サルベージ小話まとめ
麻野あすか
第1話サキモトさん
サキモトさんの肌は、白い。
真っ黒に塗りつぶされた円が描かれたトンネルを抜けると、
私の職場が見えてくる。
サキモトさんはパックのジュースを並べる仕事をしている。
正規の社員ではない。
むやみやたらぎゅうぎゅうに詰めているわけではなく、
指で角を引けばすいっと取れる。
「ぼく、これ」
そう言って男の子が手に取ったのは
小さなおもちゃのおまけがついたスポーツ飲料だった。
とたん、まるで鬼のごとき形相になった母親は、黙ったまま
そのペットボトルをひったくって棚に戻した。
そうして並んだほかのジュースを押し分けながらわざわざ一番後ろの、
同じジュースを手にとってかごに入れた。
おまけはついていなかった。
「変な人間っているものだよねえ」
早速サキモトさんに話すと、そう言って苦笑いを見せた。
「子供の将来が心配」
「大丈夫だいじょうぶ」
そういう子は早くに出てっちゃうから。
「異動ですか」
鸚鵡返しに聞き返した私に、そう、○○社ね。と上司はニコニコと告げた。
サキモトさん、私異動になってしまったみたいです。
「大丈夫大丈夫」
もともと切れ長の目が、さらに長く長く伸びる。
眉が薄くなり、耳がツンと尖った。
サキモトさん。
それは、真っ白な狐だった。
そのとき私は、この二、三ヶ月の何もかもを思い出した。
トンネルを抜けた先に鉢合わせた白い獣のことも
パックだけの陳列なんていう仕事があるわけなかったことも
そうして、サキモトさんは私以外と会話をしていなかったことも。
サキモトさん
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