第23話「否定しないのですか?」
「我が社の【情報システム室】は、ITを活用しません」
「何を言っているのか、まったくわかりません」
皆藤の説明を夢子が真っ向から潰します。
「なんでIT部情報システム室が、ITを活用しないんですか?」
「それは、彼らが忍者だからです」
「ああ、バカなんですね」
夢子は、忍者だって容赦なく斬って捨てます。
「まあ、それは否定しませんが――」
否定しないそうです。
「――彼ら情シスは、伊賀流忍者の末裔で構成されていて、独自の情報収集システムを構築しています」
「独自?」
「足で稼ぐ」
「ああ、バカなんですね」
「否定はしません」
あくまで否定しないそうです。
「彼らは電子機器をあまり信用しておらず、eメールも使わずに手紙を直接届けたり、伝書鳩を使ったりしています。だから、『コンピューターウイルスと関係なくセキュリティも高い』と豪語しています」
「……なんでうちの会社は、そんなの許してるんですか?」
「いや、まあ、彼らはライバル会社の情報とかすっぱぬいてくるんで、役に立っているんですよ」
「それ、スパイ行為ですよね!?」
「否定はしません」
そこはしておきましょう。
「まあ、ともかく、それで彼らは、IT部であることを嫌悪し、さらに私にもよく突っかかってくるのです」
「……ん? 皆藤部長に突っかかるのはなぜですか? ヘルプデスクが部だから?」
「それもありますが、私が昔、甲賀流忍者だったからです」
「甲賀流忍者!?」
「ええ。仕事の関係で」
「仕事の関係!? なんの!?」
「まあ、高校も私立
「さすが○猿飛!? ネタが古すぎますよ!」
「それでも反応してくれる、あなたの年齢の方が気になって仕方ありません」
夢子の年齢不詳説が、ヘルプデスクではホットな話題です。
「そういえば高校生の頃、胃の笛の術を体得したかったですねぇ……」
「神風の術ではなく、そちらを選ぶとは、皆藤部長は変態ですね」
「女子の服をひきちぎるように脱がせたい……それは男子高校生ならば、誰もが必ず持っているロマンです。持っていない人などいないと断言しましょう」
「それなら、男子は高校生になったらみんな牢獄に入れるべきですね……」
皆藤のせいで、全国の男子高校生の自由が奪われるかもしれません。
「まあ、それは置いといてですね。IT部って、そもそもどういう構成なんですか? IT部にユーザーサポートチームみたいなのがあって、普通はそこがヘルプデスクになりますよね?」
夢子はずっと気になっていたことをこの機会に聞いてみました。
なにしろ夢子は最初、こここそがIT部のユーザーサポートチームだとばかり思っていたのです。
ところが入ってみれば、ほとんど何でも屋です。
「構成ですか。……IT部は、山下室長の率いる情シスの他に、ITプロジェクト室、サーバーチーム、インフラチーム、電子模型クラブ、基幹システムチーム、アイドルメディア研究室、ユーザーサポートチーム、VRMMORPG愛好会、Webコンテンツチームがあります」
「……気のせいか、なんか無駄なものが混ざってませんか?」
「否定はしません」
しきれませんね。
「それにユーザーサポートチームってあるじゃないですか。なんでそこがやらないのです?」
「人数不足で、ユーザーサポートチームは1名なんですよ」
「そんなに人数不足なら、無駄なクラブとか愛好会とか潰しましょうよ!」
「ごもっとも。……ともかく今は1名だけなので、一次受付をヘルプデスクがやって、二次受付をユーザーサポートチームがやるわけです」
「二次受付に回したことありませんけどね……」
「うちのメンバーは優秀ですから」
「否定はしません」
夢子は、胸よりも鼻高々です。
――ポーン!
皆藤のパソコンからチャイムが鳴ります。
皆藤は自分のパソコンを操作すると、「あ」と一声だけあげました。
ちょうど問い合わせの電話が終わった悠が、横から皆藤に尋ねます。
「どうなさいましたか?」
「……菊池さんがくるそうです」
「あら……」
悠が驚きを表すように口を押えます。
「誰なんですか?」
夢子は初めて聞く名前です。
「菊池さんは、今話題にでたIT部の部長です」
「ということは……」
夢子が、ガタッと椅子を後ろに押しながら、勢いよく立ちあがります。
「この話、まだ引っぱるということですか! しつこいですね!」
……すいません。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■用語説明
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●「【情報システム室】は、ITを活用しません」
自分で書いておいてなんですが、「そんなわけあるか」と思っていました。
●伊賀流
ハットリ君や、カバ丸が有名です。
●甲賀流
猿飛佐助や、霧隠才蔵とかでしょうか。
猿飛佐助は、実在じゃありませんが。
●私立
肉○君と魔○ちゃんが通っていた学校です。
●さすが○猿飛
アニメ版はグタグタでしたね。
漫画版は面白かったです。
●胃の笛の術
女の子の衣服だけを脱がす恐ろしい術です。
たぶん、世の中の男性はみんな使いたいはずです。
●神風の術
女の子のスカートをめくる恐ろしい術です。
たぶん、世の中の男性はみんな使いたいはずです。
●電子模型クラブ/アイドルメディア研究室/VRMMORPG愛好会
これらがすべて余計です。
このほかに「親指シフトを守る会」などがあるようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます