2月17日 佐東直武(西部水道企業団)「日曜夕方」

 暇だ。何もない――空虚な気分で街を歩く。

 独身。独居。彼女なし。卵と牛乳、そして、アルコール、ついでにヨーグルト――切れるのが早いものはこうして度々買いに出るが、それ以外理由がなければ仕事以外で外には出ない。

 外も内も違いなんてない。退屈で空っぽで……いや、もしかしたら今日は違うかもしれないか――僕は前方から手を振りながら足取り軽くやってくる知人を見つけて少し笑う。

「おーい! 直武君じゃあないかー!」

 よく通る高めの男声。同性のはずだが美人という言葉がとても似合うその知人の後ろには、やはり顔をよく見知った二人がいた。

 いつだって何を考えているのかよくわからない白い顔の眼鏡の男と、やたら立派な身体つきの角張った男。

 仕事の時はともかく、街で出会う時には定番の三人だ。

「相変わらず独り?」

 僕の目の前までやってきた、万人の羨望に値する美人は、失礼なことを意地悪だが、やはりきれいな顔をして訊ねてきた。

「陸君、あなたもそうでしょうが」

 こちらも遠慮なくそう言うと、そうなんだよ、と朗らかに笑う。陽気な人だ。

「いっしょに飲んでくれる女の子がいないから、これから祐一の家で飲もうかってことになったんだ。最近宮本のヤツに彼女できて三人集まることなかなかなくってさ、このメンバーでは久々なんだよ。直武君も来るよね?」

 それ、僕がいていいんですかと訊くより早く、陸君は僕の手を取り、

「直武君捕獲したぞー!」

 と二人の方へ引っ張っていった。

 ――きれいな手。あたたかい。

 いつものごとく僕を見つけた時点で、一緒に飲むのは決定だったのだろう、

「いっつも思うがちったあ顔色治せよ痩せぎす眼鏡」

「浦崎さん並みですからね。いずれにしても宮本君がその精気を分けてやればいいと思うのですが」

 残る二人も軽口で僕を受け入れ、そして、きれいな陸君がにっこりと笑う。

「ね、直武君、たまにはオレらに企業団のことも聴かせてよ?」

 月に一回は話している気がするし、さほど乗り気ではなかったけれども、それでもうなずいてしまうのは、ブルーマンデー症候群か。それとも人恋しいからなのだろうか。

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