第九章 平凡、魔法使いになる。(異世界、崩壊)
第153話 歩みを止めずに。
「世界の半分が…?」
「コケッコー」
今のところは、と風の精霊さんが答える。
この世界のバランサーであった精霊の存在が薄れ…結果、四つの月のうち二つが姿を消した。それは目に見える変化であり、またここに住まうものたちへの警告であると言えた。恐らくこれから起こる事態へ対処せよ、と。すでに半分は壊れかけているのだと。
動悸は激しく鳴り呼吸が乱れ、魔力が暴走しそうになる。恐怖と混乱を落ち着けるため、意識して深く息をする。ゆっくり魔力を循環して目を閉じた。僕の動揺を察して三人の精霊さんは静かに見守ってくれている。
世界が終わりを迎えると言うなら今こそ、すぐにでも、カインさんのところに行きたい…!けど、投げ出せない。やるべき事をすべて置き去りにして行ったら、ちゃんと幸せにはなれないと思うんだ。
今、カインさんはカインさんのすべき事を頑張っているはずだから。僕も僕にできることを精一杯やって、胸を張って会いに行きたいから。
「ふー…」
「………」
「…さて、何しろ、先ず精霊さんの解放ですよね」
「…コケ」
気遣わしげな三対の目に苦笑する。
「完全に消えたかわからないですし弱ってまだ解放されてないだけなら、どうにかできるかもしれないし、僕は…魔法が使えるだけの平凡ですから」
「…いや、平凡じゃないと思うであるが」
「…変なのー」
「コケコケ」
「いやいや」
やっと半分解放したのにもう半分が消えてるとかヤバすぎでしょ、とは思うけど。どうにかする方法を他に思い付かないのでとにかく封印がどうなっているかだけでも見に行くことにして止まっていた足を動かすことにした。
とはいえ夜、すぐに移動とはいかず。あてがわれた部屋に戻り明日出発するために荷物の整理をしてから床につく。寝入るまでに妙な気合いが必要だったもののある程度の睡眠は得られた。
元の観光地の賑やかさが戻るところを確認したい気持ちはあったけれど、女将さんに挨拶をして街を後にする。何となく今朝は気分が悪くなることもないみたいだって言葉にちょっと安心しながら。
「シェイドさん、次はどこへ行けば…?」
「火山に火のがいるはずであるが」
「火山ですか…もしかしてカルモの居たあの」
「であるな。精霊王の雛様が居られたゆえ通常より居心地がよいと自慢していたである」
「へぇ、あれ?でも僕がカルモと会ったときには…」
「もう石のなかなのー」
「…それじゃ」
「コケコケ、コッコー」
「偶然にかけたのは世界の意思である。その時ではなかったと言うだけである」
早く気づいていればもっともっとやり易かったのではないのか、と後悔が過ったけど。たらればを言っても意味がないし、今か過去かのタイミングでそんなに違いはなかったと精霊さんたちに宥められた。
つい振り返ってしまいそうになるけれど過去を何度も悔やんだところで解決するわけじゃない。今をどうにかするのが一番だから。みんなに助けられてるなと思う。僕がしてるのなんて魔力提供ぐらいだ。だからせめて立ち止まるとしても、未来のために前を向いていようと思った。
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