2月8日 浦崎淳太郎(収納係停水班)「電話」
停水予告の期限日は朝から電話や来客が多い。
今日までに払込をするなり支払の日延を願い出れば停水はされないというのだから集中するのはわからないでもない。
が、しかし、予告状を出したのは先月の二十五日。それから二週間経っているにもかかわらず、何で期限日に集中するのだろう?
――電話の音がうるさい。
誰かが取れば、別の電話が鳴り出す。そして、それを誰かが取れば、また。
応対する声はどれも落ち着いてはいるけれど刺々しい。受話器から洩れ聴こえる声は悲鳴に近い懇願だったり、居丈高なことを言う怒鳴り声だったり。
ああ、嫌だ。嫌だ。全部うるさい。
「せめて着信音くらい可愛い女の子の喘ぎ声だったらいいのにな」
受話器を戻した小寺君が困ったような顔でそう言って、小さく笑った。
「でも、それで取って、聞こえてきたのがドスの効いた男の声だった嫌でしょう、陸さん」
強面の宮本君が眉間に皺を寄せて大真面目に言うと、すかさず佃君が澄ました様子で、
「そうだな、ガリーみたいなのが出たら、とっさに金返せって言うだろうな――おっと」
そう切り返し、鳴り出した電話の受話器を上げた。
「はい、水道局営業課収納係の佃です。はい……はい……」
電話応対する佃君の顔を眺め、ふと小寺君や宮本君の方を見ると平然と机に向かっていた。電話応対以外にも仕事はあるから当然だ。
また電話が鳴る。今度はちょっと手が空いたらしい山木君が取った。
――皆、気にならないのだろうか。
私は今すぐにでも止水栓キーを手にして電話機を壊したいのに。
もう鳴るなと喚き散らしながら壊していきたいのに。
もっとも、そんなことができるのならば、たぶん、特殊型は使えていない。使えたとしても人を殺して終わっている。
臆病だから使えるし、臆病だから存えている。
理性が溜めるストレスは、ぜんぶ胃にきているけど。
ああ、また、電話。
今度こそ私が取ろう。
「はい、水道局営業課収納係の浦崎です」
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