第137話 辺境街の危難。

 すぐに封印を解こうにも魔力の回復が必要なので一旦ナンオウで休むことにした。

 なんだか懐かしいような愛着のわいた風景を街の南から見ながら自警団の寮を目指して歩く。

 そういえばここは王都と違って獣人が多いんだなと改めて思う。食堂の猫獣人たちはもちろん、宿に泊まる客にも色んな獣人がいた。人間と獣人が共存するところ。

 世界を見ればエルフもいるらしいけど僕が旅をしてナンオウ以外の街を見た限りでこの国には殆どいないようだ。獣人も少ないけど…特に人間が多い。大教会の絵画には獣神が描かれていたのに。

 信仰が薄れたというのも精霊封印の理由に重なるのだろうか…。


 街の入り口に近づくにつれ、異常に気づく。街道を行くひとはおろか、自警団の見まわりも姿が見当たらない。というよりひとっ子一人いないような…。

「結界があるであるな?」

「…!」

 僕自身が作って置いていった緊急用結界が発動していた。転移のついでにつけた機能だったはず…。正常に作動したらしくうっすらと幕がドーム状になって街を覆っている。ちゃんと街を守っているのはいいが、一体何があったんだ。

 角度を変えてみるとシャボン玉の油膜のようにぬらりと光る結界の様子を見ていると肩の上で休憩していたシェイドさんが髪を引っ張る。

「いたた、何?シェイドさん」

「あれのせいではないか」

「あれ、って…!」

 振り向くと一匹の獣、いや魔物が迫っていた。


 僕が飛び退くと同時に体当たりを仕掛けてくる。魔物の目的は僕かと思ったが体当たりの対象は街の結界の方だ。ずしん、と重い音が響く。結界は一瞬揺らめくもののその柔らかな幕で魔物の攻撃を弾き返す。魔物は諦めず突進を繰り返すが、結界は破れない。性能にほっとするけど、このままにしてはおけないので魔拳銃を取り出して魔物の横っ腹に攻撃をする。

「こっちだよ!」

 鬼事の真似をして声をかけながら攻撃魔法を打ち出す。

「グァガルウゥ」

 激昂した魔物がこちらに方向を変えて走ってきた。

「釣れた!こっちだよー!」

 魔物を誘導して街から引き離してから止め撃ちをする。

「氷結!」

 口に出さなくてもイメージできるけど分かりやすく言葉で言うと更にイメージしやすいと思う。叫びながら魔拳銃に魔力を込めると魔法陣が輝いて回り、氷の弾丸が射出された。魔物の眉間に着弾すると一気に凍りついていく。

「ガガァア!」

 僕の四倍ほどの体躯がゆっくりと倒れ付し凍った破片が地面に接して砕け散る。


 猪肉、と思ったけどドロドロでした。凍ってるけど。

「ゾンビ…」

 そういえば精霊封印の影響で腐った魔物が増えてるんだっけ。前に倒した蜥蜴もそうだった。熊栗鼠もそう。まさかまた、増えている、の?


 転移の魔道具が発動したあとに後追いで起動するようにお試しで設定したので大したものじゃない。転移が発動したあとのボロボロの台座でどれだけ持つか…。練習する前だったから多分あの大蜥蜴みたいのが来たらすぐに消えてる。今の猪のゾンビは魔物と言っても小物だから良かったけど。

 僕はとにかく結界を強化するよう幕から伝って上書きする。手を触れても作った本人だから反動は来ない。許可がないものは入れないように攻撃を防ぐ魔法陣を。青い光を放つ陣がキンと音を立てて焼き付いた。

「これでよし」

 手を下ろしゆっくりと結界に足を踏み入れる。結界は抵抗なく僕を受け入れた。


 入り口すぐにある買い取り屋が潰れていた。物理的に。

「…っ」

 それが視界に入って僕は無言で駆け出す。

「うわ、っであるぅう!」

 シェイドさんが髪に掴まって鯉のぼりみたいにたなびくけど構っていられなかった。


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