第12話 甘雨 華が病欠

「甘雨! やっと店でも会えたな!」

離れてた時期が長くて不安だったけど、嬉しそうに駆け寄ってくる后は仔犬みたいで、昔と全く変わらない。


「甘雨、急なシフト変更に対応してくれてありがとうございます。

華が体調を崩しているので、今日はフル出勤ですが大丈夫ですか?」

「旅館の方も繁忙期ですけど、問題ないっすよ。それより華、大丈夫そうですか?」

「はい。大事をとって休ませてるだけですから、明日にはおそらく。」

店長この人数で店回すの大変だろうけど、華は普段こき使われてっから、たまにゆっくり休ませてやんないと。

「天神さん、ランチはホールに入ってください。

華だけでなく、甘雨のやり方も学んで欲しいので。

厨房とホール、両方こなせるようになってくださいね。」

后が俺を見てガッツポーズしてる。

俺も后と一緒にホール入れるなら、急なシフト大歓迎!


やっぱし后は良い。

メニューの復唱は噛み噛みだし、レジはおぼつかないし、段差でコケる。

それでも一生懸命が伝わるから、客は怒んない。

ある意味才能だよな。

周りに応援されるって。

俺の方が勉強させられたって感じ。

ディナーは厨房に入っちゃうからつまんないけど、必死で皿洗うんだろうな。

それにしても。

カウンターの下に視線を移す。

暗がりには、変わりなくバリ風の変な人形が置かれている。

店長こだわりの悪趣味なインテリア。

華は多分気づいてないけど、あれにはカメラが仕込んである。

俺の家は旅館だから、普通よりセキュリティに詳しいし、講習も受けてる。

だから、設置位置ですぐ気付いた。

詳しい奴なら、ホール全体が上手く映るあの場所を選ぶ。

レンズはピンホールだから、知ってて探さないとまず見つからない。

店に防犯カメラが必要なのはわかる。

けど、何で隠してんのか俺にはわからない。

カメラで録画してる間は、動作中って表示しなきゃいけねーんだ。

そもそも偽装工作してる時点でわかりやすく明示するわけないけど。

これじゃ監視ってか盗撮じゃねー?

この前、キモいから後ろ向きにしておいたのに、きっちり戻してあるし。

俺が知ってるって、店長気づいたよな。

それでも霧砂はまだ知らないっぽいし、隠してんだ。

ならあえて言わないけど。

でも実際、店長は何が目的でこんな事してる? 録画見て楽しんでるとか?

后のエプロンだってワザと女性用使わせてるのかもしんないし。

まあ似合ってるけど。

盗撮マニアでセクハラとか鳥肌だな。

あー、あの人、関わっちゃダメなタイプだわ。

あんま后の傍に寄せたくない。気をつけなきゃな。

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