第164話 水の精霊さんへ。
祠には変わらず六角形の封印石が鎮座している。昔はもっと気配があってそれを感じられる人も多くいたはずで、だからこんな風に小さいけれど丁寧に造られた場所に納められたんだろう。封印した人たちの思惑とは別に、交流があったはずなんだよ。だからきっと僕の声だって…届くはず!
「人と精霊の、いえ、誰かとの関係というものは相互の努力があってこそ成り立つもの。今までの関係は一方的に人が精霊に頼りすぎでした。…今は王族の人たちが貴族の体質を変えようと動いてます。精霊さんとの関係も変えます。これから…魔力を込めますから、受け取ってください」
一人のこらず全て意識を変えるって一朝一夕で叶う問題じゃない。だけど、諦めない人が少しでもいれば続けていける。報酬がほしくてやるんじゃない、心からそうしたいと思うから。力を失って一人ぽっちの水の精霊さんを、自由に!
「くっ…解放して…しろ!」
魔石を封印石に当てて更に魔力を込めていく。今までの比じゃなく大量に魔力を吸われる。…頭がボーッとしてきて足元がふらつく、けど、まだ。うっすらと魔法陣が浮かぶけどゆらゆらと陽炎みたいに揺れて安定しない。………息切れしてきた。
「ヂュウ、主ッ」
もふもふの毛が首筋に当たってはっとする。意識がクリアになるとブレて見えていた
「モリーありがと、もうちょっとだから頑張る」
「ヂュヂュ、自分らがついてるで、思いきっていくんじゃ!」
「我らもだぞ」
「うん!」
シェイドさんノームさんレグちゃん
「……ッ、できた!」
封印の魔法陣の上に解放の逆魔法陣が重なってくるり回転して光り、封印石の表面が水のように波立ちうっすら向こう側に小さな魚の鱗が見えた。
「……………」
ぱしゃんと水音をたてて魚が飛び出してくる。小さな小さなメダカくらい小さな、飛び魚だ。よく見ると薄くきれいな四枚のひれが羽ばたいて滞空している。
あれ?今回は封印石割れなかったけど…。
飛び魚は鞄の紐に掴まり首をもたげたヤモリと見つめあっている。いや、言葉がわからないだけで会話をしてるのかも。火の精霊さんは水の精霊さんをとても気にかけていたようだったし。二人はしばらくそうして見つめあった後僕を振り返り頷いて見せた。
「コケコケ」
レグちゃんが翼を広げつつくように嘴を突き出す。
「…ん、いちぶだけなの」
「?」
ノームさんが気だるげに頷いて隣にいたシェイドさんも気鬱げに頷いた。
「水のは分離してしまったようである。誰かはわからぬが大半はどこかに引きずり出され、利用されておったのであろう」
「そんな…じゃあ、世界の崩壊に間に合わない…!?」
焦る僕を宥めるようにモリーが小さな体をもふっと押し付けてくる。
「ヂュ、ヂュヂュ。主、焦るでない。一部がここにおるのじゃ、あちらも完全ではないということ」
「そ、そっか。えっと封印された精霊さんの解放はしたから、次はカインさんと貴族の方をどうにかしなくちゃだね」
「…む、であるな。だが、そうだな。水のの半分以上もそちらに向かっているようだ」
「ええっ!?わかるの?」
てことは貴族陣営の誰かが……先生のあの様子が思い浮かぶ。暗い想像に身震いする。
「コケコケッ!」
「なのー。なんかちょっと変な気配なの」
「変な、って…どういうことだろ」
「…」
「ヤモリさん?え、変質した精霊?」
ぺちぺちと小さな紅葉みたいな手で頬に触れられたら何となくぼんやりとだけど言いたいことがわかった。少しは回復できたのかも?
「であるか。ならば水のはもう世代交代となるのである」
「えっ?じゃあこのトビウオさんが」
「ヂュウッ、だがこのままではこちらも完全ではなかろう。どうあれ追うべきじゃの」
精霊さんたちを見ればこちらも同意している。僕はペンダントを確かめるように触って頷いた。
行こう、水の精霊さんを苦しみと悲しみから完全に解き放ち貴族たちを何とかするために、また王都へ!
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