なのに、さらにまた、冒険するか?
ハーナは、むしゃむしゃと肉を食べている。
美味しいらしい。
うーん……。
――かといって、この世界で普通に暮らす事が、何になるのだろうか。
だったら、死んでしまって元の世界に戻った方がいい。元の世界に戻れば、まぁ、職探しはしなければならないが、寝る場所に困ったり、食べ物に困ったりするような心配はない。魔物に襲われることも、友達に裏切られて刺殺される心配もない。
ローブ一枚でうろうろするようなこともないだろう。
あぁ、いずれにしても、服は買おう。
5グロウルもあるのだ。何にしても、パンツが優先だ。身の振り方はその後で良い。今はこの、股間で振子になっているヤツを何とかしたい。
仕立屋で服を買い、公衆浴場で体を洗い、床屋で髭を剃った。
再び宿屋。もう夜である。
ハーナが夕食を食べる向かいで、グリムは再び、今後のことを考えなければならなかった。パンツは履いているし、ブーツも、ズボンもシャツも揃えた。
さぁ、どうするか。
とりあえずステータス巻物を開いてみる。
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名前 :グリム(『ウルドの呪い』)
種族 :アニマン
クラス:ウィザード
Lv:15/15
HP :66/66
Stm:48(100%)
MP :50
神具 :『ステータス巻物』『翁の事典』
装備 :『翁に貰ったローブ』
パッシブスキル:
『マナマネジメントLv1』『リリーブヘイトLv1』
アクティブスキル:
『テレキネシスLv2』『ホーリーアローLv1』『グレイスキュアLv1』
『HPポワードLv1』『デボートキュアLv1』
ポテンシャルスキル:
『翁のガイドライン』『秘められた魔術師の才能』『聖母の手』
『デュアルプレイ』『アナライズサイト』『黒魔術の才能』
称号:
『異世界から来た男』『ウルド最後の希望』『小さな救世主』
『借金ベイビー』『癒者』『レッドライカン討伐者』
『逃げる男』
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装備の項目には『翁に貰ったローブ』しか表記がないが、安心してほしい。パンツも履いているし、ズボンも、シャツも、ブーツもしっかりつけている。どうやらこの項目には、着ているものが全部入るわけではないらしい。
『翁の事典』を開いて、言葉やスキルを一つ一つ確認してゆく。
〈マナマネジメント〉
・魔法使用時のスタミナの消費が軽減される。
〈リリーブヘイト〉
・魔物の敵対心を受けにくくする。
〈グレイスキュア〉
・祈ることで癒しの精霊を呼び寄せ、傷を癒す。
〈HPポワード〉
・自分のHPを他者に移す。
〈デボートキュア〉
・傷口を開き、悪化させる。
最後のがエグい。さすが黒魔術。
あとのスキルや称号は、概ね名前の通り。いや、一つだけ特別なのがあった。
〈デュアルプレイ〉
・同時に二つの魔法を使える。
ちょっと、すごそうなスキルである――と、思いたい。
こんなのいつ取っただろうか。忘れている。だが、今の自分には、そういう能力があるのだと、しっかり認識できた。この能力を、今後の生活で(戦闘とは言わない)、何か役立てることができるかもしれない。
そう、認識したうえで――冒険する?
うーん……だって、目的がないんだ。ゲームなら、クリアするという目的がある。だから主人公は、姫を助けるために、魔物を倒し世界を救うために、冒険する。彼らの冒険は、目的のある、意味のある冒険だ。
でなければ、誰が好き好んで冒険なんてするものか。就職がしたいとか、テストで良い点を取りたいとか、その程度の理由では、冒険をする動機としては弱すぎる。冒険をするなら、命を懸けるにふさわしい理由が必要だ。
今の俺には、それがない。
魔法を使える?
スキルを覚えた?
クラスエンチャントできます?
だから何だ。それが俺の人生とどう関係ある? 好奇心で突っ走れる能天気な人間と違って、俺にはそれに勝る恐怖心がある。死にたくないし、痛いのは嫌だ。人が死ぬのは見たくない。悲鳴も聞きたくない。
よし、決めた、冒険をやめよう。
かといって、死ぬのも怖い。よって、一年くらいこのまま生きてみよう。冒険者ギルドで、命のかからない安全な仕事をしながら生活費を稼いで暮らせばいい。それくらいの力は、きっと今の俺なら持ってる。
そして、飽きたら死ねばいいのだ。
――そう考えていた時期が俺にもありました。
しかし、そうは問屋が卸さない。世の常なのか、『ウルドの呪い』のせいなのかはよくわからない。
問題が起きた。
バーンと、派手に扉が開いた。
松明を持った、鎖帷子を付けた男が、血相を変えて飛び込んできたのだ。
「⩀⩄⦀⟕⩈、⩀⩄⦀⟕⩈⟔⟞⟡⨪⟢⟖⟟!」
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