第60話「スコヴィル強いんですか?」

――プルルル……


 今は他にメンバーがいないため、圭子は電話を取ります。


「はい、ヘルプデスクです★」


 明るくかわいくご挨拶は、ヘルプデスクの基本です。


 可愛ければ、黒くても白になる場合がありますね。


〈すいません……ボクはスイーツな奴で……すいません……〉


「…………」


 いきなり謝罪から、しかも意味不明な内容でとまどいますが、圭子もかなり慣れてきました。


 朱に染まれば修羅の道です。


「なるほど★ スイーツ好き男子ということでしょうか?」


〈そうじゃないんです……すいません。ボク、辛いのが食べられなくて……〉


「……別にかまわないじゃないですか?」


 そう思います。


〈すいません。かまうんです。ボク、高校で……その……友達の間で、激辛物を食べるのが流行っていて……食べられないとバカにされるんです……すいません〉


「ああ。ありますよね。若い男の子って、そういうの妙に自慢したりして★ 『こんなに辛いの食べられるんだ』って粋がってみたりして……子供って、かわいいですよね★」


 JCなのに、高校生に対してどこかお母さん目線です。


「気にしなくていいんですよ。健康にいいわけでもありませんから★」


〈すいませんけど、ダメなんです! 気にするんですよ、すいません! あなたにはわかんないんですよ、すいません!!〉


 謝りながら怒っています。


 かなり器用ですね。


〈辛いのを食べられないと、『このサンダース野郎が!』ってバカにされるんですよ、すいません!〉


「……軍曹?」


〈……『チキン野郎』ってことです、すいません〉


「……捻りすぎです」


 カーネルもビックリです。


〈とにかくすいません! ボク、判定値が100の雑魚なんです。なんとか修行して強くなりたいんです!〉


「え? す……すこうんたー?」


〈知らないんですか、すいません! 僕たちは辛さで強さを測っているんですよ! すいません!〉


「は、測っているんですか?」


〈はい。単位は凄火流スコヴィルです〉


「それ、カプサイシンの割合……」


〈そう、それですよ、すいません! 特殊能力【火武砕心カプサイシン】の適応力が強さになるわけですよ! すいません!〉


「いつからスコヴィルやカプサイシンは、そんな中二病用語になったんですか!? ウィルバー・スコヴィルに謝ってください!」


〈す、すいません!〉


 これは正しい謝罪です。


「あと、これから先は『すいません』は禁止です」


〈は、はい。すいま……します〉


 肯定したつもりのようですが、意味がわかりません。


〈と、とにかく友達は、タバスコを料理にかけて2000~5000スコヴィルは当たり前で。そのぐらいだと、いわゆる地球人の一般武闘家レベルなわけですよ!〉


「な、なぜ武闘家にたとえるのですか?」


〈わかりやすいですよね! たとえば、ちょっと強い武闘家である【ハバネロ】の称号だと、8,000スコヴィル。10,000スコヴィル以上で、【デス】称号を得られるんです。タバスコの2倍の辛さ。つまり、ナメ○ク星人みたいな?〉


「ナメ○ク星人って……。だいたい、称号ってなんの話なんでしょうか? デスって、【デスソース】という辛味香辛料の商品名では……」


ね……なんていいませんよ!〉


「……なにか性格がかわってませんか?」


〈すいません……〉


「その謝罪は受けつけます」


 圭子も少し怒っているようです。


〈話はそれましたが、デスの中でも15,000スコヴィルの【サルサデス】が使う『ムエルト』って技や、35,000スコヴィルの【ピュアデス】が使う『ウィズジョロキア』という術が凄くて……〉


「話はよけいそれましたが、むしろどんな技や術なのか聞きたくなってきました……」


 好奇心旺盛なところが、圭子のいいところです。


〈おかげで今のボクでは、【四天王】のこの2人さえ倒せない……〉


「まあ、100じゃ勝てませんよね。というか、四天王ってやっぱりいるんですね」


〈はい。のこりは50,000スコヴィルの【アフターデス】と、四天王最強の100,000スコヴィルを誇る【サドンデス】がいます。同じ『ウィズジョロキア』という術でも、サドンデスが使えば恐ろしいことになります〉


「むしろ、その術を世界中の女性に教えてあげたいです……」


 ちなみに一般的な催涙スプレーは、弱いと15,000スコビルで、強くてもせいぜい90,000スコヴィルらしいです。


 もちろん、目と口は違いますが、その100,000スコヴィルの使う術ならどんなチカンだって撃退できそうです。


〈ああ、女性ですか。もちろん、女性の称号所持者もいますよ! なにしろ、今のところ最強の770,000スコヴィルの【メガデス】という称号をもつのは女性で、ボクの幼馴染みですから!〉


「……あなたの幼馴染み、その存在が最強の催涙スプレーさえ遙かに上回ってます」


 最強の催涙スプレーは、180,000スコヴィルぐらいのようです。


 その4倍以上の辛さが、メガデスソースになります。


〈しかし、その前には立ちふさがるのは、283,000スコヴィルの暗殺者【ポシブル・サイド・イフェクツ】と、350,000スコヴィルの赤き将軍【真ハバネロ】!!〉


「ジョブや役職設定まで出てきましたね……というか、称号が名前になっていませんか?」


〈ボクはそいつらを倒し、メガデスである幼馴染みの彼女に勝って……彼女に告白したいんです!〉


「結局これ、恋愛相談なんですか!? 本当にスイーツな相談ですね!」


 さすがの圭子もツッコミをいれずにはいられません。


〈彼女に勝って、彼女より強いことを証明する……。それにはボクが、【ブート・ジョロキア】の称号を手にいれて大幹部の地位に辿りつく必要があるのです!〉


「辿りつくって……それトウガラシの品種ですよね?」


 それっぽいことを言っても、圭子には通用しません。


 しかし、彼女の話も相手に通用しません。


〈ブート・ジョロキアにたどりつけば、855,000スコヴィルは確実! そして限界を超えて『インフィニティ・チリ』をマスターした時、ボクは1173,000スコヴィルを超える【ウルトラデス】の称号と、彼女を手にいれるのです!〉


「100スコヴィルがずいぶんと高みを目指しますね……。それはからいではなく、つらいのではないですか★」


〈もう! そんなカワイイ感じでウマイこと言って!〉


「すいません。そろそろ切っていいですか?」


〈ああ、すいません、すいません! 調子に乗ってすいま……します!〉


「そこは素直に謝ってください」


〈兎にも角にも、ボクはブート・ジョロキアに辿りつくために修行――まさにブートキャンプをしたいのです!〉


「すいません。そろそろ切除っていいですか?」


〈ボクがなりたいのは、じゃなくて!〉


「すいません。そろそろ手術オペを開始します」


〈しません! ああ、もう! とにかく助けてくださいよ!〉


「……しばらくお待ちください」


 諦めが入った圭子は、キーボードを叩きます。


「……えーっとぉ、ググったところいいのがありしまたよ★」


〈ググったんですか!?〉


「基本です★ ……それよると、ブート・ジョロキアを使った料理を各店で出している商店会があるようです★」


〈なっ! なんですと!?〉


「東京都港区の芝商店会の『激辛ストリート』だそうですが……」


〈そ、それだ! それこそボクのブートキャンプ地! そこで全メニュー制覇した時、ボクは彼女を手にいれることができる!〉


「いえ、それはど――」


〈ありがとう、ヘルプデスク!〉


――プツッ……ツーツーツー……


 最初の謝っていた高校生はどこにいったのでしょうか。


 まるで人が変わったように勢いで話して、勢いで電話を切ってしまいました。


「……ごめんなさい」


 圭子は切れた電話に謝りながら受話器を戻します。


「実はこの情報、2017年……かなり昔の話なんですよね★」


 1人で悪戯っぽく彼女は苦笑します。


「もうやっていないでしょうけど、悪く思わないでくださいね。カプサイシンの取り過ぎは、本当に体に良くありませんから★」


 彼女は心の中で「これで諦めてくれるといいな」と祈ります。


 しかし、彼女は考えが甘かったのです。


 なんと激辛ストリートは、未だに存在したのです……。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■用語説明

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●可愛ければ、黒くても白になる場合がありますね。

 可愛ければ許しますよね?

 そう言えば、「えらきゃ、黒でも白になる、ペンペン」という歌が昔ありました。

 知っていますか? 知りませんよね? 忘れてください。


●朱に染まれば修羅の道

 相手を殺してその身を返り血で朱に染めれば、その道も赤くなる。

 それすなわち、修羅の道!

 世の中はそういうものだという格言だったと思います。


●スイーツ好き男子

 今の私の契約先の上司は、スイーツ部長と呼ばれていて、出張すると現地のうまそうなスイーツ土産を必ず買ってきます。


●『こんなに辛いの食べられるんだ』

 私も20代のころ、それを自慢に思ったことがありました。

 いわゆる黒歴史ですね。


●『このサンダース野郎が!』

 ケン○ッキーフライドチキンですね。


●「……軍曹?」

 「コンバット!」という映画を知っていますか?

 えー。知らないんですかぁ~?

 ……まあ、知らなくても問題ありませんが。

 https://goo.gl/Zmsi5L


●スコウンター

 スコヴィルを図る機械のようです。

 当然、片方の目につけるレンズ型モニターでしょう。

 「スカ」ではありませんのでご注意を。


●判定値が100

 一般的なペペロンチーノが食べられるぐらいの強さです。


凄火流スコヴィル

 火武砕心カプサイシンの強さを表す単位。


●スコヴィル

 辛みを感じなくなるまで砂糖水で薄めた時の希釈倍率。カプサイシンの割合。

 一言で言うと、辛さの単位です。

 https://goo.gl/IVpXYC


●カプサイシン

 アルカロイドのうちカプサイシノイドと呼ばれる化合物のひとつ。


火武砕心カプサイシン

 燃え猛る心で敵を砕く特殊能力。


●ウィルバー・スコヴィル

 スコヴィルを考えた人。


●地球人の一般武闘家レベル

 ヤ○チャぐらいでしょうか?


●【ハバネロ】の称号だと、8,000スコヴィル

 タバスコの一種で、ハバネロソースのことだと思われます。

 レベル的には、天○飯でしょうか。

 ええ。適当に書いています。


●10,000スコヴィル以上で、【デス】称号

 ここからの称号は、めんどくさいのでデスソースをご参照ください。

 とにかく辛いタバスコだとでも思ってください。

 https://goo.gl/7mdStJ


●四天王

 格闘ものにはお約束ですね。


●アフターデス(ソース)

 実にタバスコの10倍の辛さです。


●サドンデス(ソース)

 実にタバスコの20倍の辛さです。

 目にかければ、「目が、目がぁ~~~」とム○カごっこができます。


●メガデス(ソース)

 この辺から凶器になります。


●真ハバネロ

 ハバネロ本来の辛さです。


●スイーツな相談

 要するに幼馴染にカッコイイところを見せて告白して付き合いたいという恋愛相談のようです。


●ブート・ジョロキア

 北インドやバングラデシュ産のトウガラシの中で、ハバネロよりも数倍辛いと言われています。


●インフィニティ・チリ

 ブート・ジョロキアと同じぐらい辛いトウガラシだと思います。

 ちなみに世界一辛いトウガラシは、キャロライナ・リーパー。

 死神の名を持ちます。

 https://goo.gl/D3dokO


●ウルトラデス(ソース)

 やばいです。


●東京都港区の芝商店会の『激辛ストリート』

 激辛カツカレーとかたまに食べに行きます。

 http://www.shiba-shotenkai.com/about/shibakara/


●激辛ストリートは、未だに存在した

 つまりこれは次回に対する伏線かもしれません。

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