2月21日 榊 常明(浄水課維持一係)「黄昏の」

 今日は組合の地本青年部の春闘学習会の勉強会――らしい。

 昨年度から局の青年部長をしているにもかかわらず“らしい”って曖昧なのは、今年度になってから地本の青年部長が変わって、いろいろ増えたからだ。

 ――うん、増えたんだよ。いろいろ。

 学習会に向けた勉強会なんてそんなものいらないと思うんだけどさ、それを真顔で提案して実行に移しちゃった我らが地本青年部長はこの人だ!

「みなさん、こんばんは。地本青年部長の井上真人です。今日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます」

 外見どう見積もっても高校生、でも中身はとりあえず今年三十路突入だという営業課収納係の井上さん。

 一応言っておくと、熱心に組合活動やっているところのなかには学習会に向けた勉強会やってるところもあるんだよ? ただ、井上さんの場合、ただ単に要領が悪いというか、頭が足りないというか――

「今日はまず最初に基本綱領に目を通して、組合活動の理念を今一度確認し、それから先日作成した春闘学習会の資料の内容についての確認を行いたいと思います」

 ――ていうか! 今日はまず最初に、って前回もその前も基本綱領読んだ! 大体組合の理念は確認するまでもなくもう覚えてる! それに何で作成済の資料の内容を二度も三度も確認しなきゃならないんだよ! 今日で四度目だって!

「それではみなさん、全水道手帳の一頁を開いて下さい」

 ああ、もう……井上さん、今日も何とかの一つ覚えみたいにやる気だ。

 ていうか地本の部長職なんて押し付けられたくないから、みんなすんごいイヤそうな顔してるにもかかわらず誰も何も言わないし。

 ――誰なんだよ、この人部長にしたの。今日も弁当なしで二十一時まで拘束コースだよ、これじゃあ。

 責任とってくれよう……。

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