第24話「内心ですか?」
ヘルプデスクに予定時間ぴったりに訪れた30代の若い男が現れました。
「初めまして、ヘ
夢子は内心で、「噛んだ……二回も噛んだ……」とツッコミます。
この短い文節で、難しくもない単語を噛めるのは才能です。
緊張していたのか、かるく咳払いしてから話し始めます。
「うちの平山が、また失礼なことを言ったようで申し訳なかったね」
「いえ、いつものことですから。まあ、もう少し躾けていただけると助かります」
皆藤の言葉に、優等生キャラのような眼鏡をクイッとあげて、「すまん、すまん」と菊池が苦笑します。
夢子は内心で、「黒縁眼鏡キャラ、かぶってるから!」とクレームをつけます。
「それで、今日は平山さんのことだけじゃないんですよね?」
「ああ。そうなんだよ、皆藤さん。実は、ちょっといろいろと気になることや問題があってね」
そう言うと、菊池が空いていた圭子の椅子をひっぱり出して、勝手に腰かけます。
夢子は内心で、「圭子ちゃんの椅子に座るなんて図々しい! あとでファ○リーズしておいてあげないと!」と嫌悪をあらわにします。
どうやらすでに、菊池は夢子に敵認定されたようです。
「実は最近、ヘルプデスクからうちの二次受付に回ってくる案件がほとんどなくてね」
「……いいことじゃないですか」
「まあ、そうかもしれないが、過去の案件に関してもうちから連絡すると、『それはすでにヘルプデスクに解決してもらったから』と言われたりして」
「……いいことじゃないですか」
「いや、それは一概には言えなくてね。なにしろ、うちじゃないと解決できないような内容まであって。例えば、OSのパッチを当てる作業などは、うちの権限がないとできないはず」
夢子は内心で、「ぎくり!」と冷や汗をかきます……が、表には出しません。
「さらに基幹システムに新しい機能が追加されていたり……」
夢子は内心で、「ばれた!」と焦ります……が、やはり表には出しません。
神経が図太いです。
「なんでも最近、ヘルプデスクにはコンピューターに強い優秀な人材がはいったらしいじゃないか」
夢子は内心で、「ふふん!」と誇らしげですが、威張れる立場ではないでしょう。
本当に神経が図太いです。
「そのヘルプデスクのメンバーが、勝手にうちのセキュリティに違反したことをやっている……ということはないかな?」
「ないですね」
皆藤、即答です。
もちろん、いつもの無表情のため、相手は嘘かどうかを読み取ることもできません。
彼はポーカーやダウト、ババ抜きをやったら、最強かもしれません。
「……まあ、そう言うと思ったけどね。だから、こっちも秘密兵器を投入することにしたよ」
「秘密兵器?」
「そう。IT部の総力をかけて、ヘルプデスクに負けない超優秀な人材を見つけたのだよ」
「そんな人材雇う予算、よくありましたね」
「そのために、3人クビにした!」
「悪魔ですか、あなたは……」
「ふふん。ヘルプデスクにいつまでもでかい顔させておけないからね」
「いや、クビにする前に無駄な同好会とか解散しなさいよ」
「やだね!」
「駄々っ子ですか……」
「ともかく紹介しよう。優秀ならば年齢性別を問わず探した結果、見つけた女子高生メンバーだ!」
「菊池さん、女子高生に手を出すのはまずいでしょ……」
「中学生に手を出した、あんたに言われたくない!」
夢子も悠も深く深くうなずきます。
こればかりは、皆藤の味方がいませんでした。
「紹介しよう、山口 京子くんだ!」
菊池の紹介とともに、ヘルプデスクのコーナーに学生服姿の女子高生が入ってきます。
髪を左上で一つに結んだ、活発そうな彼女は「ちーすっ!」と手をあげて挨拶する。
「どうもっす。山口っす」
その彼女の登場に、悠が目じりを下げました。
「あなた……そこで、ずっと隠れて待っていらしたの?」
「そうっす! なんか大事な演出だからと言われたんで」
非難の目が一斉に菊池に向けられます。
だが、菊池は素知らぬ顔どころか、自慢げでさえあります。
「ともかく、ちょーがんばるんで、これからよろしくお願いしまっす!」
明るく元気な声が響きます。
その声を聴きながら、夢子は内心で思いました。
(オチてない……。この話、まだ続くのか……)
はい。すいません。まだ続きます……。
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■用語説明
●ファ○リーズ
「あなたにファ○リーズします」と動詞にすると、やんわりと相手を除外したい意思表示ができるかもしれません。
●(この話、まだ続くのか……)
びっくりですね。
書いてたら長くなり過ぎた……なんてことはありませんよ。
本当ですよ、本当……。
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